第四章☆染色体
大統領選挙で、ザイロという男が初当選した。
彼は様々な公約を掲げたが、中でも「優生保護法」が注目を浴びた。
誰もがヒトとして保護されて然るべきであるが、この頃には染色体異常のヒトが優勢になりつつあり、どんなくくりでどう保護されるのか論議の対象となった。
「ヒト」とは本来染色体数が46のものを指すのではないか?
しかし、カエルの研究で有名な生物学者が、染色体異常も進化の過程で出てくる当たり前の事例であるとして、ヒトの染色体数にこだわらない。と、いうよりもむしろ、人口が減り続ける46染色体のヒトを保護するようにとザイロ大統領に口添えしたため、選挙で優勢になったのだった。
「ヒトは保護されるべきであり、特に古き良き時代に栄えた46染色体のヒトの減少を食い止める方策」としてその「優生保護法」は成立した。
「本日は、最近数を増やしつつある、第三の目をもつヒトの研究で有名な、アップルビ氏にお越しいただきました」
ゴールデンタイムの生中継でアップルビ氏がTV番組に顔をだすようになった。
「彼らは染色体が50あり、微細な超能力を生み出す能力があります」
「そこまで違うと、もう、別の生き物じゃないのかね?」
「彼らは46染色体のヒトと同様に喜怒哀楽をもつ、本物のヒトです」
「46染色体を罵倒するか?!」
「いえ。お互いに共存共栄していくべきだと考えております」
回を重ねるごとに不利になりつつあったアップルビ氏は、シリを連れてTV番組に出向いた。
「美少女だ…」
誰もが息を飲んでいる中で、シリは前髪をそっとかきあげて、第三の目を見開いた。
この映像はセンセーショナルを巻き起こして、他の動画番組などで何万回も視聴された。
まるで客寄せパンダだわ!とシリは内心心穏やかではなかったが、素敵なドレスを着て化粧した自分をみんながみているのはむねがドキドキした。
「女優にだってなれるぞ!」
アップルビ氏がシリの士気をあげようと褒めちぎった。
「いずれ、彼女は伴侶を必要とするでしょう。50の染色体を持つ男性です」
「ちょっと!私はそんなこと考えてない!」
「自然の摂理に逆らうつもりかね?」
「…」
まるでお見合いね?!TV番組をみていた50染色体の男性の登場を待つつもりなんだわ!
「シリ」
「…。ブルース」
「一緒にここから逃げ出さないか?」
病棟ですれ違うとき、ブルースがシリに耳打ちした。
今が出てゆく時かしら?
シリは、夕食後の長い夜の時間に第三の目で錠を開けた。
ブルースは?連れて行くべきだろうか?なにか騒ぎになるのじゃないかしら?
「シリ。出てゆくのかい?」
「!?」
アップルビ氏がそこにいた。