誘われし軽トラ
「ようこそ、異世界イグリーシアへ!」
「ブロン?」『なんじゃそら?』
「つまりですね、あたなは異世界に転移してしまったのです」
「ブロロン!」『おう、所属転換か。どんとこいや!』
「いえ、所属転換とかではないです。もっと大きな……何て言えばいいかな…………え~とですね、この世界はあなたが走り回ってた世界とは違い、剣と魔法のファンタジーな世界なのです……と言えば分かりますか?」
「ブロン!」『分かんね』
「ダメだこりゃ……」
困りました。
私ことミジェーネは困ってます。
何故かと言えば、今目の前にいる転移車の事なのですが、本来この車はイグリーシアにやって来る事はなかった筈なのです。
ならばどうしてここに存在するのか……それを説明するには時間を遡らなければなりません。
「……もうそろそろですね」
今から10分後に、この交差点での事故により、1人の少女が異世界に転移する事になります。
その少女はこことは違う世界で勇者として迎えられる存在です。
その勇者のサポートをするのが女神である私、ミジェーネの役目となります。
「あ! あの少女ですね……」
対象の少女がやって来ました。
既に日が落ちて暗い中で、呑気に歩きスマホとは少々無用心かと思われますが、そこはイグリーシアに転移してからキチンと教える事にしましょう。
少女は片手でスマホを持ったまま横断歩道を渡ろうとしています。
しかし、そこへ居眠りドライバーの運転する軽トラが猛スピードで突っ込んできました。
このまま放って置けば、この少女の生涯はここで終わってしまうでしょう。
ですが、その命は散らせません!
少女はふと顔を上げると迫り来る軽トラに気付くがもう目の前まで来てしまってます。
そのまま少女は何も出来ずに立ち尽くし、軽トラと少女が接触する瞬間!
「今です!」
少女を中心に眩い光が放たれるが、それは一瞬で消え去った。
光が収まると、その交差点には少女と居眠りしていたドライバーだけが残されていた。
「よし、転移完了しました。後は目が覚めた時にこの世界の事を説明し……ぇええ!?」
驚きました!
転移した筈の少女が居ない代わりに、事故の原因となった軽トラが目の前に居たのです。
「私……トンでもない物を連れて来てしまいました……」
そんな訳で、今も必死に事情説明を行ってるのですが、残念ながらあまり理解されてないようです。
ですがこのまま放置する訳にはいきません。
本来召喚される筈だった勇者の代わりに、この軽トラに頑張ってもらわねばならなくなりました。
「ブロンブロン!」『ところでミジェーネさんよ、何で俺の言葉が分かるんだ?』
「それはですね……」
異世界に召喚された者は、そのままだと言語が通じないので、【相互言語】というスキルが強制的に備わるようになってます。
まぁ、転移特典とでも思ってもらえればいいでしょう。
それに上乗せしてこの軽トラの場合は、自我が芽生えるという副産物までついてしまいましたが。
ですがこれだけではこの世界を生き抜く事は難しい。
せめて戦闘の役に立つスキルを与える必要があります。
という訳で……、
「どのようなスキルが宜しいですか?」
「ブロン!」『分かんね』
「……こちらで適当に付与します」
スピードが有るようなので、風属性の魔法にしましょう。
これなら軽トラとの相性も良いはずです。
さて、そろそろ実戦を利用してチュートリアルと行きましょうか。
「ではトラさん、私達がいる場所は草原となってますが、北の方に……つまりあっちの方に森があります。その森の入り口付近にゴブリンの反応がありますので、軽く蹴散らしてみましょう」
「ブロロロン!」『おう、任せろや!』
言うや否や、軽トラは森に向かって走り出しました。
私も急いで後を追いかけます。
「ブロブロン!」『終わったで!』
「早っ!」
見れば5匹のゴブリンが轢き殺されてました。
魔物と言えど、時速60キロオーバーで軽トラに突っ込まれたら、一溜まりもありませんでしたね。
もうこの軽トラに教える事はなさそうです。
あ、そうでした!
「言い忘れてましたが、燃料は魔力(MP)を消費する事で賄えるので、覚えておくとよいでしょう」
「ブロロン!」『おう、分かったで!』
「では最後にあなたの使命ですが、この大陸……と言っても小さな島国ですが、邪王という強大な魔物に従っている四天王の1人がこの島国にやって来ます。その邪王の四天王を倒す事……それが使命です」
「ブロロン?」『んで、ソイツの名前は?』
「その者はハーレンティスという名前です。ではお行きなさい、トラさん」
「ブロンブロン!」『おう、やったるで!』
そう言ってトラさんは走り去って行きました。
「この国の命運……あなたに託します」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
さぁさぁ、やって来ました異世界イグリーシア、剣と魔法のファンタジーな世界だ。
そんでもってこの世界に呼ばれたのは、ななな、なんと! 軽トラァァァック!
その軽トラが女神から使命を受けたってんだから大変だ!
そんな軽トラのトラさんは、街道をひたすら走ってるぞ~ぅ。
「キャーーーッ!」
おおっと、ここで女性の悲鳴だ!
さぁどうするどうする?
「ブロロロン!」『勿論助けてやらぁ!』
そうこなくっちゃ!
そんでもって前方に見えるのは、むさい男達に囲まれた2人組の女性だ!
さぁさぁ道を空けろ野郎共、トラさんのお通りだぜ!
「プップーーーッ!」『どけっ! バカヤロウ!』
「あん? なんだこの馬S「ブッフェッ!」
へい、1丁上がり! 近くに居た男を1人撥ね飛ばしたぜ! 次はどいつだ!?
「な、なんだこの馬車は!?」
「いや、そもそも馬がいねぇぞ!」
「くそ、コイツ化け物か!?」
おおっと、奴さんは怖じ気付いちまってるようだ。
だが化け物扱いたぁ感心しねぇぜ、こいつぁ仕置きが必要かぁ?
「落ち着けお前ら! おいテメェ、俺らをただの盗賊だと思ってんじゃねぇだろうなぁ?」
「ブロロン?」『違うってぇのか?』
「おうよ、俺達ぁ泣く子も黙る大盗賊団、その名も、凶悪悲劇のヒーロー殺しインテリ集団、略して【悲劇のヒロイン】だ。どうだ、テメェも知ってるだろうが!?」
「ブロン!」『分かんね』
だよなぁだよなぁ知る訳ないよなぁ。
なってったって、こっちに来たのはついさっきだしなぁ。
「くそぅ! 俺達を知らねぇたぁどこの田舎もんだ! 構いやしねぇ、やっちまえ!」
「「「おぅ!」」」
おぅおぅおぅ、燃えてきたねぇ!
男なら正面からぶつかり合わねぇとなぁ!
さぁトラさん、出番だぜぃ!
「ブロロンブロン!」『決めるぜ、アクセルターン!』
「ゲハァ!」「ブベッ!」「ゴッハァ!」
出たぁ! 門外不出、トラさんのアクセルターンだぁ!
さぁさぁ、賊の残りは後3人だ。
まだやるってんならトラさんのトップギアを見せてやろうぜ!
「に、逃げろ~!」
おおっと、一目散に逃げ出したぞ!
だが残念無念、普通の人間がトラさんを振り切る事は出来やしねぇのさ!
「ブロロン? ブロン!」『帰るのか? なら手伝ってやるぜ!』
ドゴォッ!
「「「ゲッハァッ!」」」
憐れ盗賊達は追突されて何処かへとぶっ飛んでったぁ!
てかこれ、アジトにぁ帰れんちゃう?
ま、代わりに土に還るから問題ないさ~!
「あ、あのぅ……助けて下さってありがとう御座います!」
「ありがとう、私1人だと手に終えなかったところだ」
さぁてお待ちかね、助けた女性のお礼タイムだ。
今回のお礼は如何程かなぁ?
「わたくしはサザンブリング王国の王女、フローラです。わたくしに何か出来る事があれば……」
「ひ、姫様、それは……」
「ブロロロン!」『へ、良いって事よ。礼には及ばねぇぜ! こちとら困ってるから助けただけよ!』
いいねいいね、対価を求めぬその姿勢は素晴らしいぞ!
「そ、そんな、せめて何かお礼を」
「ブロン? ブロンブロン!」『そうかい? だったら1つ頼まれてくれや。俺ことトラさんはよ、女神の依頼で四天王のハーレンティスって奴を倒さなきゃならねぇのよ。ソイツの居場所が分かれば有り難ぇ』
おお、いいぞトラさん、理想的な要求だぜ。
「姫様、もしや街を襲ったあの輩がハーレンティスという奴なのでは……」
「……かもしれません」
んん? どうやら知ってるっぽいぞ?
「トラ殿、実は我々が居た街がそれらしき魔物に襲われたのだ。その魔物は恐ろしく強く、逃げる事しか出来なかった。そして追手を巻き、なんとかここまで逃げてきたが、不幸にも盗賊に襲われたという訳だ」
成る程成る程、見えてきたぜ。
恐ろしく強いってんなら可能性は大有りだ。
「しかし、その危険な場所に姫様をお連れする訳には……」
「ブロロ」『ああ、それもそうだな』
「いえ、ご案内致します。これは何かの縁だと思うのです。いえ、きっとそうです。それにトラ様ならもしかして倒せるのかもしれません」
「ひ、姫様、それは危険です! せめて姫様だけでも安全な場所に……」
「それはなりません。今この国に危機が迫ってるという時に、わたくしだけ安全な場所で見ているだけでは示しがつきません。ですからわたくし達も一緒に参るのです。宜しいですねレティス?」
「分かりました。そこまで仰るのでしたら参りましょう。もしもの時はこのレティス、命にかえても姫様をお守り致します!」
どうやら覚悟は決まったようだぜ?
ならば行きましょお約束!
ガチャ!
「ブロンブロロン!」『さぁ乗ってくんねぇ。こいつでひとっ走りよ!』
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「は、速いですね! こんなに速い馬車は見た事も聞いた事もありません!」
「確かに。しかも馬が必要無いとは……」
さぁさぁ姫様と従者の乗車した軽トラが、街に向かって走ってるぜぃ。
そしてこのお2人、あまりの速さに驚いてらぁ!
『お2人さんよ、演歌聴くかい?』
「エンカ……ですか? よく分かりませんが聴かせてください」
街道を突っ走りながら演歌をながす!
過去にこんな輩は居なかったに違いねぇぜ!
「聴いた事のない歌ですね……」
「ですね……それに歌の中に出てくる男の花道とは何の事でしょうか?」
『道ってなぁ1つじゃねぇ。人の数だけ道は有るのさ。その意味は人によりけりよ』
「成る程……」
「深いですねぇ……」
『お前さんらはまだ若い、じっくりと自分の道を探すといいさ……おっと、レティスさんよ、ソイツに触れないでくれ、俺のリビドーが開放されちまうからなぁ』
「す、すまない……」
おやおやおやおや、女性陣との親睦が深まってるじゃあーりませんかぁ。
だがトラさん、親睦を深めるのは終わりだぜ。
なんてったって、街が見えてきちまったんだからさぁ。
「あの街です。あのマドアの街で恐ろしく強い魔物に襲われて……」
よく見りゃ街の外壁が、あっちこっちとデコボコだぁ。
しかも地面にゃ瓦礫の山ときたもんだ。
こいつぁ撤去作業が必要かぁ?
「姫様、どうやらあの魔物はいないようです」
「ブロロン?」『そんなら街に入ってみるかい?』
「はい、行きましょう」
姫様ぁ腹を括ったようだ。
そんなら入場しちゃいましょ!
さぁさぁトラさんのご入場だぜ!
「ひっ……馬車?」
「なんだこの馬車は?」
「まさか奴等の仲間じゃ……」
おいおい、間違っちゃ困るぜ。
こちとら勇者ならぬ勇車様よ、その名も軽トラのトラさんだ!
「皆さん落ち着いてください。この方はトラさんです。あの魔物を討伐に来てくれたのです」
「あ、フローラ様だ!」
「本当だ、無事だったんだ!」
「姫様……無事で良かった……」
勿論無事だぜ、なんてったって、トラさんがついてるんだからなぁ!
そうだろトラさん?
「ブロンブローン!」『おうよ! この軽トラのトラさんがぶちのめしてやらぁ!』
いいぞいいぞ、その意気だトラさん!
「なんだなんだ、この妙な馬車は! 我が主ハーレンティス様に刃向かうつもりか!?」
おおっと、なにやら人間サイズの黒いゴリラがやって来たぜぇ?
「お逃げください姫様! コイツは襲撃してきた魔物の部下です!」
ほほぅほぅほぅ、目的とは異なるが、ソイツの配下となりゃ見過ごせねぇ。
「フン、雑魚共が……まだ己の立場を理解してないようだな! それに姫と言ったか? ならば拘束させてもらおう」
奴が姫様に近付いたぞ!
急げトラさん、今こそ(アクセルを)踏み込む時だ!
「ブロロンブロン!」『しゃらくせぇ! ふざけた輩は轢いてなんぼじゃ!』
いいぞトラさん、それでこそ我らのトラさんだ!
急発進したトラさんは、敵に向かって一直線だぜ!
「む? 貴様も我らにブベラッ!」
おっしゃあ! 生意気な輩の土手っ腹に直撃だぜ!
だが奴はまだ生きている、立ち上がる前に追撃だ!
「く、くそぅ……いきなり襲ってくるとはなんと卑怯な輩グギァァァァァ!」
「ブロロロン!」『るっせぃ! 世の中ぁな、やったもん勝ちなんだよボケが!』
やったぜトラさん、景気よく奴の胸元まで乗り上げたぜぇーーぃ!
「む、無念……」
「ブロンブロンブロン!」『敵将、討ち取ったりぃ!』
「「「おおお!!」」」
見てくれトラさん、この大歓声を、街の人達の笑顔を、君はこのマドアの街で英雄になったんだ!
「ぐ……まだだ……まだ終わりではないぞ」
おおっとぉ? まだ奴は生きてるぞ!
カウント10まで間に合うかぁ?
「ククククク、我が死んだところでハーレンティス様は不滅。貴様では勝てないであろう。何故ならハーレンティス様は我の10倍は強いのだ、貴様程度では太刀打ち出来る訳がないのだ。どうだ、貴様の絶望的な立場が少しは理解出来たか?」
「ブロン!」『分かんね』
「く、口惜しやぁぁぁぁぁ!!」
さすがだぜトラさん!
細けぇ事は気にしねぇ、それが男の器ってもんだ!
「ありがとう御座いますトラ様!」
「ブロロンブロン!」『なぁに、いいって事よ。それよりハーレンティスはどこに居やがんだ?』
そうだぜトラさん、ソイツを忘れちゃなんねぇよ。
「そうですね……姫様、トラ殿の言う通り、あのハーレンティスという魔物がどこにも見当たりません」
「……おかしいですね、あれだけ派手に暴れてたというのに、いったいどこに……ハッ、まさか奴は、ブレンヒルド城に!?」
おっとっと、何やら雲行きが怪しいぞ?
「ブロンブロン?」『ブレンヒルド城? つー事は何かい、お2人さんの居城が襲われてるってぇのかい?』
「そうです! もしこの島国を制圧するつもりなら、ブレンヒルド城が……お父様の居る城が危ない!」
こいつぁ一大事だ! この島国を救うため、我らがトラさんの出番だぜぃ!
「ブロブロブロロン!」『こうしちゃいられねぇ、急いで城に向かうぜ! お2人さん、さぁ乗った乗った!』
「はい、お願いします!」
「かたじけない、トラ殿」
「ブロロロロン!」『今度はちょいと飛ばすからよ、シートベルトを忘れず宜しくぅ!』
さぁいてまえトラさん、ブレンヒルド城までかっ飛ばそうぜぃ!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「さ、先程よりも速いです、トラ様!」
そうだろうとも、女神にもらった風魔法は伊達じゃねぇのさ!
そんなこんなで、時折見えるゴブリン共を撥ね飛ばしながら、やって来ましたブレンヒルド城。
しかし、そこは既に戦場と化してたのだ!
城門は破られ、敵は既に城内だ!
急げトラさん、今こそ(アクセルを)踏み込む時だ!
「止まれぃ! 貴様は何者だ! この城の者か!?」
どうやらすんなりたぁ行かねぇようだ。
コイツもハーレンティスの部下に違いねぇぜ。
「ブロブロン?」『だったらどうするってんだぁ?』
「決まっている、この城の者は残らず捕らえよと仰せつかっているのだ。貴様も捕らえてくれよう!」
人間サイズのキリン顔がほざきやがらぁ!
どうするトラさん、売られた喧嘩は買わなきゃ損だぜ?
「トラ様……」
「ブロロン!」『姫様よ、心配すんねぇい。ここはトラさんに任せとけって!』
「む? まさか逆らうつもりか? 止めておけ。逆らえば五体満足じゃ居られんぞ?」
おぅおぅ、言うねぇ。
だがその強がりもここまでだぜ!
こっちにはトラさんが付いてんだかんなぁ!
「ブロンブロン!」『上等だゴルァ! このトラさんに喧嘩売るたぁいい度胸だ! お前なんざぁ一捻りよ!』
「……面白い。そこまで言うなら手加減はせんぞ。ハーレンティス様の部下であるこのモルモッツゥが相手をしてくブゴォ!」
決まったぁ! トラさんの先制攻撃、追突をお見舞いしてやったぜぇ!
「ブロンブロン!」『オラオラァ! そんなんじゃこのトラさんは止められねぇぜ!』
「グオォォォォ! や、やめろぉぉぉ!」
やったぜトラさん、コイツの胸元まで一直線に乗り上げたぜ!
そんでもって、軽快にメキメキメキって音が響きわたるってもんだ!
「お、おのれぇ……だが俺を倒したところでハーレンティス様には敵うまい。所詮俺はハーレンティス様の手駒の1つでしかない。俺のような存在は掃いて捨てる程いるのだ。この意味が分かるか?」
「ブロン!」『分かんね』
「グハァ! も、申し訳ありませぬハーレンティス様。敵は想像以上にアレでした……グフッ」
おっしゃ! このまま一気に乗り込もうぜ!
「ブロロン!」『王様んトコまで一気に行くぜ! 姫様よ、案内頼むぜ!』
「はい、任せてください!」
行くぜトラさん、目指すは国王の居る最上階だ!
目指す途中でライオンやカバの顔した連中をなぎ倒しまったが構いやしねぇ、こちとら急いでんだ!
まぁまぁまぁ、そんな輩は置いといて、やって来ました最上階。
そして露るハーレンティスの面。
見ろよトラさん、でっけぇゾウの顔したタキシード野郎が王と兵士を追い詰めてやがる。
コイツがハーレンティスに違ぇねぇぜ!
「ブロロロン?」『おう、ハーレンティスってなぁテメェの事か?』
「いかにも、わたくしがハーレンティスですが、貴方は誰です?」
「ブロンブロロン!」『名乗る程のもんじゃねぇ。だが強いて言ぇや軽トラのトラさんよ! ハーレーだかハレンチだか知らねぇが、テメェのようなカマホモ野郎に、この国を好き勝手にゃさせねぇ!』
決まったぁ! ここぞとばかりにビシッと決めたぜ!
あのカマっぽい野郎に宣戦布告だぁ!
「ふむ、少々鼻息の荒い者のようだ。ならばわたくしに挑んだ事、後悔させて差し上げましょう!」
あっちもあっちでやる気充分だ。
「ブロロン」『お2人さん、降りてくんなぁ。ここからは奴とのタイマンだ』
「分かった……姫様」
「はい。トラ様、ご武運を……」
トラさんから降りた2人の女性に、兵士達が気付いたぞ。
「ひ、姫様だ!」
「本当だ、フローラ様だ!」
「よくぞご無事で……」
そしてそして、感動の父娘の再会だぁ!
「お父様!」
「フローラ! 無事で何よりだ」
「はい、あのトラ様に助けていただいたのです」
「トラ様……とな?」
「あのハーレンティスという魔物に挑んでるお方こそ、勇者様に違いありません」
国王の見つめるその先には、我らがトラさんがクライマックスを迎えていたぞ!
「ブロロロン!」『行くぜ! 猪突猛進よ!』
「あまいですよ。見たところ風魔法を纏ってるようですが、その程度ではこの障壁は破れグボァッ!」
いったぁあ!
ハーレンティスの障壁を突き破ったぜ!
「ぐぬぅぅぅ……少々甘く見すぎたようですね。ならば本気でいきますよ!」
おおっと、ハーレンティスの奴ぁ空高く舞い上がったぞ!
「さぁ、ひれ伏しなさい! 魔力吸収!」
ハーレンティスのスキルだ、気を付けろトラさん!
「ブロロン?」『何!? 魔力が……』
「貴方に付与されてるのは風属性のようだ。ならば魔力さえ吸収してしまえば、恐れる必要はないとう事になりますね」
なんてこったい! これじゃあ威力が半減だ! どうするトラさん!?
「食らいなさい、ロックバレット!」
こいつぁマズイぜ、無数の岩石が城の天井突き破ってご登場だぁ!
「プップー!」『くそっ、避けきれねぇぜ!』
ああっと! 幾つかの岩石を食らっちまった! 大丈夫かトラさん!?
「ククク、中々タフなようですが、これで終わりにしましょう」
「な、なんだこの強大な魔力は!?」
なんだなんだ? ハーレンティスの身体から魔力が溢れてらぁ!
この現象に思わず国王も真っ青だ!
「これ程の魔力で攻撃されれば、この城は一溜まりもありません!」
国王に続き姫様も真っ青だ!
さぁどうするトラさんよ!?
「ブロロン!」『クソがっ! やるしかねぇぜ! おい皆、俺に魔力を分けてくれ!』
「トラ様……分かりました。皆の者、聞いての通り、トラ様に魔力を注ぐのです。ハーレンティスを倒せるのはトラ様しか居りません!」
姫様の号令だ! 皆がその声に頷く。
兵士が
近衛が
宰相が
レティスが
国王が
皆が一斉に魔力を供給したぞ!
素晴らしきかな、皆の思い!
さぁ受け取れトラさんよ、そして皆の思いを1つに!
「ブロンブロロンブロロロン!」『来たぜ来たぜ来たぜ! このトラさん、一斉一代の大勝負よ! 食らいやがれぇ!』
再び風を纏ったトラさんが、上空にいるハーレンティス目掛けて飛び上がる!
「む? まだ刃向かうというのですか。ならば仕方ない、再び魔力を奪うまでです」
『遅いぜバカヤロウ! 上空に飛び上がればこっちのもんよ! 今こそ見せてやる、このトラさんのトップギアをよぉ!』
来た来た来た来たぁ! 更に加速したトラさんは、一気にハーレンティスをぶち抜いたぁ!
「へグボガァ!!」
『まだだ、これがトドメの一撃だぁ!』
こいつぁスゲェ! 落下のタイミングに合わせて車体を回転させやがったぜ!
『ライジングゥ……アクセルターーーン!』
ドゴォォォォォン!!
「グゲブボワァ!!」
っしゃあ! ハーレンティスに直撃だぁ!
そのままハーレンティスは、間下の岩山に激突だ! こいつぁ見事としか言い様がねぇぜ!
「お、おのれ……まさか貴様が勇者だったと言うのか……邪王様、申し訳ありません、任務は失敗で……ガハァ」
やったぁ! ハーレンティスを倒したぞ!
トラさんは皆の英雄だぁ!
ドボーーーーーン!!
ん? どうしたトラさん、何があった?
『奴を倒したまでは良かったが、俺はそのまま海へ真っ逆さまさ。最後の最後でドジっちまったぜ……』
嘘だろトラさん!? アンタはこんなところでくたばるタマじゃねぇはずだ!
「そ、そんな、トラ様が!」
「な、なにをしておるお前達、さっさとトラ様を救出するのだ!」
「「「ハッ!」」」
皆がトラさん救出に動いたぞ! 頑張れトラさん! 諦めるなぁ!
『ちっきしょう、少しでも魔力を残しとくんだったぜ……だが、こんな最後も悪かねぇな』
トラさーーーーーん!!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「あれからもう1年ですか……早いですね、月日が経つというのは……」
「思い出していたのですか? 当時の事を」
「ええ。ハーレンティスに襲われ、逃げた先では盗賊に囲まれ、もうダメかと思いました。ですが私達は救われました、英雄によって……」
「はい。しかしトラ様は……」
「ええ、トラ様は帰ってこないでしょうね……」
「明日までは……」
「それは仕方ないですよ、例えトラ様でも往復で2日は掛かる距離ですから」
「早く帰ってこないかしら。わたくし久しぶりにドライブをしたいですわ!」
「姫様、確か2日前もドライブした筈では?」
「……早く帰ってこないかしら」
「……誤魔化しましたね」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ブロロン!」『へいお待ち! 国王様からの書物だぜ』
「うむ、ご苦労であった、トラ殿」
「ブロンブロン!」『そんじゃあ俺は行くぜぃ!』
「もう行かれるのか? 噂通りタフなのだな」
「ブロン!」『おうよ、姫様が待ってるんでな、早く帰んねぇと拗ねちまうのよ』
「むぅ、それは難儀な事だ。貴殿なら心配無用だろうが、道中気を付けてな」
「ブロロン!」『おう、任せとけ!』
「それからもし国王に……既にいないとは凄まじい速さだな……」
「ここに居ましたか」
『おう、いつぞやの女神さんじゃねぇか。元気してっか?』
「ええ、まぁそれなりに」
『そうかい。それにしてもアレだな、女神さんは俺のスピードについて来れるたぁ驚いたぜ』
「女神ですので。それよりも貴方に聞きたいのですが……」
『なんでぇ、やぶから棒に?』
「貴方に与えた使命は果たされました。本来なら貴方を元の世界に帰すのが道理だと思ったのです。しかし貴方からはその意思が感じられません。貴方は元居た世界に帰りたいとは思ってないのですか?」
『…………まぁ、最初は帰りてぇとは思ったな。けどよぉ、良くも悪くも俺ぁこっちの世界に馴染んじまった。いまさら帰るなんざ考えられねぇよ』
「そうですか。ではこの世界を存分に謳歌して下さい。使命を果たしていただき感謝します。では……」
『俺はこの世界が気に入っちまったのさ。……まぁ、アレよ。心残りっていやぁ荷台に積んだ大根を運び損ねたくらいだなぁ。配達先の山田さんには悪いと思ってるけどな。ガッハッハッハッハッ!』
さて、ちょうど時間と成りました。
名残惜しいがご勘弁。
それでは皆の衆、異世界よりグッバーイ!
お読みいただきありがとう御座います。
この作品は【誘われしダンジョンマスター】のサイドストーリーとなっておりますので、ちょっと気になるな~って人は是非本編をお読み下さい。
尚、本編にはウザい実況はありません。