19.本屋[クロックドア]
*投稿後に文字数調整を行う為(スマホからだと、投稿前に文字数が分かりません……)、前回読んだ時から話が繋がっていない場合があります。
これは、日本の古典文学を元にした、二次創作作品です。
原作は、後書きに載せます。
[神戸][南京町]といった、現実の地名が出てきますが、実在する同名の場所とは、外観が大きく異なる場合があります。
「蕗屋が意識を取り戻してから、事件当日までの、1週間の間に……。
この大型百貨店[和泉屋]にある、本屋[クロックドア]へ、蕗屋が来なかったか……
それを調べる為に、俺たちは、ここまで来ました。
……しかし、気分が優れないのであれば、引き返して……。」
「いや!
……大丈夫だよ、支倉くん。」
晃は両耳から、パッと手を離すと、支倉を制した。
「異人坂から、三ノ宮駅までの、バスに乗っている間……覚悟は、していたから。
それに……出版社の社長として、多くの人が集まる本屋は、見ておきたいんだ。」
「ぼ、坊ちゃん~……。」
支倉は、人目もはばからず、両目をウルウルと潤ませていた。
「勿論、本来の目的は、忘れていないよ。
蕗屋さんが、1週間の間に、[クロックドア]を訪れたのであれば……
[本屋]と言われた時、連想するのは……きっと、[クロックドア]や[和泉屋]、[時計][ドア]……その辺りだと思うんだ。
麟……じゃなくて、僕がさっき、言ったよね。 尋問室で。
ほら、新しく仕入れた情報だから、パッと出せた、って。
裏を返せば、新しい情報が優先して、連想されるのではないかな?
印象に残らないならまだしも、[クロックドア]はなかなか大きいし……時計とドアの装飾が施された、店名看板も、インパクトがあるよね。
……その情報があるにも関わらず、わざわざ[丸善]と答えたのなら。
蕗屋さんは、[わざと、昔の人のふりをした]……そうは、考えられないかな?」
晃は、麟太郎の推理披露を真似しながら、そう言った。
「相変わらず、冴えてますねぇ、坊ちゃんは……!」
支倉は、彼を見ている者まで幸せにしてしまうくらいの、満面の笑みを浮かべていた。
晃は、憑依がバレていない事を確信し、ホッと息をついた。
(支倉は実際、気付いていなかった。
一瞬、疑った時もあったが……
元来の実直な性格から、深く考える事は、すぐに止めたのだった。)
そして、支倉にも話していない、[もう1つの目的]を達成出来るよう、コッソリ祈った。
「では、行きましょうか。
坊ちゃん。」
「……うん!」
晃と支倉は、[和泉屋]の正面玄関から、中に入った。
晃たちは、2階にある、本屋[クロックドア]の前へとやって来た。
「時計と、ドアの装飾……。
確かにこれなら、印象に残りますよね。」
支倉は、大きな店名看板を見上げながら、そう言った。
「うん。
たまにしか来ない、僕が覚えていたくらいだから……。」
「懐かしいですね。
坊ちゃんは、前当主様に連れられて……。」
支倉は、そこまで言うと、ハッとした。
「す、すみません。
坊ちゃん。」
「ううん、良いんだ……。
……支倉くん。
ここからは、手分けして情報を集めないかい?」
「手分け……ですか。」
支倉は、顔をしかめた。
「いやしかし、変な中年男が、坊ちゃんを連れ去ったりしたら……。」
「だ、大丈夫だよっ!
……もう、支倉くん。
僕は僕で、君に依存しているけれど、
君も僕に、依存しているんじゃないかな。」
「い、依存……。」
「僕らは、いつまで一緒に居られるか、分からないんだ。
お互い、もっと自立するべきだと思う……。
それに、支倉くんは近い内、家庭を持つかもしれないしさ。
僕ばかりじゃなくて、ちゃんと自分の為に、時間を使って欲しいんだ。」
「ぼ、坊ちゃん……!」
支倉は、感動で肩を震わせた後、キリッとした表情を浮かべた。
「お任せ下さい、坊ちゃん!
この支倉心、坊ちゃんとは別行動をとり、見事成果をあげてみせますっ!
ではっ!」
支倉は、そこら辺に居た店員の元へ、サーッと歩み寄ると、検事が持つ手帳を見せつけた。
「やあ、君。
少しお聞きしたい事が、あるんだが。」
「はっ、はい!?」
店員は、しどろもどろになっている。
「あ、あの、警察の方ですか……?」
「ああ、俺は執事の……
じゃなくて、検事の支倉だ!」
晃は、そんな支倉の後ろ姿を見て、苦笑した。
……そして、棚と棚で挟まれた通路に、入って行った。
晃の[もう1つの目的]……
それは至極単純だった。
[本を買う]のである。
晃は、ジャンルが書かれた看板……天井からぶら下がっている……それを見上げながら、進んで行った。
旅行や手芸、漫画や資格……そういった、明らかに違う物は避け、歩いた。
晃の目当ての本は、『黒死館殺人事件』と『二重心臓』だ。
前者は小栗虫太郎、後者は夢野久作が書いた物なので……
小栗や夢野の本が並んでいるところに、一緒にあるのではないかと、晃は踏んでいた。
そして彼らは、小説家だ。
だから、昔の小説家の作品が、並んだコーナー……晃はそれを、探していた。
……しかし、店内はやけに広く、おまけに慣れていないので……自力で探すのは、ただ時間を浪費するように思われた。
運良く、近くに店員が居たので、晃は思い切って、尋ねてみる事にした。
*お読み頂き、ありがとうございます。
*原作
『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎
『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎
『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作
『二重心臓』著・夢野久作
『一寸法師』著・江戸川乱歩
『心理試験』 著・江戸川乱歩
*絵は自分で描いています。




