26.神戸のホームズ
*表記揺れについて。
→数字は特別な場合を除き、漢字を使います。
→あなた・貴方は、どちらに統一するか、まだ迷っています。
これは、日本の古典文学を元にした、二次創作作品です。
原作は、後書きに載せます。
[神戸][南京町]といった、現実の地名が出てきますが、実在する同名の場所とは、外観が大きく異なる場合があります。
晃の認識に、上塗りをするように、白髪の少女……いや少年は、言葉を重ねた。
「そっ……それは、失礼しましたっ!」
晃は、顔を真っ赤にしながら、頭を下げた。
少年は、笑顔で流した。
「気になさらないで下さい。
よく、間違えられますから。」
少年は、晃が置いた二冊を、空いていた方の手で持ち上げると、自分が買う二冊に重ねた。
両手で、四冊の分厚い本を抱える少年に、晃は言った。
「や、やっぱり悪いです……!
四冊も、重い本を、持たせるなんて……。」
「平気ですよ、このくらい。」
その時、晃はふと気になったので、訊いてみた。
「あの……畑で、お花や野菜を育てられたり、しましたか……?」
「えっ?」
少年は、不思議そうな顔を、浮かべている。
「あっ、いやっ!
……そういう事をして、身体を鍛えられていたのかな……と。」
晃の言い訳は、苦しかったが、少年は嫌な顔をせず、サラリと答えた。
「僕は、畑に立った事は、ありませんよ。
花や野菜を育てるといった趣味も、ありません。」
晃は、絶句した。
先ほど、ベラベラとまくし立て、熊城を感服させた推理は、一体何だったのか……。
そんな晃をよそに、少年は言葉を続けた。
「でも、双子の妹には、そんな趣味がありました!
僕は養子として、別の家に引き取られたので、妹とはあまり、接点が無いのですが……。
妹から来た手紙に、そんな事が、書いてあった気がしますよ。
今もその趣味が、続いているかは、分からないですけど。
なんせ、お互いズボラなので、密にやり取りをするわけじゃ、無いんです。」
「双子……。
妹……。」
晃は、虚ろな表情のまま、ポツリポツリと呟いた。
「……そうか、熊城さんが言っていたのは……妹さんの……。」
「くましろさん……?」
「あ、はい。
ここの店員さんで、貴方の妹さんと、お知り合いの……。
その方が、貴方を妹さんと、勘違いしたんです。」
「ふむ……それは僕が、妹と全く同じ格好を、しているからでしょうね。
……考えてみれば、十一歳で妹とお揃いだなんて、恥ずかしいな。」
少年は、少し顔を赤らめた。
「決めた。
僕は、妹と違う格好を、する事にしますよ。
……それより!」
少年は、ずいっと顔を、晃の顔に近付けた。
「貴方はどうして、僕の妹の趣味が、分かったのですか!?
僕はそれが、気になります!
本を買うまでの間、その理由を、僕に教えて下さいませんか!?」
……かくして、晃は、レジへ向かう間、そしてレジに並んでいる間、事の顛末を、少年に話す事となった。
晃には、罰ゲームのように思われたが、そうするしか無かった。
少年には、本を運んで貰っている恩があるし……
仮に断れば、晃がうかうかしている間に、支倉が戻って来てしまうからだ。
「へーっ! ほーっ!」
少年は、青緑色の瞳を、日差しを受けた海面のように、キラキラと輝かせながら、晃の話を聴いていた。
晃は少年から、丁寧で大人びた印象を受けていたので、この年相応の無邪気さを、意外だと思った。
--麟太郎さんも、同じように、意外な無邪気さを見せていたな。
晃は、そう思った。
晃が話し終えた時、レジは全て埋まっていて、晃たちの前には、二人の客が並んでいた。
「ふわ~っ……。
凄い、凄すぎます、晃さんっ!」
晃と少年は、お互いに名前を教えていた。
ちなみに少年の名は、
小林 呉男という。
「いや……でも結局、僕は人違いを、してしまったわけだし。」
晃は呉男から、敬語を使わなくていいよう、言われていたので、それに従っていた。
「本当に優秀な探偵……例えばホームズなら、君の性別も、君と妹の関係も……見抜いていたと思うよ。」
晃の声は、暗く重かった。
「確かに、そうかもしれませんが……。
晃さんも、十分凄いですっ!
神戸のホームズですね!
晃さんの名字……[法水]は、
[ほうむず]と読めない事も無いし!」
呉男の、明るい慰めに、晃は幾分か救われた。
「次、お待ちのお客様ー!」
晃たちの前に居た、二人の客は、既にレジに案内されている。
だから次は、晃の前に居る、呉男の番だった。
「晃さん。
本、お返ししますね。」
呉男は、体ごと晃の方を向き、晃が本を取りやすいようにした。
「本当にありがとう、呉男くん。」
晃は、上の二冊……自分が買う二冊を、両手で持ち上げた。
その時、二冊の下にある本……呉男が買う本の表紙を、晃は見た。
……『ドグラ・マグラ 上』。
本の表紙には、そう書かれていた。
「じゃあ僕、行きますね!」
呉男は、レジへと向かった。
その後すぐ、晃もレジへ案内された。
晃は、大勢の客や店員に緊張して、会計にもたついてしまった。
そんな晃の、斜め後ろから、手早く会計を済ませた呉男が、話しかけてきた。
「晃さん!
僕、ちょっと用事があるのを、思い出しました。
お先に、失礼しますね!」
「うん、今日はありがとう、呉男くん。」
「いえいえ! では!」
呉男は、小鹿のような軽やかさで、本屋[クロックドア]を去って行った。
*お読み頂き、ありがとうございます。
*原作
『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎
『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎
『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作
『一寸法師』著・江戸川乱歩
『心理試験』 著・江戸川乱歩
*絵は自分で描いています。




