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21.店員としてのプライド

*投稿後に文字数調整を行う為(スマホからだと、投稿前に文字数が分かりません……)、前回読んだ時から話が繋がっていない場合があります。


*[本屋クロックドア 編]に登場する推理は、蒼城双葉さんの作品から着想を得ている事を、書き忘れていました。 投稿後に記述する事となり、申し訳ありませんでした。


*[本屋クロックドア 編]に登場する推理は、蒼城双葉さんが「小説家になろう」やpixivに投稿している、

『探偵王子カイ 容疑者ナギとワールドフールの螺旋』(https://ncode.syosetu.com/n0703eo/#main)から着想を得ています。

(具体的に言うと、「第二章15  『台風の目』」内の、タロットと星座の話からです。)


*蒼城双葉さんから、pixiv内のメッセージチャットを通じて、「小説家になろう」へ掲載する許可は戴いています。


*pixiv版では、蒼城双葉さんの作品を紹介している箇所がありましたが、そこは削除しました。


これは、日本の古典文学を元にした、二次創作作品です。

原作は、後書きに載せます。


[神戸][南京町]といった、現実の地名が出てきますが、実在する同名の場所とは、外観が大きく異なる場合があります。


挿絵(By みてみん)

 

「わあっ……!


 凄いです、水の感じとか、リアルで……!

 ヨットの帆からも、風を感じますし……!」



「へへ~。

 結構、頑張ったんすよー。」


 熊城は、白くて綺麗な歯を覗かせながら、無邪気な笑顔を浮かべていた。


「他のポップも、良かったら、見てって下さい。」



 晃の目に留まったのは、中段辺りに並べて置かれた、『黒死館殺人事件』と『ドグラ・マグラ』の間に、ピョンと飛び出ているポップだった。




 [君は、最後まで読み切れるか!?]




 ギザギザとした、吹き出し付きで、その文字は感情豊かに、書かれていた。


「これは、一体……?」


「この、両側にある2冊ね、読み切るのが超ムズいって、ネットじゃ言われてるんすよ。


 でも、怖い物見たさというか、あえて手に取りたくなる人も、沢山居るみたいで。


 そういう人たちを、煽るように書いたわけっす。」


「へえ~……!

 挑戦心に火を灯す為に、あえてそう書かれたんですね。」


「そうっす、そうっす!」


「ところで、[ムズい]と[ネット]って、何ですか?」


「………。」


 熊城は驚き、目を瞬かせたが、すぐに落ち着いた調子で話し始めた。


「ムズいは、[難しい]。

 ネットは、[インターネット]の略語っす。」


「インターネット……ああ、知ってます!

 はぜ……僕の執事が、時々使っています。


 スマートフォンとかいう携帯端末で、ニュースが読めてしまうんですよね……凄いです!」


「執事……。


 ……失礼っすけど、もしやお客さん、お坊ちゃんなんすか?」


「? はい。」


 熊城は、なるほどなぁと、1人で頷いて、納得した。







 その後も晃は、熊城が書いたポップを見た。


 10枚以上あったが、全てはここに載せられないので、内2つだけを記しておく。


 [物語冒頭、突然、オペラ・ハムレットが始まっている。

 ハムレット役を演じているのは……な、なんと、法水麟太郎!


 プリンツ・スーツを身に纏い、舞台用の洋剣を腰に差した法水が、罵声を浴びせる観客共に吠える!]


 [火、水、風、地……それぞれの精霊が書かれた、メッセージ・カードが見つかる度、被害者が増えていく……。


 犯人は、元・故人であり魔法使いの、ファウスト博士なのか!?

 ならば、彼を目覚めさせた悪魔、メフィストも実在する……!?


 オカルト知識をふんだんに使うが、実は意外と現実主義者な男、法水麟太郎が挑む!]








 ポップを一通り、見終わった後……。


 晃は、小栗の場所からは『黒死館殺人事件』を、夢野の場所からは『二重心臓』を取り出し、胸の前でその2冊を、抱き抱えるようにして持った。


「色々と、ありがとうございましたっ。」


「こちらこそ、買ってくれて、ありがたいっすよ。」


 熊城は、笑いながら答えた。


「レジの場所は、分かります?」


「はい、大丈夫です。」


「そうっすか。

 じゃあ、行きますね。

 また、店に来て下さいよ~。」


 熊城は、片方の肩を、晃とは反対の側…レジとは逆の方向でもあった……へ回しながら、そう言った。


「はい、是非っ!」


 立ち去る熊城を、晃は見送っていた。


 そして、3つ並んだ棚の先にある、角を熊城が曲がりきった時……


 彼がポツポツと漏らした、とても小さな独り言を、聴覚が鋭くなっている晃は、聞き逃さなかった。






「しかし、妙だよなぁ……。


 斎藤さん、1週間前まで、3日に1度は、買ってくれたのになぁ……。」






 晃は、本を抱えたまま、熊城に小走りで駆け寄った。


「あッ、あのッ!


 今の、どういう事ですかッ!?」


 客の迷惑にならない声量で、しかし大声で呼び掛けるかのような口調で、晃は言った。


「わッ、わあッ!?」


 熊城は、突然の襲撃に、酷く驚いた。

 身体を大きく動かした弾みで、四角い眼鏡がずれた。


「突然、すみませんっ。


 斎藤さん、この1週間の間は、来なかったんですよね。

 なのに、それまで、3日に1度は、買いに来ていた……。


 それは、本当ですかッ!?」


「え、えらい地獄耳っすね!?

 普通は、聞き取れない距離っすよ!?」


「僕、耳が良いんですっ。


 あの、斎藤さんの話に、戻りますが……。


 もしかしたら、あなたが持っている情報が、冤罪をかけられそうになっている人を、救うかもしれないんですっ。」


 晃は、頬を紅潮させながら、熱を帯びた口調で言った。


「どうか、ご協力、お願いしますっ!」



「………。」


 熊城は、中指を眼鏡の中心……橋のように、弧を描き、レンズとレンズを繋いでいる部分……に当て、クイッと押し上げた。


 元の位置に戻った、レンズの向こうから、冷たい緑色の瞳が……翡翠を連想させるそれが……晃を、射抜いた。


 晃は、先ほどの自信を失い、たじろいだ。




「……お客さん。


 俺は、先輩方からよく、『お前は態度がフランク過ぎる』と、注意されますがね。


 店員としてのプライドは、持っているつもりっすよ。」


 熊城は、そこまで一気に言い終えると、息を吐いて、吸った。


「……お客さんの、プライベートな情報を、他人にベラベラ話すような真似を、俺はしません。」


 熊城は、ハッキリ言い切った。


 晃は一瞬、諦めかけたが……ある事を思い出して、ハッとした。






*お読み頂き、ありがとうございます。


*原作

『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎

『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎

『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作

『二重心臓』著・夢野久作

『一寸法師』著・江戸川乱歩

『心理試験』 著・江戸川乱歩


*絵は自分で描いています。

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