第44話 本題
バスの家の裏口、ガドリとルテニがモスグリーンのマントを纏い、辺りを警戒している。
「夜明けまでは、あと3時間はあります。どうぞ、お気をつけて……」
バスが裏口の戸の前で心配そうに二人の様子を見て言った。
「バス様。ありがとうございます。この度はお世話になりました」
ルテニはバスに丁寧に挨拶をした。
その後ろで、ガドリが補修工事の音が聞こえている方向の街並みの様子を、難しい顔をして見ている。
「二人とも、まだ回復してないでしょ?徹夜で動くの?休んだ方が……」
裏口の戸の内側で、バス越しにルイが言った。
「ご心配ありがとうございます。お気持ちだけ頂いてまいります」
ルテニは気まずそうにそう言ってルイを見た。
ガドリがバスとルイに向きをかえ言う。
「ルイ様、バス様。ありがとうございました。大変申し上げにくいのですが、私どものことは他言無用にお願いします」
「えぇ。大丈夫ですよ。それよりも、相手はフラガの密偵かもしれません。お二人とも気を付けてください」
バスの言葉に二人は頷くと、「それでは」と言ってマントを翻し、裏路地の影の中に消えていった。
バスが裏口の戸をそっと閉め、そして鍵をかける。
ガチャリと鈍い音がした。
「ふぅ……。なんだか心配ですね……」
バスはルイに向きをかえ、どことなく安堵したように言った。
暗い廊下を応接室に向かって歩きながらルイが言う。
「結局あの二人って、テオさんの部下の人で間違いないんですよね?」
「えぇ。……ルイさん、“六方最密”って聞いたことあります?」
「え?ろっぽう……?なんですか、それ」
ルイは首を傾げた。
バスが応接室のドアを開け、ルイを部屋の中に誘導する。
「あくまで噂、なんですが、魔道院にはテオ様直下の隠密部隊があるという話なんですよ。その名前が六方最密というらしいんです。あくまで“噂”ですけどね」
バスはそう言うとドアを閉めた。
再びルイと向かい合わせにテーブルに着く。
「噂って……、でも、そういう名称があるくらいだし、実際あるんじゃないんですか?現に、さっきの二人が何よりその証拠というか……」
ルイはそう言うと疑問の表情を浮かべた。
バスが難しい顔をする。
「魔道院の正式な魔道編成には、隠密部隊の編成は無いんですよ。“六方最密”という名前自体も、出所不明のものですし」
「え?でも、あの二人、テオさんの部下の人……なんですよね?」
ルイは頭の中が混乱した。
バスが頷く。
「えぇ。テオ様の配下と言うのは間違いないですね。ただ、それが高度機密の魔道院の正式な部隊なのか、それともテオ様の私的な部隊なのか……、そのあたりがよくわからないんですよね」
バスはそう言うとため息をついた。
「テオさんに聞いてみるとわかるかな……?」
「いえ……。おそらく密偵部隊となると、どちらにしろ影の存在。機密情報扱いで教えてはくれないと思いますよ……。あの二人の名前も、本当の名前かどうかわからないですしね」
バスはそう言うと苦笑いをした。
「ところで、バスさん。俺からもバスさんに少し聞きたいことがあるんですが……」
不意に、ルイが少し言い出しにくそうに言った。
「え?何ですか?」
薄暗い部屋、バスが穏やかに言う。
「その……、なんというか、言いにくいんですけど……」
ルイはそう言いながら苦笑いをして頭を掻いた。
約二年前にエルデで起こったコウモリダンゴの一斉メール受信事件。
ルイは大野にコウモリダンゴのイメージを送ったバスと言う人物が、魔王である可能性を推測していた。
しかし、不意に出会ったバスは魔王ではなく魔王の側近で、六年前以前の記憶が失われている状態だ。
“このバスさんが、本当にあのバスさんなのか?”
バスに会い、その名を聞いた時からルイの中に疑問が浮かんでいた。
バスがクスッと笑う。
「ルイさん、もしかしてバイエモンと私の関係ですか?」
「えっ、あ、そ、そうですね。それもありますが……」
「違うんですか?」
バスが不思議そうな顔をする。
ルイは、ずっとポケットにしまいっぱなしになっていた、キヨが作ったコウモリダンゴのストラップを取り出した。
それをバスに見せる。
「これ……、知ってます?」
「へぇ。ウスペンスキーのぬいぐるみですか。ずいぶん面白いものを持っていますね」
バスがぬいぐるみに手を伸ばす。
「ウスペンスキー……、では、ないかな、あはは……」
ルイは引きつった笑みを浮かべた。
「じゃない?じゃあ、亜型ですか?――」
バスはそう言うと、ぬいぐるみを摘まみ上げ、珍しそうに見た。
「――よくできてますね。羽なんか本物みたいだ……」
「あ、あはは……。羽の部分は本物なんですよ。本物のウスペンスキーの羽を使ってます……」
バスが驚いた顔をする。
「それはすごい!ウスペンスキーはギルドでもかなりの高値で取引されている代物。闇市場では、しばしば法外な値段になることもあるそうですよ。それをぬいぐるみに……」
バスはそう言うと、ストラップをルイに戻した。
「そ、そうなんだ……、高値……」
ルイは冷や汗交じりにつぶやいた。
(うぅ……。言い出しにくい……。もし、コウモリダンゴの一件、“バスさん”違いだったら……?)
予想外に緊張が高まる。
「そのぬいぐるみ、本物を使っているのなら、相当高額なものなんじゃないんですか?」
バスが不思議そうにルイを見る。
ルイは緊張を抑えながら、ストラップを握りしめ、意を決して言った。
「これ、ウスペンスキーでも、亜型でもないんですよ!」
「ん?」
「こ、コウモリダンゴっていうんです!」
思わず声が上ずった。
その言葉に、バスの表情が一瞬にして驚愕したものに変わる。
「ル、ルイさん!それ、その名前、どこで!?」
そう言って勢いよく立ち上がる。
その拍子に、座っていた椅子がバタンと大きな音をたて倒れた。
バスの顔にうっすらと冷や汗が浮く。
「や、やっぱり知ってるんですね!?バスさん」
「……あ……」
バスは小さく声を上げると、ふと我に返ったかのように椅子を戻し、ゆっくりと座り直した。
そして、取り繕うように言う。
「えぇっと、何の話でしょう……?私にはよくわからないことで……」
バスはそう言うと、ルイから視線を逸らし、挙動不審に宙を見た。
「あ、あはは……。(ごまかし切れてねー!バスさん、明らかに動揺してるじゃねーか!)――」
そして、ルイはカマをかけるように言った。
「――俺の知り合いの知り合いに、グリマルさんって人がいるんですよね。知り合いが言うには、グリマルさん、バスさんのこと気にしてるみたいで」
「えっ!グリマルさんが!?」
ルイの言葉の途中で、バスが驚いた声を上げた。
(ひっかかった!やっぱ知ってるじゃないか!)
ルイは、目の前にいるバスが、コウモリダンゴの一件に絡んでいるバスであると確信した。
「ル、ルイさん、なんでその話を私に……?何を知ってるんですか!?」
バスが明らかに動揺した声で言った。
「あ、あはは……。バスさん、落ち着いて……。俺は怪しいものじゃないから……。ただ、ちょっと、ミルカクチャットのバスさんって人の話をグリマルさんから聞いて……」
「ミ、ミルカクチャ……!?」
バスはそう言うと、冷や汗をかいて、ぐったりと背もたれにもたれた。
「バ、バスさん……?」
「ルイさん……。あなた、本当に何者なんですか?テオ様のご友人だともいうし、テオ様の配下のあの二人も簡単に倒してしまうし……。グリマルさんのことまで……。ただの魔物ハンターとは思えないんですが……」
バスはまっすぐにルイを見ている。動揺を抑えきれていないのか、僅かに体が震えている。
「その、俺はバスさんと同じで、この世界の人間じゃないんですよ……」
ルイはストラップをテーブルの上に置いて、バスを落ち着かせるように慎重に言った。
「えぇっ!?じゃ、じゃぁ異世界からの流入者……?」
バスが、さらに驚いた顔をする。
「そ、そうです。まぁ、バスさんとは違う異世界ですけど……」
ルイは冷や汗交じりに言った。
バスは驚愕した表情のままルイを見ている。
「俺の……、いや、俺の知り合いに、俺と同じ名前の類って言うのがいるんだけど、そいつの以前の職場がグリマルさんと同じで……、あ、今は違う職場なんだけど、それで、二年くらい前……?二年半かな。それくらい前にその職場にコウモリダンゴが大量に送られてきたことがあって……」
ルイは、あくまで類とは別人を装い、言葉を探しながら慎重に言った。
バスはルイの話に言葉を失っている。
「あ、あはは……(やっぱ、わかりにくいよな……)」
ルイは、少し落胆したように視線をテーブルに落とした。
薄暗い部屋の中。
気まずい沈黙が漂う。
「そ、その……。バスさん。あなたですよね?グリマルさんが言っていた、コウモリダンゴの原図を描いたバスさんって……」
ルイは確認するように言った。
バスがおもむろに口を開く。
「そうです……。ルイさん。その話、どこまで知っているんですか……?」
「え?」
バスの表情が厳しいものに変わっている。
「テオ様のご友人だと言うし、疑うつもりはありませんが……。バイエモンをここに連れてきたことも、グリマルさんの話を持ち出したことも、何か意図があるんですか……?」
「い!?意図だなんて、そ、そんなもん無いですよ!」
ルイは慌てて否定した。
「じゃぁ、なぜですか?いくら何でもタイミングが悪すぎますよ。ナガールが……、王都もそうですが、バイエモンの息のかかったものが、この国で戦乱を起こしたんですよ。それなのに、バイエモンを連れてくるなんて……」
「あ……、(そ、そりゃそうだ……。)ご、ごめんなさい……」
ルイは思わずしゅんとして、うつむいた。
(戦乱後すぐってのは、やっぱまずかったか……。衛門君はともかく、もう少し日をあけてグリマルさんの件は聞けばよかったかな……)
ルイは僅かの後悔に膝の上で強く拳を握った。
バスはルイのその様子に慌てたように苦笑いをして言った。
「あっ、いえ!けっしてルイさんを疑っているわけじゃないんですよ」
ルイはうつむいたまま、じっと自分の拳を見つめた。
「……(どうしよう。なんだか、これ以上話をしていいものか迷うな……)」
再びわずかな沈黙が流れた。
バスが顔を掻き、気まずさを紛らわせるように言った。
「ルイさんは、この世界に来てどのくらい経つんですか?」
フッと、ルイが顔を上げる。
バスはルイを見てぎこちなく微笑んでいる。
「この世界……。そうですね、まだひと月ってところです」
ルイは遠慮気味に答えた。
「じゃぁ、まだこの世界のこと、あまりよく知らないのでは?」
「そう……ですね。衛門君のことも、マルに聞いただけだったし……」
「マル?」
「あ、ジニマルのことです。シオウルに住んでいるっていう……」
「えっ……」
バスの顔色が変わる。
「なんか、マルはこの世界じゃジニマルっていう魔王ってことになってるみたいですけど、本当はどこかの異世界の龍神だとかなんとか……」
ルイはそう言うと苦笑いをした。
バスの表情が驚きのまま固まっている。
「ル、ルイさん……。あのジニマルとも関わりが……?」
その声が驚愕に震えている。
「え、あぁ。今日……?というか、(真夜中過ぎてるから)昨日?というか、カロ屋で会ったんですよ。それで、仲良くなったというか……」
「カロ屋……、カロの森……」
バスはつぶやくように言うと、そのまま再び黙り込んだ。
(たしかに、ジニマルは昨夜シオウルからカロの森の方向に引っ張られていた……。しかし……。まさか、いや、そんな……)
バスが眉間にしわを寄せる。
「バ、バスさん?」
ルイは冷や汗交じりにバスを見た。
「い、いや……。すみません、ルイさん。なんというか、ルイさんの話、驚くような名前しか出てこなくて……」
バスはそう言うと、口元を覆うように頬杖をついた。
(一体何者なんだ、この人は……。テオさんに呪符通信を送って、ガドリさんがそれを確認しているわけだから、嘘を言っているわけでもなさそうだし……。そういえば、ワームウッドも簡単に倒したようなことを言っていたな……。それに、あのバイエモンがルイさんの前ではずいぶん大人しい……)
突然、バスが何か閃いたのかハッとした表情をして目を見開きルイを見た。
(ひょっとして、新手の魔王!?)
「ど、どうしたんですか?バスさん……?」
ルイは、動揺しているバスの様子をうかがった。
ルイの声が聞こえていないのか、バスは目を見開いたままルイを見ている。
(異世界からの流入者……。テオ様とのつながり、バイエモンのあの態度。そしてカロの森とジニマル。そうか!ルイさんに魔王の可能性が……)
バスは、視線をテーブルの上のコウモリダンゴのストラップに移した。
(亜型に似たコウモリダンゴのぬいぐるみ……。ひょっとして、ルイさんの眷属の媒体……?)
バスは確認するようにルイを見た。
「ハッ……!(そうか!どうして急に魔道院長が亜型に魔王の眷属の可能性を見出したのか、もしかしたらルイさんと関係が……?)」
バスはズレた方向に推論を展開した。
(この前私が呼び出したコウモ……亜型……。もしそうなら、必要無かったかもしれないな)
「バスさん……?」
「あ、す、すみません。ル、ルイさんにもいろいろ事情があるんですよね。それなのに……」
バスはそう言うと、申し訳なさそうにルイを見た。
「ど、どうしたんですか?急に……」
「いえ……。私も異世界の人間です。ルイさんもこちらの世界は元の世界とは勝手が違うでしょうから、何かと大変じゃないですか?」
バスは冷や汗交じりに笑った。
「え、えぇ。まぁ、そうなんですが……。(それよりも、エルデの事件はとりあえず置いといて、コウモリダンゴの著作権のことはバスさんに確認とらなきゃ。キヨさん、大量にストラップ作ってたからな……)」
ルイはテーブルの上のストラップを手に戻した。
バスがルイの様子を慎重に見ている。
(ルイさんが魔王の可能性……。テオ様が水面下で接触していると見てよさそうだな……。もし、魔王と判断が出れば、これはデグレードに取って……、いや、デグレードだけじゃない、フラガやミュール国、周辺国にとっても大事になるぞ……)
「あの、バスさん……」
「は、はい?何ですか?」
ルイとバスは互いに気まずそうな笑みを浮かべた。
「実はですね、カロ屋でこのコウモリダンゴのストラップを販売したいらしいんです……」
「えっ?(眷属の媒体なのに?)」
バスは少し驚いた顔をした。
「これは、本物のウスペンスキーの羽を使ってますけど、そうじゃなくて、販売用は全部毛糸と布地で作った物なんです……。その、このコウモリダンゴの原図って言うのが、……バスさんが以前、ミルカクチャットでグリマルさんに描いたものなんですよね」
「え!?そうなんですか?」
バスは顔をしかめて首を傾げた。
(私が描いたウスペンスキーの絵が、グリマルさんを通じてルイさんの眷属に?その媒体の模倣品をカロ屋で売る?)
バスは混乱した。
「それで、カロ屋でこれを販売するにあたり、その、原図を描いたバスさんの許可を取った方がいいんじゃないかって、グリマルさんから話が出たんです……あ。と、知り合いの類が言っていたんです」
ルイは苦笑いをした。
「グリマルさんから……?よ、よくわかりませんが……、それはもともとウスペンスキーを描いたものなので、私がどうこう言うようなものではないと思います……」
「じゃ、じゃぁ、カロ屋でこのコウモリダンゴのストラップを販売しても、問題ないってことですか?」
「えぇ。問題ないと思いますよ。……むしろ、ルイさんは良いんですか?」
「え?」
「だって、そのコウモリダンゴのぬいぐるみ、ルイさんの眷属の媒体ですよね?」
バスはそう言って、ルイの手の中にあるコウモリダンゴのストラップとルイの様子を交互に見た。
「えぇ!?け、眷属?……(な、何の話?)」
ルイは驚いてバスを見た。
「ち、違うんですか?……(私の早とちり……?もしくはテオ様から、魔王であることを口止めされているとか……?)」
バスは少し動揺したように考え込んだ。
ルイは困惑したような表情を浮かべた。
「(な、なんでストラップが眷属……?魔王じゃあるまいし……って)ハッ!?」
ルイは自身がこの世界にとって十分魔王の分類に当てはまることを思い出した。
両手をつき思わず椅子から立ち上がる。
「バスさん!お、俺、魔王じゃないですからね!?」
焦ったように言う。
動揺したルイの様子に、バスは苦笑いをした。
「あ、いやいや、魔王とは言ってないですよ、ははは……」
「そ、そうですよね……(あっぶねー……。魔王なんて……。俺はそんなたいそうなもんじゃないよ……)」
ルイは冷や汗を拭うようなしぐさをし、ゆっくりと椅子に座り直した。
(ルイさんのこの動揺ぶり……、やっぱり何か隠している気がするな……。十中八九、魔王と見ていいかもしれない……)
ルイは話題を逸らすように、テーブルの上に置きっぱなしになっていた“記憶をたどる箱”を手に取った。
「そういえば、これ……、ルルアさんが作ったんですか?」
そう言って動揺を抑え、箱を観察するように見る。
「えぇ、そうです。ルルア先生に、私が記憶を失う前の様子を見ることができる道具を作っていただいたんです……」
「これ、もう使えないんでしたっけ?」
「……そうですね。……何の不具合なのか、もう記憶は見れないみたいで」
「そうなんですね……」
ルイは“記憶をたどる箱”という名の木の枠をテーブルの上に立て、枠の中を覗き込んだ。
「フォトフレームみたいですね。もう使えないなら、絵でも挟んで飾ってみてもいいかも。枠の紋様もすごく細かくて綺麗だし……」
ルイはそう言うと、枠に施された紋様を手でなぞった。
(やっぱりこの枠の紋様の溝、すごく強い魔力が流れた形跡がある。それも……、衛門君の魔力と同じ波動……、異世界の魔力の波動か)
ルイは不意に顔を上げバスを見た。
バスが苦笑いをし、椅子から立ち上がった。
「なんだかんだで、もうすぐ夜が明けてしまいますね……。結局徹夜になってしまったようです――」
「そ、そうですね……」
「――気分転換に、熱いお茶をお持ちしましょう」
バスはそう言うと苦笑いをして部屋を出て行った。
一人、部屋に残されたルイは訝し気に木の枠を見た。
(この枠の溝に残っている痕跡は、バスさんの異世界の魔力の波動ってことか……。相当強いな……。そうだ……)
ルイは、溝になっている紋様を手でなぞり、そこに弱い魔力を流した。
枠の内側が淡く光り出す。
「おぉ!?」
内側の光は、薄いフィルムを張ったように弱く発光した。それはまるで薄いタブレット端末の画面のようだ。
「ま、マジか……。何も映ってないけど、これ、完全にタブレットじゃん……」
ルイは、外に魔力が漏れ出ないように指でテーブル上に魔法円の結界を描くと、その中に木の枠を寝かせて置いた。
そして両サイドに手を当て、さらに強い魔力を紋様になっている溝に流す。
先ほどよりも枠内が強く光る。
「……映らない。不具合って、こういうことか……」
ルイは顔をしかめると、ついでとばかりに、さらに強い魔力を紋様の溝に流した。
ギシギシッ!っと木枠がきしむ。
「うわっ!木枠の耐久値が低い!?」
ルイは慌てて送った魔力を止めた。
その直前、一瞬枠内に何やらパルスの飛び交う暗黒の世界が映った。
ルイは驚愕した顔のまま、光の消えた木の枠を見た。
「……、な、なんか一瞬映ったよな……?」
木枠から手を離し、呆然としたように木枠の紋様を見る。
(でも、あれ以上強い魔力を流したら、枠が壊れそうだしな……)
ルイは疲れたようにため息をつくと、魔法円を消し、木枠をテーブルの上に戻した。
そして、椅子に深く腰をかけ、ぐったりと背もたれにもたれた。




