10.執事は身を引く
晃は、支倉を見上げた。
支倉は、晃に優しく微笑みかけた。
「支倉くん……ありがとう。
でも、どうして……!?」
支倉は、晃から顔を逸らして、照れくさそうに答えた。
「……今まで俺は、坊ちゃんを支えなければと、そればかり考えてきました。
坊ちゃんは、いつもポワポワとしていらっしゃるから……。
でも今日、坊ちゃんに助けられて……俺が思っていたより、ずっとしっかりした人なのではと、気付きました。
その後、坊ちゃんが粉雪ちゃんに、再調査を依頼して……
そこで初めて……恥ずかしい話ですが……坊ちゃんにも坊ちゃんの考えがあるのだと、痛感しました。
……俺はいつも、自分の考えを押し付けていました。
でもそれじゃ、坊ちゃんが、人間では無く、人形みたいですよね。」
支倉は、晃に向き直った。
「俺、これからは心を入れ替えます。
出しゃばらず……背中からそっと押すような……そんな付き合いをしていきたいです。」
「支倉くん……。」
支倉は、両手で拳を作った。
「よし、坊ちゃん!
今回の調査、頑張りましょうね!」
「うん、支倉くんっ!」
団結する晃と支倉に、蕗屋が話しかけた。
「あー……その……。」
晃は、言いよどむ蕗屋を、クリクリとした両目で見つめていた。
蕗屋の頬が、少し染まった。
「……ありがとな。
俺を、庇ってくれて。」
「全くだ。
坊ちゃんの言葉が無かったら、お前は今頃、有罪行きルートだったぞ。」
「お前は一言、多いんだよッ!
俺より二週、年下の癖にッ。」
「えッ!
蕗屋、お前、歳はいくつ……。」
「65だよ。死んだのがな。
その後、暗闇でどれくらい過ごしたかは、知らん。」
支倉は驚いた。
「わっ……!
こんなお爺さん、居たら嫌だなぁ……。」
「んだとッ……!」
「あはは……。」
晃は、楽しそうに笑った。
「これは、面白い事になったな~。」
笠森が、ニマニマしながら、晃たちに近付いた。
「って、被害者に失礼か……。」
「笠森判事、すみません。
俺たちが、判事の事件を、掻き回してしまって……。」
「いやいや!
寧ろ、感謝しているくらいだ。
だって、明智小五郎の子孫と、法水麟太郎の子孫の対決が、間近で見られるんだぜ!
『ドグラ・マグラ』によれば、子孫の身体の中には、祖先の記憶が残っているそうだ。
つまりこれは、
[時を超えた推理決戦]と言えるんだよっ!」
笠森は、熱を持ってそう言った。
「俺に出来る事なら、力になるからな。
支倉。法水さん。」
「ありがとうございます、笠森判事。」
支倉と晃は、お礼を言った。
「じゃあ俺は、蕗屋と斎藤を、留置場に連れて行くぜ。」
蕗屋は、笠森の方へ歩み寄った後、晃たちに振り返った。
「じゃあな、小僧共。
答えられる事なら、答えるから、何かあったら来てくれ。」
笠森が、訝しげに蕗屋を見た。
「蕗屋、お前、いつまでその設定を続けるつもりだ……?」
「設定じゃねーよッ!」
「まあ、良いや。
そこは、法水さんたちに任せよう。
ほら、お前も立て! 斎藤。」
笠森は、椅子の上でうなだれていた斎藤を、なんとか立たせた。
斎藤は、ボソボソと言葉を発した。
「何を言ってるのか、分からんな。
さっ、行くぞ。」
笠森たち3人は、尋問室から出て行った。
耳が良い晃には、最後の斎藤の言葉が、ハッキリ聞こえていた。
「目には、目を……
罪には、罰を。」
晃の耳に、その言葉が、妙に強く残った。
さっきまで、まともに喋れていなかった斎藤が、突然発した、意味深な言葉……。
晃は、気味の悪さに、身を震わせた。
*お読み頂き、ありがとうございます。
ここまでが、pixiv版の一話です。
*原作
『黒死館殺人事件』著・小栗虫太郎
『二十世紀鉄仮面』著・小栗虫太郎
『ドグラ・マグラ』 著・夢野久作
『心理試験』 著・江戸川乱歩
*絵は自分で描いています。




