第一章☆アップルビ財団
シリは、もう数え切れないくらいのため息をついた。
白い病棟に隔離されて、検査検査の毎日。
「シリ。調子はどうかな?」
院長の回診のとき、シリは、決まってぐちをこぼす。
「外へ出たいわ…」
「外よりここが安全だよ」
そんなことを言って、いい実験体だとでも思われているのだろう。
シリはジレンマを感じていた。
院長のアップルビ氏は財力に物を言わせ、浮浪児同然だったシリをここでかくまってくれていた。恩人でもあった。
憎むべき?それとも崇拝すべき?
シリの心はいつも揺れていた。
「私って、そんなに珍しいの?」
「そうだなぁ…。今世紀に入ってから君に似た症例の人が増えてきている。実際に調査したら、それこそものすごい数かもしれない」
症例、とアップルビ氏は言ったが、厳密には病例ではない。
「ふつーって、どこで決めるのよ?」
「いやいや、はっはっは!」
今日も煙に巻いて彼はシリの病室を去っていった。
ガチャリ。
錠の落ちる音。
今はここから出られない。
でもシリは夢で見たのだ。
自分の額に第三の目が開眼して、たやすく錠をはずし、外へあっけなく出られることを彼女は知っていた。
なにか、きっかけが来るまでここにいること。
第六感がそう告げていた。
それまで、なにを希望にしていればいいのかしら?
アップルビ氏が本当のことを言っているのであれば、仲間がいつか迎えに来るかもしれない。
夕日が病室を照らしていた。カーテンをしめながら、赤い太陽を見た。
チャイムの曲が遠くから流れて、時刻を告げていた。
夕食まで小一時間。手持ち無沙汰だった。