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五番通りの魔道具店  作者: もとめ
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第46話 行方不明(1)

 人外チャットのチャットルーム。

 類は新しく作ったクロネコのアバターでログインしていた。


 チャットルームには、クロネコの他に、大野が操作する“グリマル”と名を掲げた水色の鳥と、翔太の操作する“ショウ”という名の白いウサギが、仮想空間の部屋の真ん中にある丸い絨毯の上で雑談をしていた。


 ――「えぇ!?じゃぁ、ルイさん、バスさんに会ったんですか!」

 大野はそう言うと、水色の鳥が驚いたしぐさをした。

「いや、だから、ややこしいんだけど、俺じゃなく俺の知り合いのルイっていう女の人が会ったんだよ。偶然そんな話をしていたというか、まさか俺もルイがバスさんに会うと思わなくて、びっくりしたよ」

 類は、類と異世界の話を抜いて、ルイを通じてバスからコウモリダンゴの著作権を得たことを、つじつまを合わせて話した。


 ――「先輩と同じ名前の女性ねぇ……。そんな偶然あるんですね」

 翔太はそう言うと、ウサギを操作し、ウサギはクロネコの周りをピョンピョンと飛び跳ねた。

「まあね。でも、これでカロ屋でコウモリダンゴのストラップを作って売っても問題はなくなったし、一安心だよ」

 類はそう言うと、クロネコのアバターを操作し、クロネコは背伸びをするようなしぐさをした。


 不意に、バスの入室を告げる表示が流れた。

 ルイは突然目の前に現れたコウモリダンゴに驚いた。

(バ、バスさん!?)


 ――「皆さん、こんばんは」

 バスの声とともに、バスが操作するコウモリダンゴは入室者を確認するように辺りを見回した。

 ――「バスさん!?久しぶり」

 大野の驚いたような声。そして、水色の鳥は羽をパタパタと動かし、コウモリダンゴに近づいた。

 ――「バスさん、お久しぶりです」

 続いて翔太がそう言うと、翔太の操作するウサギはぺこりと頭を下げた。

「お、俺は……。は、初めまして?かな?(確かそうだよな?)」

 類はバスの様子を探るように言った。

 コウモリダンゴがクロネコをまっすぐに見る。

 ――「ルイ……さん?」

 キョトンとした様子のバスの声。

「バスさんのことは、俺と同じ名前のルイから聞いてます。コウモリダンゴの著作権の件、ありがとうございました」

 類は僅かに動揺した様子で言った。

 ――「あ、いえ……。ルイさん……初めまして?ですよね。バスです」

 バスもルイと言う名前に、僅かに動揺した様子で言った。

 ――「今、ちょうどバスさんの話をしていたところなんだよね」

 大野が言う。

 ――「噂をすれば影、ですね」

 翔太も、少し笑いの混じった声で言った。

 ――「私の……?」

 ――「ルイさんの知り合いのルイさんが……、ってややこしいですね――」水色の鳥が、冷や汗マークを表示させる。「――その女性の方のルイさんが、バスさんに会ったとか」

 ――「あぁ……。ルイさんのお知り合いのルイさんとは、こちらのクロネコのルイさんのことでしたか」

 バスが言った。

「そ、そうです……、あはは。(た、たぶん声が違うから、俺がルイだとは気づかないはず……)」

 類は苦笑いをした。

(それよりも、衛門君のことをバスさんに……。あぁ、でも類で話したんじゃ、ややこしくなりそうだな……)


 ――「今日はどうしたんですか?バスさんがログインしてくるなんて珍しいですね」

 翔太が無邪気に尋ねる。

 ――「え、えぇ。ルイさん……、その、女性のルイさんから、グリマルさんの話を聞きまして、どうしているかなと思って久しぶりにログイン?してみたんです」

 ――「そうなんですね」

 ショウが相槌を入れた。

 ――「バスさん。オレ達、最近はよくこのチャットルームにいるから、いつでも遊びに来てよ」

 大野はそう言うと、水色の鳥をコウモリダンゴの前から少し距離を取って移動させた。

「そう言えば、バスさんって、どうやってアクセスしてるんですか?聞いた話ではタブレットとかって……」

 ――「えっ!?……そ、そうですね。タ……、タブレットです。たぶん……」

 ルイの言葉に、バスが動揺したように言った。

 ――「やっぱりそうだよね。マウスが無いって言うからさ、あの時は焦ったよ」

 大野が、少し安堵したような声で言う。

 ――「そ、そうですね……」

「どんなタブレットなんです?大きさとか、色とか……(そのタブレットが、あの“記憶をたどる箱”だとすれば……)」

 コウモリダンゴは動きを止めたまま、ずっと“ルイ”と名を掲げたクロネコの方を見ている。

(答えにくいんだろうか……?)

 類は苦笑いをした。

 少しの沈黙ののち、バスが口ごもるように言った。

 ――「うーん、何と言うか……。私の、その、タブレット?は、30センチくらいの木の枠……というか、その枠の中に映っている感じです……」

 ――「木の枠って、自作?ってわけないか。なんかデコレーションでもされているのかな?特別仕様?とか?」

 翔太が言った。その声にどことなく困惑した様子が窺える。

 ――「そ、そんな感じです、ははは」

 バスは乾いた笑いをした。


(やっぱり、あの“記憶をたどる箱”のことだよな?)

 類は難しい顔をして、バスの話と“記憶をたどる箱”を照らし合わせた。

(間違いないと思うんだよな。あの魔道具、あれがタブレットになって、ネットにアクセスしてるんだよな……。でも、どうやって?)

 類はひとしきり考えをめぐらせると、疲れたように大きくため息をついた。



 ――次の日の朝


 類は皆川家の玄関から休憩室を通り店の中に入った。

「おはよう」

 少し眠そうに声をかける。

 店の中は、相変わらず薄暗い。

 茂がレジカウンターの内側で開店準備作業をしている。

「おう、おはよう!定刻通りだな、ガハハ!」

 茂は、レジ内の現金を確認しながら言った。

 珍しく、紺色のTシャツを着ている。

「アリサは?今日土曜日だから、店手伝うんだよね?」

 カロ屋のエプロンを着けながら類はそう言うと、在庫表の挟まれたファイルを手に取り、陳列棚の前に立った。

 そして、陳列棚にある商品とファイルに記載された個数とを照らし合わせていく。

「あぁ、アリサなら午前中は部活だ。どうせ、手伝いって言っても3時過ぎにしか来ねーよ」

 レジの確認作業を終えた茂は、カウンターに乗った配置菓子の箱を不思議そうに見た。

「しっかしよ、このローリカーの配置菓子、“クランチョコ”だけが異常ってほど売れるんだな……」

「え?そうなの?」

 視線を棚の下段に向け、確認作業をしたまま類が言った。

「アリサの他にも、このチョコの熱狂的なファンがいるみたいでよ、最近、何人かこのチョコ目当てで来るお客がいるんだよな。どうも、うちとアオミドロ薬局とをはしごしてるみたいでよ、どんだけ好きなんだって話だよ。ガハハ」

 茂はそう言うと、腰に手を当てて大きく笑った。

 類は困惑した表情を浮かべた。

 そして、ふと何かを思い出したように茂を振り向く。

「あ、そう言えば叔父さん」

「あ?社長って呼べって言ったろ?」

 茂はニヤリと笑った。

 類は引きつった笑みを浮かべた。

「し……(俺が正式に従業員になった途端、社長って呼べとかって……、慣れねーよ!)しゃぁちょ……」

「社長だ!」

「あ、うん……、それは追々……。で、それで、衛門君はまだ見つかってないの?」

「あぁ……。衛門君か――」

 茂はそう言うと、軽くため息をついて作業台前にドカリと座った。

 そして、渋い顔で組子障子の戸を見る。

「――昨日の朝早く、突然そこの戸から出てきたと思ったらよ、そのまま店の中を通り過ぎてそっちから外に行っちまったからな」

 茂はそう言うと、五番通りに面したガラスドアを指さした。

「こっちの世界に興味があるって言ってたからね。でも、こっちじゃ魔法も使えないのに……。大丈夫かな?」

 類はそう言いながら、奥の陳列棚の間に立ち、商品の個数確認を始めた。

「まぁ、何かあったら戻ってくるだろ。仮にも魔王様なんだからよ、心配はしてないけどな。ガハハ」

 茂は他人事のように軽く笑うと、作業台の上に乗った道具を手に取り、何やら作り始めた。


「あら、おはよう。類君、早いわね」

 キヨがそう言いながら休憩室から店の中に入って来た。

 類と同じカロ屋のロゴ入りの紺色のエプロンを着けている。

「おはようございます」

「類君、衛門君のこと聞いた?」

「え?えぇ。まだ戻ってこないとか」

 類は苦笑いをした。

「そうなの。それでね、心配だから須藤さんにお願いして、商店街で見かけたらウチに連絡をくれるように頼んだのよ」

「えぇ!?」

 類は驚いてキヨを振り向いた。

「な、何!?キヨ、それはちょっとマズいんじゃないか……?」

 茂も驚いた顔で作業台前から立ち上がると、そのまま移動し、寄りかかるようにカウンターに手をついた。

「須藤さんに話したってことは、商店街の連中全員に知れ渡るってことだぞ」

「大丈夫、何もマズいことなんてないわよ」

 キヨが僅かに不機嫌そうに言う。

「だ、だってよ、衛門君は仮にも異世界の魔王様だぞ。そんなことが知られたら……」

 茂の顔に、僅かに冷や汗が浮く。

 クスリと笑ってキヨが言った。

「衛門君、どう見ても魔王様には見えないし、それに須藤さんなら仮に魔王だと知られても秘密を守ってくれるわよ、ほほほ」

「そ、そうかもしれないけどよ、須藤さんだけならいいが……」

 茂が顔をしかめる。

「須藤さんか……」

 類も難しい顔をした。

(あの人、確かに商店街組合の中じゃ信頼できる人だけど、さすがに異世界の魔王となるとな……)

「とにかく大丈夫よ。衛門君のことは、私に任せておいて」

 キヨはニコッと笑うと、そのまま休憩室の中に戻っていった。

 類と茂は不安げな表情のまま、互いに顔を見合わせた。


 ――その日の夕方


「あーあ、つまんないの」

 アリサが退屈そうに、カウンターに寄りかかって店番をしている。

 そして、ローリカーの配置菓子の箱を横目に、中身を確認するようにチラリと見た。

「昨日補充したばかりだよね……?なんか、最近減り早くない?」

「そういや昼過ぎに、小物を買いに来た人がクランチョコだけ大量に買っていったな。叔父さ……シャチョーが言ってた人かな?アオミドロ薬局とウチとをはしごしてクランチョコだけ買ってるって言う……」

 作業台前に座った類がモスグリーン色のマントを畳みながら答えた。

 作業台の上には数枚、綺麗に畳まれたマントが積み重なっている。

「えー、なにそれ」

 アリサが顔をしかめる。

「クランチョコだけってのも微妙だけどね。まぁ、カロ屋としてはマージンが入って来るから売れないよりはマシだけど」

 類はそう言って苦笑いをし、畳み終わったマントを両手に持ってゆっくりと立ち上がる。

「じゃぁ、これを布製品の棚に置いて、と……」

 類はそのまま作業台のすぐ横の棚の間に入っていった。


「はぁ……」

 アリサが大きくため息をつき、商店街側に置かれた陳列棚を見る。

 不意にカラコロとドアベルが鳴った。

「こんにちは」

 そう言って入って来たのは居酒屋“Hell see”のオーナー須藤だ。

 オールバックの髪型に、仕事中抜け出してきたのか、バーテンダーのような服装をしている。

「あ、須藤さん。いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませー」

 類に続いてアリサが素っ気なく挨拶をした。

「やぁ、類君、アリサちゃん。――類君、すっかりお店になじんでるね」

 須藤はエプロン姿の類を見てニヤリと笑った。

「い、いえ……」

 類は引きつった笑みを浮かべた。

「で、キヨさんいるかな?」

「……お母さんは買い物かも。今、出かけてます。もう少しで戻ってくると思うけど……」

 カウンター越しにアリサが答えた。

「須藤さんがウチに来るなんて、珍しいですね」

 類はそう言いながら、作業台の上に乗った段ボール箱の中から、先月青空市で茂が仕入れてきたカラフルなラグを取り出した。

「皆川さんの親戚の子?衛門君って言ったっけ?それっぽい子を見かけたって言う人がいたんだよ。それで早く知らせようと思ってね」

 須藤はそう言うと、カウンターの上に乗っていた配置菓子の箱に目を留めた。

 類は少し驚いたように言った。

「えぇ?衛門君、見つかったんですか!?」


(衛門君……?昨日お父さんが話していた、魔王……?)

 アリサがキョトンとした顔をしている。


「まぁ、はっきりとはわからないんだけど。ウチのパートさんが、それっぽい子を五日見神社で見かけたって言っていてね。とりあえず、キヨさんに連絡をと思って来たんだけど……。そっか、いないのか」

 須藤はそう言うと店の中を見回した。


 五日見神社は、五番通り商店街の南外れにある小さな神社だ。祭神は“五郎ウサギ”という赤毛のウサギで、伝承によれば戦国期に現在の原野中駅前辺りで、行き倒れていた旅人を助け、その旅人に商売の知恵を授けたことが縁起とされている。


「すみません、わざわざ来ていただいたのに……」

 類は恐縮したように言った。

「電話、とも思ったんだけど、そこのブティック・ヘルにちょうど用があったからね、そのついでに寄ったんだ。あ、そうだ。類君は知ってるの?その親戚の子」

 須藤はそう言いながら配置菓子の箱を持ち上げ、箱をコロコロと回転させた。

「え、えぇ。一応親戚なんで……」

 類は冷や汗交じりに言った。

「パートさんが見かけてから、まだそれほど時間が経っていないから、まだいるかもしれないよ。でも、本当にその子かどうかわからないしね。類君、一応五日見神社に様子を見に行ってはどうだろう?キヨさん、だいぶ心配しているようだったし」

 須藤はそう言うと、配置菓子の箱をカウンターの上に戻した。

「そ、そうですね……」

 類はそう言うと、アリサに視線を向けた。

 その視線にアリサが頷く。

「いいよ、あたし店番してるから」

「じゃ、じゃぁ俺、ちょっと様子見てきます」

「うん。そうだね。まぁ、違うかもしれないし、私も、もう少し他をあたってみるよ」

 須藤はそう言うと服装を軽く直し、「じゃ、類君、また飲みに来てくれよ!」そう言って店を出て行った。

 カラコロとドアベルが鳴る。


「ルイ兄。今、お客さんいないけど早めに戻ってきてよ。お父さん、またジャンク屋のゲンさんのところに行ったっきりで、あそこに行くと、いつ帰ってくるかわからないからさ」

 アリサがカウンターに頬杖をついてつまらなそうに言った。

「わかった」

 類はカロ屋のエプロンを作業台の上に置き、携帯電話をズボンのポケットに入れると、店を出た。

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