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五番通りの魔道具店  作者: もとめ
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第46話 行方不明(2)

 五番通りの南外れ。

 “五日見神社”と書かれた石の標柱が通りに面して建つ、鬱蒼とした木々の繁る一角。


 類は小走りに神社の前にやってきた。

「衛門君、本当にいるのかな?」

 わずかに息が弾んでいる。

 石鳥居を抜け、石畳の道を奥へと進む。


 夕刻の日差しが、通りから鳥居の影を石畳に長く落としている。

 狭い神社の敷地内、人の気配はない。


 五日見神社の小さな社は、通りから入って数メートル続く石畳が左に折れたすぐのところに建っている。

 社のすぐ横に生えた背のひくい細い若木が夕刻の風にサラサラと揺れる。

「うーん、やっぱりいないよな……。ここからどこか行っちゃったのか?」

 類は周囲の植え込みの陰を注意深く見回した。


 ふと、足元の石畳に、誰かの影が落ちる。

「ん?」

 類は通り側を振り向いた。

「あら?誰かと思ったら類君じゃないの」

「あ……。アオミドロ薬局の……」

 類は軽く頭を下げた。

 そこにいたのはアオミドロ薬局のイツ子だ。

 いつもの白衣姿ではなく、七分袖の茶色いブラウスにひざ下のスカート、足元はサンダル履きという姿だ。

「類君もお参り?珍しいわね」

 イツ子はそう言いながら類の横を通り、社の前に立った。

「え、えぇ……まぁ……」


 パンパンと手を叩き、イツ子が社に手を合わせる。

 少しの間、類はその様子を見ていた。


「夕方にここに来るのは私だけかと思っていたんだけどね」

 お参りを終えたイツ子がニコニコと笑顔で類に言った。

「あ、俺は……。今日はたまたまです……(ってか、ほぼこんな所、来ないんだけど……)――」

 類は気まずそうに答えた。

「――商店街の皆さんは、よくお参りに来られるんですか?」

「そうね、この五日見神社は商売繁盛の神様だからね。ウチは毎日ってわけじゃないけど、

 神社の隣の電気屋さんは毎朝お参りしているのよ。まぁ、管理も兼ねて、だけどね」

「……へぇ」

「五番通り商店街が二番通りにも負けずに商店街を維持できているのは、この神社のおかげかもしれないわよ、おほほ」

「は、はぁ……」

「類君も、しっかりお参りしておけば商売繁盛に繋がるかもしれないわね!それじゃあね、シゲル君とキヨちゃんによろしく」

 イツ子はそう言うと、鳥居をくぐり、五番通りを右に折れて去っていった。

「……商売繁盛の神様じゃなぁ。祈っても衛門君は見つからないか」

 類は軽くため息をつくと、一応とばかりに社に軽く手を合わせた。そして、そそくさと五番通りへと出る。


 通りを挟んだ向かい側に、茂がよく行くジャンクショップ“J・K”が建っている。

 三階建てのかなり古めかしい建物。

 店の入口、2枚のガラスドアの引き戸の上部に掲げられたブリキの看板が、腐食して上部から錆模様が垂れて看板の文字を読みにくくしている。

(叔父さん、まだジャンク屋のゲンさんのところかな……?)

 類は通りから目を凝らし、ジャンク屋のガラスドアを見た。

 ガラスドアに通りの景色が反射している。中の様子は見えない。

「うーん……。一応、寄ってみるか……」


 ジャンクショップ“J・K”の店内。

 所狭しとガラクタのような商品が並べられ、一部の箱は天井にまで届きそうなほど高く積み上げられている。

 そして、カロ屋以上に店の中は暗く、通路は狭い。

「こんにちはー。ゲンさん、ウチのシャチョー来てますか?」

 類は、入り口から店の奥に向かって声をかけた。

 しかし、少し待つも返事はない。

 類は訝し気に、陳列商品を掻い潜るように狭い通路を奥に進んだ。


 小さなガラス製の陳列棚兼カウンター。

 上にボールペンの挟まれた帳面が乗っている。

 類は店の中を見回した。

 カウンターの奥は、一段高くなった座敷になっている。

 古い作りの店だ。

 その座敷と店とを分かつ壁沿いに、不気味な鬼の面のような物が掛けられている。

 しっかりと値札が下がっているところを見ると、売り物なのだろう。

 類は顔をひきつらせた。

「……あれも売り物なのか?でも何のジャンク……?」


「あれ?類君?」

 座敷を横切るように、類に気付いたゲンが、のれんを片手でかき上げてレジカウンターに出てきた。

 細身だが、筋肉質の身体つき。無造作に伸びた髪を、頭の後ろの高い位置で適当に結っている。歳は茂よりも一回りほど上だ。

 枯葉色の作務衣を纏い、足は足袋風の靴下をはいている。

「ウチのシャチョー、来てますか?」

「お、迎えに来たんか!?奥にいるから上がっていけよ」

 ゲンはにっこりと笑うと、座敷の奥に戻っていった。

「あ!いえ、ゲンさん!」

 類はカウンター越しに身を乗り出し、慌ててゲンを呼び止めた。

「いいから、いいから!――おーい、類君が来たぞ」

 ゲンはそのまま右奥の部屋に入っていった。

「……はぁ。仕方がない」

 類はカウンターを回り、スニーカーを脱いで一段高くなった座敷に上がった。

 三畳ほどの座敷は、大きな和ダンスが右奥に横向きに置かれ、周囲には潰れかけた段ボールが山積みになっている。

 もう何年も動かしていないのか、そのほとんどに分厚い埃が積もっていた。

「うげげ……(古いのはともかく、汚いのはマジ勘弁……)」


「類君、こっちだ」

 ゲンが右奥の部屋から声をかける。

「あ、はい……。(ここに上がるのは久しぶりだな……)」

 類はゲンに誘導されるがまま、三畳間から続く右側の部屋に入った。


「お!?類、なんだ、迎えに来たのか」

 六畳間のど真ん中に置かれた四角いテーブルの奥に、茂がドカリと座っている。

 その斜になる位置に、見覚えのある子供が真剣な表情でテーブルに置かれた麻雀牌を見ていた。

「衛門君!?お、叔父さ……、シャチョー!何やってるの!?麻雀!?」

 類は呆れたように顔をひきつらせた。

 テーブルの上には四方にきれいに麻雀牌が並べられている。

「やぁ、類君ですか、久しぶりですね。ずいぶんといい青年になったものだ……」

 一番手前に座っていた、スキンヘッドの作務衣の老人が類を振り向いて言った。

「えっ……と……(誰だっけ?確か、五番通りのどん詰まりにある寺の住職……)」

 類が顔をひきつらせていると、茂が察したように言った。

「満月寺の住職の、雲竜さんだよ。忘れたのか?ガハハ!」

「あ、あぁ……(そう言えば)。お久しぶりです……(って、こんな変な時間に住職まで麻雀とは……)」

「類君も麻雀やっていきますか?」

「い、いえ、俺は……――」類は軽く拒否するように手を横に振った。「――それより、なんで?衛門君がここに?」

 バイエモンはしかめっ面で、テーブルに乗ったジャン牌をじっと見ている。

「それが少し前に、ふらっと店に入ってきてな。そしたらシゲさんの親戚だって言うじゃねーか。それならちょうどいいって対面で牌を並べてもらってたわけだ」

 ゲンはそう言うと入り口側の席に座った。

「サンマは、一人分牌を並べるのが面倒ですからね。ふふふ」

「は、はぁ……(この人、相変わらず破壊坊主だな)」

 類は顔をひきつらせて四人を見回した。

 不意にバイエモンと視線が合う。

(あ……)

「なんだ、男の方の類か……」

 バイエモンはそう言うと、再び目の前に並んだ麻雀牌に視線を戻した。

(男の方の類って……なんだよ……)

 類は内心、僅かにいらだった感情を抑えるように言った。

「え、衛門君。どこに行っていたのかな?キヨさんが心配していたよ。カロ屋に戻ろうか……」

「まぁまぁ、いいじゃねーか、もう少し。――なっ?」

 ゲンがニヤニヤと笑いながら類に言うと、同意を求めるように茂を見た。

 茂が苦笑いをする。

「叔父さん!アリサが一人で店番をしてるんだ。早く戻らないと」

 類は少し強い口調で言った。

「あ、あぁ。そうだな……。でもよ、まだ半端だからよ、ガハハ……」

 茂はそう言いながら頭を掻き、手牌の中から1つ牌を手に取った。

「じゃぁ、衛門君だけでも連れて戻るよ」

「そ、そっか……?ま、まぁ、そうだな」

「というわけだから、衛門君、カロ屋に戻ろう」

 類は雲竜越しに、バイエモンに声をかけた。

 バイエモンは、少し牌を気にするように見ていたが、「……うむ。わかった」そう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

「(ううん?やけに素直だな……)じゃぁ、行こう、衛門君」

「衛門君、またシゲさんといらっしゃい!ウチはいつでも大歓迎だ」

 ゲンはそう言いながら再び立ち上がり、三畳間とを間仕切る襖を開けた。


「じゃぁ、ゲンさん、雲竜さん、お邪魔しました……。叔父さ……、ウチのシャチョーにも早く戻るように言ってください」

 三畳間から店側に出て靴を履くと、類はゲンに軽く頭を下げた。

 バイエモンはカウンターの後ろの下足入れからショートブーツを取り出し、一段高くなった座敷に腰を掛けて履くと、飛び降りるように立ち上がった。

 そして、店の中を珍しそうに見まわした。

「……」

「類君、衛門君、またいらっしゃいよ」

 ゲンに見送られ、類とバイエモンはジャンクショップを後にした。



 五番通りを、類とバイエモン、横並びにカロ屋に向かって歩く。

 遠く、西の空が赤く燃えている。東の空はすでに夜に包まれ、星がポツポツと輝き始めていた。

「衛門君……?どこに行っていたの?キヨさんが心配していたよ……」

 視線を歩道の石畳に落としながら類が言った。

「……フン、お前には関係ない……、と、言いたいところだが、この世界、オレには不可思議すぎてよくわからない世界だな。だからオレは、今後しばらくカロ屋で世話になることにしたぞ。お前はたった今からオレの従僕だ」

「はぁ!?」

 類は驚いてバイエモンを見た。

「オレには、魔力の無いこの世界がよくわからん。なぜ、魔力もないのにこれほど発展しているのか……?――」

 バイエモンはそう言うと、類の一歩先を進み、類を振り返って立ち止まった。

「――オレにはこの世界を知る必要があるのだ!それにはこの世界に精通した者の助けが必要だ」

 類も不本意に足を止める。

「あのね、俺は従僕にはならないよ。だいたい、なんで俺が衛門君の召使にならなきゃいけないんだよ」

 類はムッとして言った。

「衛門ではない!俺は魔王バイエモンだ!」

「はいはい」

 類は呆れたように軽くため息をつくと、バイエモンを透かして再びカロ屋へと歩き出した。

「お、おい!待てっ」

 バイエモンが慌てて後を追う。

「魔力さえあれば、お前など今すぐにでも足元にひれ伏させてやるところだ!」

「魔力があれば、ね。とにかく、衛門君はこっちの世界ではただの子供なんだ。魔王でも何でもない。現に今、魔法、使えないだろう?」

「……そ、それは……、そうだが……」

「それに、子供がフラフラ出歩いて、魔力がないとはいえ、こっちの世界だって危険がないわけじゃないんだ。交通事故や誘拐……(誘拐はさすがにないか)。ま、とにかくだ。こっちの世界にいるときは、俺やキヨさんの言うことをちゃんと聞くこと、いいね!?」

 類はバイエモンをキッと睨んだ。

「くっ……――」

 バイエモンが苦虫を嚙み潰したような顔で類を見る。

「――し、仕方がない。(この世界の情報を得るためだ……)しばらくは大人しくしてやろう」

 類は引きつった笑いを浮かべた。

(バイエモン……。何を考えているのか、さっぱりだ……)


 カロ屋の店の前。

 キヨが心配そうに店の前をウロウロしている。

「キヨさん……?」

 類とバイエモンに気付いたキヨが、二人に駆け寄ってきた。

「衛門君!」

「うっ」

 バイエモンが引きつった声を上げた。

 キヨが思い切りバイエモンを抱きしめる。

「あぁ!どこに行っていたの!?心配したのよー」

「うぐぐ!こ、こら、離せ!離さんか!」

 バイエモンが嫌そうな顔をしてキヨの腕を振り解く。

「キヨさん。衛門君、叔父さんと一緒にゲンさんのところにいたよ」

「そ、そうなの!?」

 キヨの驚いた顔。

 キヨの腕を振り解いたバイエモンは、服装を直しため息をついた。

「オレのことは心配無用だ!」

「で、でも……、衛門君はこっちの世界のこと、よく知らないでしょう?私、とっても心配したのよ」

「……なら、オレにこの世界についてお前の知っていることを教えろ」

 バイエモンが不機嫌そうに言う。

「うん?どういうことかしら?」

 キヨは首を傾げた。


 土曜の夕暮れ時、五番通りを歩く往来は平日よりもわずかに多い。

 当然カロ屋の店の前も、ぽつりぽつりと通行人が往来している。

 類は周囲を見回して言った。

「ま、まぁ、二人とも、とりあえず店の中に入ろう……」

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