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23.黒死館

*スマホから投稿する場合、投稿後に文字数調整を行う為、前回読んだ時から話が繋がっていない場合があります。


*[本屋クロックドア 編]に登場する推理は、蒼城双葉さんが「小説家になろう」やpixivに投稿している、

『探偵王子カイ 容疑者ナギとワールドフールの螺旋』(https://ncode.syosetu.com/n0703eo/#main)から着想を得ています。

(具体的に言うと、「第二章15  『台風の目』」内の、タロットと星座の話からです。)


これは、日本の古典文学を元にした、二次創作作品です。

原作は、後書きに載せます。


[神戸][南京町]といった、現実の地名が出てきますが、実在する同名の場所とは、外観が大きく異なる場合があります。


挿絵(By みてみん)

 

 サイン会が終わって、ふと思ったんだけどね。


 私の事を書くのも、悪くないと思うの。

 後から、そのページだけ、切り取ってしまえば良いのだし。


 ……じゃあ、今日のサイン会の様子を、綴っていくとしますか。






 サイン会は、一階にある、礼拝堂で行われた。



『法月先生!

 先生のお名前は、どのように付けられたのですか?』


 ファンの若い女性……20代前半だろうか?……から、そう訊かれた。

 私は、逆に問い返した。


『法水麟太郎……という、実在した探偵は、ご存知ですか?』


『はいっ、知ってます!』


 私に質問した女性は、元気良く答えた。

 私は微笑むと、彼女にこう言った。


『貴方のような、若い方が知っていても、驚く事はありません……。

 なんせ彼は、日本の歴史に残る、偉大な探偵ですからね。


 ……しかし、後世の彼への評価は、大きく二分されています。

 ……彼は少し、自分勝手過ぎたのです。


 自分の知識をひけらかす、衒学趣味を持つ者(ペダンチスト)であったし、事件関係者への心のケアが、疎かでした。


 勿論、そんな欠点があったとは言え、彼の超絶的推理は、素晴らしい物です。


 [栄光(ハンド・オブ)の手(・グローリー)]を使った儀式の最中、火の揺れが生み出す錯覚……


 人の姿がぶれ、そのぶれた姿同士が重なった位置に、1人の人間が居るように思わせる錯覚……


 それを利用して、犯人が儀式を抜け出した事。


 とても珍しい植物で編まれたマットを、犯人が使い、死体の血を吸い取った後……


 日当たりが良い場所で、そのマットを干して、血を蒸発させた事。


 法水麟太郎……彼は、それらの事柄に、気が付きました。


 ……話が逸れました。

 とにかく彼は、人間性に難はありましたけど、探偵としては、優秀だったのです。


 そこで私は、彼への敬意から、彼の名前を借りる事にしました。


 法水を法月に、麟太郎を倫子に……。


 改変にも、理由があります。

 私は、彼を尊敬してはいますが、人に寄り添う心、それは失いたくないと思っています。


 私は名付けの際、法水さんを、苗字の一字を使い、水星に例えました。

 読者の方々は、地球に例えました。


 水星は……[水・金・地・火・木・土・天・海・冥]、と並べれば、地球から近いという印象を受けますが……実際は、とても遠く、離れています。


 私は、水星よりも、もっと近い存在……地球の衛星である、月になろうと、決めました。


 それで、法水を、法月に……。


 倫子は、倫理的価値観を失いたく無かったので、麟を倫に変えました。


 ……麟太郎の[麟]は、麒麟ですよね。

 浮き世離れしていて、幻想的だった彼には、ピッタリだったんじゃないでしょうか。


 ただ、麟は、雌の麒麟を指すので、男性の名としては、どうかと思いますが……彼は、写真を見る限り、女性的な顔立ちをしているので、違和感が無かったのでしょうね。』





 ……ここまで書いて、凄く恥ずかしい思いをしている。

 顔が火照ってしょうがない。



 喋りすぎよ、私ッ!!



 司会者が、何かとチラチラこちらを見てきて、段々不機嫌になっていたのは、そういうわけか……。


 ファンは皆、うっとりと私の話を聴いていたものだから、全く気付かなかったわ。

 大丈夫か、私のファンたちよ。


 まあ、そんな人たちだから、わざわざこんな辺境な地にある、曰く付きの建物……






 [ 黒死館 ]まで、来てくれたんだと思う。







 ……さて、執筆を再開しましょうか。











「へぇ……。」


 熊城は、晃に向き直ると、嘲笑するような笑みを浮かべた。


 彼は、口角が上がりそうになるのを、堪えているだけなのだが……晃を緊張させるには、それで十分だった。


「単刀直入に、訊くっすけど……。


 俺が知っている彼女は、どんな子ですか?」



 ……[間違っているだろうか]。



 一瞬、晃はその言葉が、頭によぎった。


 しかし、ここで怯んでいては……傾いた会社の再興など、出来っこ無い。


 それに気付いた晃は、弱気になる自分を押し込め、熊城の両目を、正面からグッと見つめた。



 熊城は、ビクッと肩を奮わせた。


 根拠は無い……だが……


 [当ててくる]という直感を、熊城は抱いた。


 晃の口が、開かれた。




「夢野久作さんの作品群の前に立つ、彼女は……。




 園芸、もしくは農作業を、

 ここ1ヶ月の間に、行っていたでしょう。」




 熊城の頬に、一筋、汗がツウッと伝った。


 口角は、最早制御出来ず、にいい……と、上がりきっていた。


「……何で、そう思ったんすか。」


 そう訊かれる事を、予測していたかのように、晃はスラスラと答えた。



「僕は、熊城さんの『法水麟太郎なら分かる』という言葉から、麟太郎さんが持つ知識で解ける事を、確信しました。


 ただ僕は、麟太郎さんの実話を元にした、小説を読んでいないので、彼が何を知っていたか、わかりませんでした。


 なので、熊城さんが書かれたポップを思い出す事で、彼の知識を知ろうと、試みました。




 熊城さん。

『火、水、風、地の精霊』について書かれたポップが、ありましたよね。



 確か、『黒死館殺人事件』を宣伝する為の、ポップでした。」






*お読み頂き、ありがとうございます。


*原作

『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎

『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎

『オフェリヤ殺し』著・小栗虫太郎

『夢殿殺人事件』著・小栗虫太郎(多分今回だけです)

『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作

『二重心臓』著・夢野久作

『一寸法師』著・江戸川乱歩

『心理試験』 著・江戸川乱歩


*絵は自分で描いています。

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