27.貴方の推理が好き
晃は会計を済ませた後、本屋の外に出て、鞄に本をしまってから、本屋のレジ付近へと戻った。
丁度、熊城が晃の元へ、一枚のメモを携えやって来た。
「熊城さん!
ありがとうございますっ。」
「法水さん。
他の店員からも、斎藤さんをよく見かけたと、聞きました。
そして、最近……一週間くらいは、見ていないとも。
このメモには、こちらの情報……
と言っても、口頭で伝えた以上の事は、無いですが……
書いておきました。」
晃は熊城から、メモを受け取った。
「いえ!
ありがとうございます。
あっそうだ!
熊城さん。
さっきの白髪の子……
熊城さんのお知り合いじゃなくて、双子の弟さんでしたよ。」
「へぇ……!
あの子、双子だったのか……。」
「え、知らなかったんですか?」
晃がそう訊くと、熊城はバツが悪い顔をし、話を逸らした。
「ま、まあね。
それより、法水さん!
そのメモ、お役に立ちそうですかね?」
「はいっ!
今は、パッとは閃かないんですけど……
何か、突破口を開いてくれそうな、大きなパワーを感じます!」
「そうっすか!
それは良かったっす。」
笑顔の熊城とは対照的に、晃の表情が曇った。
「……ごめんなさい。
僕は、人違いの……
酷い推理をしてしまったのに、情報は受け取ってしまって……。」
熊城は、真面目な顔をして、少し黙った後、口を開いた。
「確かに、人違いでした。」
「………。」
「……でも俺は、
法水さんの推理、好きっすよ。」
熊城は、そう言うと、ニカッと歯を見せて笑った。
晃は一瞬、何を言われたのか分からず、ポカンとした。
「推理が……好き……?」
「ええ。
……実は、貴方がどんな推理をするのか、期待していたんすよ。
貴方が、あの名探偵・法水麟太郎の曾孫である事は、知っていましたからね。
そしたら、期待通り……
いや、それ以上の推理を、俺に披露してくれた。
今は、それで十分っす。」
熊城は、晃が手に持つ、メモを見た。
「そのメモ、誰かの冤罪を晴らす為に、使うんすよね?」
「あっ……はい!」
晃は、熊城にその話をしていた事を、思い出した。
「つまり貴方は、現在進行形で、何かの事件に取り組んでいるわけだ。
……真相に、辿り着いて下さいね。」
熊城は、真剣な表情で、そう言った。
「!
……はいっ!」
熊城は、にこりと微笑むと、晃に半分だけ背を向けた。
「じゃあ俺は、本業に戻るとしますよ。」
「ありがとうございましたっ!」
晃が熊城を見送った後、支倉が晃の元にやって来た。
「支倉くん!」
晃は長い間、支倉と離れていたような気がした。
「坊ちゃん!
蕗屋の姿を、店員たちは、見ていないようです。
ですが、斎藤の方は、頻繁にこの本屋に、買いに来ていたようですよ!」
「うん。
僕が持っている情報も、支倉くんと同じだよ。」
「さ、流石坊ちゃん……!
聞き込みは、初めてだったのに……。」
晃は、悪いなと胸を痛めつつ、微笑んだ。
そして、熊城から受け取ったメモを、支倉に見せた。
「支倉くん。
僕は更に、こんな情報も入手したよ。」
晃は、斎藤が最後に買った二冊を、指差した。
「シェイクスピアの『ハムレット』と、
ドストエフスキーの『罪と罰』
……ですか。」
「うん。」
その時、晃の頭にピンと、閃いた事があった。
「ねぇ、支倉くん!
この二冊も……
じゃなくて、二冊を、買って行こうよ。」
「えっ、何故ですか?
坊ちゃん。」
晃は、麟太郎の推理披露を、頭の中でザーッと流してから、彼を意識するように、話し始めた。
「支倉くん。
そもそも、斎藤さんは何故、ここで頻繁に、本を買っていたと思う?」
支倉は、腕を組み、考え始めた。
「……熱心な読書家、なんじゃないでしょうか?」
「その線も、捨てきれないね。
……ただね、支倉くん。
斎藤さんは、約一週間前から、この本屋には、訪れていないんだ。」
「えっ!
そうなんですね……。」
「妙だとは、思わないかい?」
「確かに、妙ではあります……。
でも、何故……?」
「単純に、買う必要が無くなったから、来なくなったんじゃないかな。」
「買う、必要……?」
「支倉くん。
約一週間前、何が起こったか、覚えているかい?」
「え?
それは、斎藤が、この本屋に来なくなって……。」
「それ以外でだよ。」
支倉は、ウーンと考え込んだ後、アッ!と声を上げた。
「蕗屋が!
蕗屋清一郎が、蕗屋清四郎に、心理遺伝(※)をしました……!」
(※何かをきっかけにして、祖先が子孫に憑依する事。)
晃は、ニヤッと笑った。
「そうだよ……!
斎藤さんは元々、蕗屋さんの心理遺伝を、起こしたがっていた。」
蕗屋さんが、尋問室で話してくれた事が、本当ならね……晃はそう添えてから、続きを話した。
「心理遺伝には、[きっかけ]が必要だけど……
それが[本を使う]事だと、斎藤さんは知っていたんだ。
だから、ここへ来て、頻繁に本を買った。
そして、今から約一週間前、蕗屋さんの心理遺伝は、無事に成功した。
本は、もう要らなくなり、斎藤さんは、ここへは来なくなった。」
「な、なるほど……!」
「そしてね、支倉くん。
僕は、蕗屋さんの心理遺伝を引き起こしたのは、
『ハムレット』と『罪と罰』……
そのどちらかだと、踏んでいるんだよ。」
*お読み頂き、ありがとうございます。
*原作
『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎
『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎
『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作
『一寸法師』著・江戸川乱歩
『心理試験』 著・江戸川乱歩
*絵は自分で描いています。




