第2話
「それじゃあいい? 覚悟は出来てるね?」
真剣な顔で言って、美少女はぐいっと猛に顔を寄せてきた。間近で覗きこまれた瞳が、言葉以上に猛の覚悟を問うてくる。
緊張のために、猛は頷くのが精一杯だ。
「じゃあ行くよー! まずはカラオケから!」
理解不能の出会いから一晩、翌日の放課後である。猛のささやかな願いを叶えるために、彼は少女と二人で繁華街を訪れている。
いったいどんな頓狂な格好でやってくるのかとドキドキしていたら、意外にも彼女は近隣の有名進学校の制服姿で現れた。
なんと、猛の志望校である。
アルバイトというだけはあって、彼女はただの人間だったのだ。
名前は彩華。
学生証を見せてくれたので、たぶん間違いないのだと思う。
「昨日空を飛んでたのは何だったの……」
「さすがに神様の使いっ走りを普通の人が出来ないじゃない。アタシはこれで魔女見習いだからさ」
「魔女見習い!?」
「そうそう。……そんなに驚くほどのことでもないでしょ。箒で空を飛ぶのは古式ゆかしい魔女の作法じゃん」
「箒なんてあったっけ……」
「ドレスで見えなかったんじゃない?」
ドレスを着るのも魔女の作法なのだそうである。本来は黒が正式だが、神様の用を足すのなら白だと考えたとのこと。
魔女は自分でドレスを仕立てられて一人前だとか。
「わけわかんねえ……」
「そお? 君の願いもたいがいだと思うけどね」
そう言って彩華は面白そうに笑った。
美しすぎる少女だが、そうして笑うと完璧に整った顔立ちが崩れていくらか親しみやすくなる。
「それじゃ行くよ。時間もお金もそんなにないんだからさ」
顔に似合わぬ台詞をなんのためらいもなく口にして、彩華は控えめに猛の腕をひいた。