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第1話



雪が降るのだろうか。

遠く唸り声を上げて灰色の雲が勢いよく流れていくのを眺めながら、猛は考えた。

そろそろ初雪の便りをきいてもおかしくない頃だ。

そんな事を考えていたら、折よく視界を白いものがちらついた。

猛の家から学校までの間にある小さな神社の境内である。

参拝客の姿がないのをいいことに、猛は賽銭箱の横に座り込んでぼんやりと空を見上げている。

罰当たりなことなのだろうが、猛にはほかに行くところがない。

部活はとっくに引退してしまったし、田舎のことゆえ気軽に長居できる飲食店の類いもない。

行くところはないが、家に帰るのはもっと嫌だ。

それで猛はぬるくなりはじめたカイロをダッフルコートのポケットの中で握り締めながらぼんやりと空を眺めている。

本当は家に帰って勉強をするべきなのだろう。

受験生に許されることといったらそれだけなのだ。

合格してからいくらでも遊べばいい、と大人は言う。だが、猛は現実を知っている。

高校受験のあとに待っているものは、さらに過酷になるのであろう大学受験なのである。

「僕もう疲れたよ…」

声に出して呟いてみた。

ここにはルーベンスの絵もないし、寄り添ってくれる犬もいないのだけれど。

甘ったれた事を言ってるんだろう。

皆が耐えている事だと言われればそれまでだ。

それでも。

猛は毎日が苦しくてたまらない。猛のために息をひそめるような生活をしている母を見るのがつらい。

否、猛のためによかれと思って気を遣ってくれている母の、その思い遣りを素直に受け取る事のできない自分と向き合うのがつらいのだ。

俯いてひとつ大きな息をつき、猛はまた空を見上げた。猛の心が凪ぐのはいまや、ここで空を眺めている時だけである。

「…ん?」

ふと気がつけば、空をちらついていた白いものが、段々と大きくなっていた。

ひらひらふわふわと翻りながら、ゆっくりと近付いてきているようだ。

あるいは落下してきているのか。

「一反木綿?」

ぽかんと口を開けて、猛は自分が見ているものの印象を呟いた。

「聞こえてるよー」

その一反木綿は、猛のすぐそばまで降りてくると可愛らしい女の子の声で言った。

「誰が一反木綿だってー? こんな美少女つかまえて妖怪よばわりとはけしからんね、君!」

女の子のような声で喋ると思ったら、それは真っ白なひらひらドレスを纏った女の子だった。

猛とそう変わらない年頃の、美しい少女である。さすが、美少女を自称するだけはある。

「なーんてね。まあ白くて空飛ぶ妖怪の中じゃメジャーどころだよね、一反木綿って」

ふわりと地面に降りたって、美少女は猛に向かってにっこりと微笑んだ。

「だ、誰?」

「一反木綿に見える?」

根に持たれているようである。

猛は開いたままになった口を手で隠すふりをして無理やり閉じた。

「一反木綿には見えないけど、それ以上にやばい存在ものに見える」

なにより美しさが常軌を逸している。

それにそのドレス。

向こうが透けるくらい薄い生地を幾重にも重ねたスカートに防寒性があるとは思えない。それなのに少女は、寒がる素振りさえないのだ。

「失礼なことをはっきり言うねー。否定はしないけど」

ふふん、と謎に不敵に笑うと少女は傲然と言い放った。

「アタシは君の願いを叶えるために来たの。ざっくり言うとそのために遣わされた神様の子分ってとこだね」

神様の……子分?

「…って言っても、アルバイトだけど」

なんだそりゃ。

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