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18.異人坂の下にある町

*投稿後に文字数調整を行う為(スマホからだと、投稿前に文字数が分かりません……)、前回読んだ時から話が繋がっていない場合があります。


これは、日本の古典文学を元にした、二次創作作品です。

原作は、後書きに載せます。


[神戸][南京町]といった、現実の地名が出てきますが、実在する同名の場所とは、外観が大きく異なる場合があります。


挿絵(By みてみん)

 

「………。」



 晃は、頬に冷たさを感じた。


 ……冷たさを感じる方の頬が、テーブルに付けられている。


「坊ちゃん……少し、お休みになりますか?」


 心配そうに尋ねる支倉に、晃は、顔を上げて答えた。


「いや……やっぱり、大丈夫だよ。」


 晃に憑依した人物……麟太郎は眠そうにしていたが、身体を取り戻した晃はと言うと、全く眠く無かった。


「そうですか!

 いやぁ、先ほどの推理をした後に、すぐ動けるなんて、凄いなぁ……。」


 晃は、自分の手柄では無いのに、褒められたので、ムズムズした。


「ち、違うんだよ。

 支倉くん。」


「?

 違う……と言いますと?」


「本当は、僕じゃなくて……。」


 晃は、そこで言葉を詰まらせた。


 麟太郎の妙な態度が、フッと脳裏に現れたからだ。


 --『黒死館殺人事件』を読んだと取れる発言をして、口を手で覆った、麟太郎。


 --『二重心臓』を読んだと話した後、晃をギロリと睨みつけた、麟太郎。


 ……それらの態度は、何を意味していたのか。


 晃は思った。


 憑依している事を、麟太郎は隠したがっていたのではないか……と。


 仮に隠す気が無いなら、わざわざ晃の演技をした理由が分からない。


 本に関する話題になった時、こちらを睨み付けてきたのは……話を合わせるよう、脅しをかけたのではないか。


 ……そこまで推理した晃は(これは、人生初の推理だった!)、次の疑問にぶち当たった。


 では何故、麟太郎は、憑依している事を隠したがったのか……?


 晃は考えた……麟太郎の憑依が知られる事に、どのようなデメリットが、麟太郎にあったのか。


 そして、次の推測を立てた。


 [麟太郎の魂を狙う者が居る(……ストーカーか?死神か?)。

 その人物から、存在を隠す為、晃のふりをした。]


 ……オカルト染みた発想だ。

 晃はため息をついた。


「坊ちゃん……?」


 支倉は、信頼出来る男だ。

 晃は思った……支倉に話して、彼の意見を仰いだ方が、良いのではないか。


「うん、あのね……。」


 話そうとした、その時……。


 麟太郎が自分に向けた、子供のような無邪気な笑顔を、晃は思い出した。


 ……あの笑顔を守るのも、悪くない。


 晃の思いは、完全に固まったわけでは無かったが……結局、麟太郎の事は、話さなかった。









 --そんなやり取りがあった、40分後。


 晃と支倉は、異人坂の下にある、大型百貨店の、正面入り口の前に立っていた。


 晃は、緊張していた。


 何故、緊張しているのか、それを書く前に……異人坂と、今居る場所の違いを、記しておこうと思う。


 異人坂は、広い道が無く、人通りも、多くはない。

 閑散としているわけでは無いが、ポツポツと、小さな集団や、1人で歩く者を見かけるくらいだ。


 観光スポットと言えど、居住地でもあるので、団体がワアワア騒いでいる事は、まず無い。


 そういった人たちが、入って来ないよう、警官が見張っている。


 そのお陰で、異人坂には今も、静かで穏やかな時間が流れている。

 時々、何処かの家から、蓄音機の音楽が聴こえるくらいだ。




 ……では、多くの観光客たちは、何処に集まるのかと言うと……異人坂の下、三ノ宮駅の周りだ。


 晃たちの前にそびえる、大型百貨店も、丁度そこにある。


 ……案の定、人の群れが、百貨店の前にある横断歩道(……交差点にある、斜めにも移動出来るタイプ。)を、水族館に居るイワシの群れように、ワンサカワンサカ、移動していた。


 今は朝の11時で、太陽の位置はすっかり高くなっている。


 通行する人たちの、サングラスや時計、テラテラした素材の服やバッグが、日光を反射させてギラギラと輝くので……人の群れが、ますますイワシの群れらしく見える。


 信号が赤になる。

 人の足が止まる。

 しかし、油断してはいけない。


 今度は、延々と並んだ車が、

 ブゥゥーン……! ブゥゥーン……!

 と行き来する。


 車体の表面はどれも皆、太陽光を反射する為に作られたかのようで……ビカビカと、光り輝いている。


 こちらは人間と違って、全身を使って光を反射させる上、ビュンビュンと素早く動くので、いよいよイワシそのものだ。


 この場所の、視界に映る車を全て、銀色に塗り替えてしまえば、地上にイワシの水槽が出来上がってしまう。


 ……このように、なんともせわしなく、目がチカチカする光景が、三ノ宮駅の周り……晃たちが居る、大型百貨店の前で、繰り広げられていた。





 ……異人坂とは、あまりに違い過ぎる。


 晃は、その環境の違いから、緊張していたのだった。




「……うぅ。」


 晃は、両手で耳を塞いだ。

 ただでさえ、緊張しているというのに……あの奇妙な現象……耳が聞こえ過ぎる現象が、起こってしまった。


 おまけに今回は、人の数が膨大な為、大量の[人の本音]が、晃の心を締め付けた。


「可愛い~!」

「そう?ありがとーっ!」

『……調子に乗んな、ブス。』


「先輩、俺、もう辞めようかと……。」

「諦めんなよ、田中!

 今が、頑張り時なんだからさっ。」

『……ほんとは俺も、辞めたいよ。』


「あー、うんうん!

 今日は、仕事の打ち合わせで、帰るの遅れる! じゃっ!」

『……さて、今日はどの娘に会いに行こうかな…♪』



 ……聞きたくて、聞いているわけでは無い。


 しかし晃は、人の心を盗み見ているようで、良い気持ちがしなかった。

 おまけに、内容はどれも暗い物だったので、晃はただただ辛い思いをした。


「……坊ちゃん。」


 支倉が晃を、心配そうに見つめた。





*お読み頂き、ありがとうございます。


*原作

『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎

『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎

『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作

『二重心臓』著・夢野久作

『一寸法師』著・江戸川乱歩

『心理試験』 著・江戸川乱歩


*絵は自分で描いています。

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