第三章☆縫合
アスランは、思いつくことはなんでも出来た。周囲の王様に成り上がり、のぼせ上がっていった。
アスランの母親は、危惧していたが、ある日、本当に他人を奴隷のように扱っているのを目撃して、心を決めた。
「アスラン、こっちへいらっしゃい」
「母さん。今面白いところなんだよ」
ユーチューブで人がひどい目に合う特集を歪んだ笑いで見ていたアスランに、母親は第三の目で指示した。こっちへきなさい!
「はい」
アスランは魂が抜けたみたいになって母親に操られるまま、母親の部屋に入っていった。
アスランの母親は、痛くない!とアスランに暗示をかけると、アスランの第三の目のまぶたを針と糸で縫合してしまった。
「あなたにはこれでちょうどいいはず」
本当の危機には再びこの目は開くことだろう。そんな日が来ないことを願いながら、母親はアスランに人として大事なことを一から学ばせようと決意していた。
我思う故に我有り。
しかし、自分以外の人々もそれぞれ人格を持った人間である。自他を尊重すること。他人の身になって考えること。
物を大切にすること。物言わぬ事物にも魂が宿ると考えること。事物の存在意義に沿った扱いをすること。そうすれば、ネジ一本でさえおろそかにできやしない。
アスランはおとなしくなったが、自転車の修理や、機器のメンテナンスに嬉々として取り組むようになった。
自分の感情をコントロールすること。
理性を働かせること。
アスランに友人が少しづつ増えていった。
「アスラン」
「はい、母さん」
「自分と向き合って考えるのよ」
「うん」
母親はもうずっと前から自力で第三の目を閉じていた。
アスラン母子は地域の人々に溶け込もうと努力していた。
それは、きっと、進歩だろう。