第43話 不穏な影(1)
補修工事の音だけが響くナガールの町。
辺りは寝静まっているのか、工事をしている一帯以外、灯る明かりもほとんどなくとても静かだ。
「さて……、どうしよう?」
南門の前、ルイは辺りの様子をうかがった。
門からまっすぐに伸びる大きな道。
その両脇に茶色がかった石造りの小屋のような低い建物がいくつも並んでいる。
「(倉庫……?)この辺りは街外れみたいだね……。住宅街はもっと町の中の方かな?」
ルイはつぶやくように言った。
不意に、誰かに見られているような視線を感じる。
ルイは慌てて辺りを見回した。
通りより奥の石造りの小屋の屋根付近に、一瞬人影が見えた。
(……気のせいじゃないよな?……屋根の上に、僅かに誰かがいた気配が残っている。さっき門番の人が言っていた不審人物か?)
ルイは顔をしかめた。
「……イ、ルイ!おいっ」
「えっ、あぁ、どうしたの?」
「さっきから呼んでるのに、そっちこそどうしたんだ?」
バイエモンが訝しげに言った。
「あ、うん。(衛門君は今の気配を感じなかったのか……)なんというか、暗い街だな、と思って……」
ルイはそう言うと、まっすぐ伸びる道の先の暗がりに目を凝らした。
バイエモンが警戒するように辺りの様子をうかがう。
「衛門君、どうしたの?」
その言葉に、バイエモンはルイのすぐそばに寄って少し小声で言った。
「ルイ、オレと同じ……、異世界の魔力の波動を読めるか?」
「うん?読めるけど……どうしたの?」
ルイは予想外の話に、僅かに驚いた。そして少し前かがみになり、バイエモンの顔の高さに耳を傾ける。
バイエモンがルイに耳打ちするように、さらに小声で言った。
「この町にいる、オレと同じ魔力の波動を持ったヤツを探してくれ」
「えっ?」
「しっ!静かに。オレが魔王だと知られるわけにはいかないだろ?無駄に戦乱を起こしたくなかったら言うことを聞け」
バイエモンは少し苛立ったように言った。
「はいはい……(このクソガキ。なにが“言うことを聞け”だ!ここが町の中じゃなかったら、シメてやったところだぞ)」
ルイは内心の苛立ちを抑え、引きつった顔で答えた。
(それにしても、ナガールにもバイエモンの仲間がいたとは……)
ルイはフッと呼吸を整えると、南門の前、大きな道の真ん中に立った。
そして、道の先に向けて両手を伸ばし、スッと目をつむる。
「……どうだ?わかったか?」
バイエモンが急かすように言った。
「待って。そんなにすぐにわからないよ……」
ルイはそう言うとしゃがみこんだ。
そして足元に両手をつく。
その手から、目には見えない魔法円が放たれた。
それは一瞬にしてナガールの町全体を囲むように広がって消えた。
「ルイ……、まだか?」
バイエモンは、ルイが放った魔法円に気付くことなく、今度は少し遠慮気味に聞いた。
ルイはゆっくりと目を開け立ち上がった。
「どうだ?何かわかったか?」
バイエモンが期待したような目でルイを見る。
「うん、ちょっと待って……」
ルイはそう言うと大きくため息をつき、道の先を見つめた。
(確かに一人、町の中にバイエモンと同じ異世界の魔力の波動を持つ人がいる。……けど、妙に強い魔力を持ったヤツが他に三人ほどいるな……。変な動きをしているし、そっちの方が気になるな)
ルイは難しい顔をして腕を組んだ。
探った魔力の波動から、不審な人物のうち二人は人目を避けるように僅かに魔力を帯びた素早い動きで移動していた。
「ルイ……」
「あ、うん。そうだね。衛門君の知り合い、この先にいるみたいだよ」
バイエモンの顔が途端に明るくなった。
「やはり!やはりいたか!(バスィエル!)」
「……(へぇ。こんな顔もするんだ)」
ルイは、不意に見せたバイエモンの子供っぽい様子に、可愛らしさを感じた。
「どっちだ?そいつはどっちにいる?」
「えっと、この通りをまっすぐ進んで……。うん、とりあえず行こう」
ルイはそう言うと、町の中心へ伸びる街灯の消えた道を歩き出した。
しばらく真っ暗な街の中を歩き、大通りから一本入った小さな裏通りを通る。
その入った小さな路地の角、ルイは足を止めた。
そして、そこに立つ大きな家を見る。
「ルイ、ここか!?」
バイエモンも足を止め、ルイの視線の先にある家を見た。
薄茶色の二階建ての建物。
玄関灯も消え、建物にはいくつかの窓があるが、そのどれも暗く、明かりが灯っている様子はない。
ルイはためらうようにその玄関を見た。
「夜もだいぶ更けてきたからな……。もう寝てるのかもしれないよ」
「フン、まだ寝ているはずはない。ここまで来たんだ。(やっと……やっとバスィエルに……)」
バイエモンはそう言うと、ためらいも無く玄関のドアを叩いた。
ドンドンドン!
「おい!おーい。オレだ、開けろっ」
「え、衛門君!声が大きいよ」
ルイは慌ててドア前からバイエモンを引き離した。
「ルイ、何をする!ここまで来て帰るわけにはいかないぞ」
「だ、だけど――」ルイは近所を見回した。
「――その声の大きさは近所迷惑だよ」
その言葉にバイエモンが苛立ったように言う。
「補修工事の音の方が大きいだろ!」
「でも、衛門君、声枯れてるじゃん。そんな声で叫んでいたら、ノド痛めるぞ」
不意に玄関灯が淡く灯った。
「!?」
ルイとバイエモンはハッとした表情で玄関を見た。
「どちら様ですか?」
太い男の声が聞こえて、ゆっくりとドアが開いた。
「あっ……あ、あの……」
ルイは冷や汗交じりに、出てきた茶色いシャツを着た男を見た。
「おい!オレだ」
バイエモンが玄関前に立ち、男を見上げる。
バイエモンを見た男の表情が瞬時に強張った。
そして、慌てたように辺りを見回すとバイエモンとルイを強引に家の中に引き入れた。
ガチっと玄関に施錠をする。
「久しぶりだな、バスィエル」
バイエモンはニヤリと笑った。
男は驚愕の表情を浮かべたまま、玄関ドアに背を当ててバイエモンを見ている。
「あ、あの……、夜遅い時間にすみません」
ルイは引きつった笑みを浮かべて言った。
バスィエルは状況がつかめないといった様子でルイを見た。
「あの、衛門君の知り合いの方……ですよね?」
ルイは、男の様子が妙に焦っていることに不安を抱いた。
「え、衛門君……?」
男はそうつぶやくと、バイエモンを見た。
バイエモンは髪を三つ編みに結い、モスグリーン色のマントを羽織っている。
その姿は、わりとどこにでもいるような平々凡々とした少年に見える。
「(バイエモン……?)」
男は焦った表情のままバイエモンを見ている。
「バスィエル、お前、六年も何をやっていたんだ?」
バイエモンは口をへの字に曲げ、じっと男を見た。
「衛門君……。本当に知り合い、なんだよね?」
ルイが不安げに聞く。
「あぁ。知り合いも何も、コイツはオレの側近の一人、バスィエ――」「ヒッ!」「――モゴモゴ」
バスィエルは慌てたようにバイエモンの口を塞いだ。
「バスィエモゴモゴ?」
ルイは顔をしかめて首を傾げた。
男が苦笑して言う。
「い、いえ。私はバス、と申します。ひ、人違いですよ……」
「ば、バス!?」
今度はルイが驚愕した表情を浮かべた。
(こ、この人がバス!?コウモリダンゴを大量発生させた、あの“バス”!?)
バイエモンは塞がれた口元の手を強引に振り払うと、怒ったようにバスィエルに言った。
「ふざけんな!お前を探すのに、どれだけの労力をかけたことか!なのに、デグレードに寝返っているとは、どういうつもりだ!」
「えっ……」
ルイはバスィエルとバイエモンとを交互に見た。
(デグレードに寝返った?……どういうこと?コウモリダンゴと何か関係が?)
「な、何を言っているのかな?このお子さんは。ははは。私はバス。デグレード国の魔道士ですよ……」
バスィエルはそう言ったが、明らかに視線が泳ぎ挙動不審な様子だ。
「ん!?」
ルイは急に顔をしかめ玄関を見た。
(俺たちの後を付けていた?……この家を見張ってるやつがいるな)
ルイは、門の前で探った魔力の気配の、その中に引っかかってきた不穏な動きの人物の一人が、三階建ての向かい側の建物の屋上から、ルイたちのいる家を探るように見ているのを感じた。
「何がデグレードの魔道士だ。オレのことを忘れたのか!バスィエル!!」
「あぁ、もう!静かにしてくださいよ!」
バスィエルは、あきらめたような少し怒ったような、なんとも言えない様子でバイエモンに言った。
「バス……さん?バスィエルさん?」
ルイが戸惑うように言う。
「バスです!」
バスはルイを振り向くと、はっきりとそう返事をした。
「あ、あはは……。バ、バスさん……。どういった事情があるのかわかりませんが、……バスさんのその魔力、この世界の者ではないですよね?」
ルイは遠慮気味に言った。
しかしその言葉に、バスがハッと息を飲み沈黙する。
「そのバスさんの魔力の波動、この世界の魔力の下に、もう一層あるというか……、バスさんのその根底にある魔力の波動、衛門君と同じものなんですよね」
ルイは冷や汗交じりに言った。
「わかるんですか……?」
「えぇ、まぁ……。魔力の波動が読めるので……」
ルイの言葉に、バスはどこかあきらめたような表情を浮かべた。
そしてため息をつき、大きく肩を落とす。
「……まぁ、立ち話もなんですし、こちらにどうぞ……」
バスはそう言うと、暗い表情で広々としたエントランスを通り、奥にあるドアの一つを開けた。
一階の一番大きな部屋。
イスと丸いテーブルが中央に置かれている。
ルイとバイエモンはその落ち着いた佇まいの椅子に座った。
バイエモンと向かい合う位置に不安気な表情をしたバスが座る。
バイエモンはどこか安堵したようにバスを見た。
「あの……。ナガールって、ずいぶん静かな町なんですね」
ルイは部屋を見回し、カーテンの閉められた窓に視線を移して言った。
バスが引きつった笑みで答える。
「いえ……。普段はもっと活気がありますよ。その、今朝方までの戦乱のせいで……」
バスはそう言うと暗い顔をした。
「それよりも、バスィエル。ルーシュに帰るぞ!」
バイエモンが揚々と言う。
バスィエルは突然テーブルを叩くように両手をつき立ち上がった。
その表情が怒りに変わっている。
「誰のせいで町がこうなったと思っているんですか!バイエモン、あなたの差し金ですよね!?作戦の立案はロジュスですか!?デグレードの兵士が、この町の人たちが、何人死んだと思ってるんですか……」
ルイは驚いてバスを見た。
その目に僅かに涙が溜まっている。
それは怒りによるものなのか、悲しみによるものなのか。
「それはオレには関係ない話だ!町が荒れたのはシオウルの魔物どものせいだろう?そう言うことはジニマルに言え!」
バイエモンも対抗するように言った。
「ルーシュの魔道兵が侵攻してきたんだ。どう考えても後ろにあんたがいただろ!フラガ国とデグレード国に戦争をさせて、あんたに何の利があるって言うんだ!」
次第にバスの言葉が荒くなる。
「利?オレにはこの世界がどうなろうが知ったことじゃない。力場さえ手に入ればそれでいい。町の一つや二つ消えたところで、それがどうした!オレたちがこの世界に来た理由、忘れたのかバスィエル!」
バイエモンも勢いよく立ち上がった。
「ぐぬぬっ!」
「ま、まぁ、まぁ。二人とも、落ち着いて……」
一触即発な状況に、ルイは冷や汗交じりに二人の間に入った。
しかし、部屋の中には二人の怒りに満ちた魔力が充満している。
「とにかく、ルーシュに帰るぞ!バスィエル!!」
「私はバス!バスィエルじゃない!バイエモン、オレはもうあんたの側近じゃないんだ!!」
「ふざけんな!なんで裏切った!?ずっと探していたんだぞ……」
「……」
バスとバイエモンが睨み合っている。
「落ち着いてって……」
ルイは顔を引きつらせて言った。
不意に、バスがバイエモンから視線を外しルイを見た。
「あなたは何なんですか!?バイエモンの新しい側近ですか!?このガキを連れてお引き取り願えませんか」
「えっ!?いや、俺は衛門君の側近じゃないよ。カロの森で魔物ハンターをやっているルイっていうんだ」
ルイは慌てて答えた。
「なぜ魔物ハンターがバイエモンと!?こいつは魔王ですよ。知っていて連れてきたんですか!?ここに」
「え、いや、何と言うか……」
「こいつは関係ない!オレとバスィエルの問題だ」
バイエモンがすかさず言う。
バスが再びバイエモンを睨む。
「ふ、二人とも……。落ち着いて、ね?」
「今すぐにでもルーシュに戻るぞ!バスィエル」
「私はバスだ!いい加減にしろ」
先ほどよりもさらに怒りに満ちた異世界の魔力が部屋に広がり、さらに建物の外に漏れだそうとしている
(まずいな、この状況。外で見張っているやつが何なのかわからないし、そいつに気付かれたら厄介そうだ)
ルイは僅かに緊張した顔をすると、バイエモンの右肩に左手を、バスの左腕に右手を当てた。
二人が“なんだ?”と言ったような顔でルイに視線を移す。
その途端、ルイは二人の中にあるジニマルの封印はそのままに、二人の内在魔力をギリギリまで一気に吸い取った。
「へう!?」
「うぅっ!?」
バイエモンとバスが、その場に崩れ落ちる。
部屋に満ちていた怒りの魔力も瞬時に消えた。
「うん。これで話を聞いてくれるかな。(二人とも、芋虫魔物と似たような味。バスさんの方が、こっちの世界の魔力が混じってる分、少し薄味だな)」
ルイはニコッと笑った。
(まぁ、うまいけど。でも、衛門君は芋虫魔物よりもさらに濃度が濃い……。この二人がもともといた異世界の魔力がそう言う感じなのかな)
「な、何をした!?」
バイエモンが驚愕した表情で床にへたりこんで言った。
「くぅ……」
バスは意気消沈した表情で、そのまま床にぐったりと突っ伏している。
「別に、何もしてないよ……。少し大人しくなってもらっただけだね」
ルイはバイエモンを見降ろして言った。
「くっ!(ジニマルの姿固定魔法のせいで……)ハッ!(こいつ、もしや)ジニマルの仲間、だったのか?」
バイエモンは苦虫を噛み潰したような顔をしてルイを睨んだ。
「違うよ。マルとは……、ただの知り合い?かな」
ルイはそう言うと、バイエモンの視線を気にすることなく向きをかえ、バスのもとに片膝をついてしゃがんだ。
「!?」
バスが顔を上げ、僅かに緊張した様子でルイを見る。
(力が入らない。この女性……。今、オレに何をしたんだ……?)
「バスさん。……あなたもジニマルに何か封印をされているみたいですね」
「!?」
バスが驚いた表情をする。
「何!?バスィエルも?お、おいっ、それは本当か!?」
バイエモンはようやく起き上がると、椅子の足にもたれるようにその場に座り込んだ。
バスも、ゆっくりと起き上がり、その場に座り込む。
「そんなことまでわかるんですか……?」
バスはぐったりした様子でルイを見た。
「え、えぇ。まあ……。オレはかなり魔力の波動が読めるんで……。と、特殊能力ってやつかな、あはは……」
ルイはつじつまを合わせるように言った。
「ルイ……。バスィエルにジニマルの封印がかけられているっていうのは本当なのか?」
バイエモンが予想外と言った様子でバスを見た。
「うん。そうだね。バスさんの内在魔力の中に、ジニマルの魔力が蓋のように被っている感じ……」
「バスィエル……。何でそんなことに?そういえば、何でシオウルに行ったんだ?」
バイエモンは寄りかかっていた椅子の足から体勢を直し、テーブルの横に立った。
バスが顔をしかめる。
そして椅子を伝いゆっくりと立ち上がると、その椅子にぐったりと腰を掛けた。
バイエモンも立ち上がり、先ほど座っていた椅子に座り直す。
「あんたがロジュスにそう命令したんじゃないのか……?」
「は?オレは知らないぞ」
バスとバイエモンの様子に、ルイも椅子に座り直した。
バスが少し驚いたようにバイエモンを見る。
「(バイエモンの命令じゃない……?)ふぅ……、私もよくわからないんだ……」
バスはため息交じりにそう言うと、テーブルに肘をついて頭を抱えた。
「どういうこと?」
ルイが訊ねる。
「……記憶が。……私には六年前以前の記憶が無いんですよ」
「えっ」
「なんだと!?」
バイエモンは驚いた顔をした。
「いろいろと探って調べたところ、記憶をジニマルに封じられたようなんです……」
ルイはバイエモンの様子を見た。
バイエモンはその言葉に、ただただ驚いた様子でじっとバスを見ていた。
「全然思い出せないんですか?」
ルイが訊ねる。
「……ジニマルの動向を探る。……私がシオウルに向かった理由はおそらくそれです。……ただ、自分の意志ではなく、ロジュスに頼まれ向かったはず……」
バスはそう言うとテーブルに視線を落とした。
(“記憶をたどる箱”……あれで見たあの時の私は、確かにロジュスに……。間違いないはず)
「それは本当なのか!?ロジュスに?」
バイエモンはテーブルに身を乗り出すように言った。
「あぁ。間違いない」
「それは何で、わかったんですか?」
ルイが不思議そうに聞く。
「そ、それは……」
バスはそう言うと視線を外して、何やら言いにくそうに冷や汗を拭った。
「バスィエル。記憶が無いなら、なぜオレのことを見ただけでわかった?……どういうことなんだ?」
バイエモンはテーブルに腕を付いて身を乗り出したまま訝し気にバスを見た。
「……魔力の気配ですよ」
「気配……」
ルイがつぶやいた。
バスがルイを見る。
「魔力の気配……。先ほどあなたが言ったように、私の根底にあるのはバイエモンと同じ、この世界から見れば異質の魔力。バイエモンの異質な魔力の波動に、同じ魔力を持つ私が感応しないわけがありません……。すぐにわかりましたよ」
「なるほど……」
「それに、バイエモンのことは魔道具を使って、見知っていましたからね……」
「魔道具?」
魔道具と言う言葉に、ルイの頭に一瞬ルルアが思い浮かんだ。
「えぇ。私の先生に作っていただいた、“記憶をたどる箱”……。それを使って、過去の私の記憶を見たんです」
「そ、それを使えば、記憶は戻るのか?」
バイエモンは、僅かに期待した表情でバスを見て言った。
バスが暗い顔をして首を横に振る。
「いいえ。先生の話では、ジニマルにかけられた封印を解かない限り、記憶が戻ることはないと……」
その言葉に、バイエモンが落胆した顔をした。
「バイエモン……、あんたを知っていたのは、その箱で何度も見ていたからだよ」
バスはそう言うと、大きくため息をつき背もたれにもたれた。




