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五番通りの魔道具店  作者: もとめ
55/71

第39話 暗がりの策略

 薄暗く、大きな部屋。

 高い天井によく磨かれた黒い床と黒い壁。

 そして肌に刺さるような魔力の漂う冷たい空気。


 部屋の奥、二段ほどの段差の上に置かれた天蓋が垂れるベッドの上で、バイエモンが薄ら笑いを浮かべて寝ころんでいた。


 その二段の段差の下に、茶色のローブを羽織ったフラガの魔道士カルプがいる。

 部屋の入り口に近い壁際には、剣を携えたフラガの魔道兵と思しき女性が五人ほど控えていた。


「クククク……。そうか!ジニマルが、そんなに森に喰われているのか!」

 バイエモンはモジャモジャの髪をかき分け、体勢を直すと胡坐をかいてベッドの端に座った。

 顔色の悪いカルプが、板に挟んだ質の悪い紙をめくりながら言う。

「そのようです。しかし、油断はできません。弱体化しているとはいえ、現行で最も魔力の強い魔王です。それに、何を考えているのか読めないところもありますから……」


 ドン、ドン、ドン。

 突然、扉をノックする音が部屋に響いた。


「誰だ?」

 バイエモンが入り口の鉄の黒い扉を向いて、声を張って言った。

「むぅ……」

 ノックに話を中断され、渋い顔をしてカルプも後ろを振り向く。


 扉の向こうから声がする。

「アタシです。ウルクです。タウもいます」

「入っていいぞ」

「失礼します!」

 重い扉を軽々と開けて、ダークエルフのウルクが部屋に入って来た。

 その後ろから、カエルにも似た大きな肉の塊のような魔物も、ウルクとともに部屋に入る。

 そしてウルクの後について茶色い巨体を揺らしながらノシノシと歩き、バイエモンの前の二段の段差の手前で止まった。

「バイエモン様。タウでございます」

 魔物はそう言うと、挨拶をするように大きな目玉を軽く閉じた。

「うむ。ご苦労」

 タウは細く目を開けると、五人の魔道兵とは逆側の部屋の隅に移動した。そこで部屋を見回すように待機する。


 カルプがムッとした表情でウルクを見る。

「ウルク……。おぬし、エドとパーティを組んでシオウルにいたのでは?あいつらはまだ戻ってきていないようだが……」

 その言葉に、ウルクは面倒くさそうにカルプを見た。

「あー、あの人間たちね。邪魔だったから、アタシだけ先に戻って来たのよね」

 そう言って、右手で頭を掻いて、結っていたおさげの髪を直す。

 カルプは顔をしかめた。

「邪魔って……」

「でもさ、あいつらからちゃんと連絡来たでしょ?呪符通信」

「む、うむ、そうだが……」

「ならいいじゃない、別に。それよりバイエモン様!」

 ウルクはそう言うと、二段の段差を駆け上がり、バイエモンの座るベッドの前に跪いた。

「どうした?」

「シオウルのゴブリンたちを数匹ほど処分しちゃいました!」

 ウルクはそう言うと額に手を当て、テヘッと笑った。


 カルプが動揺する。

「なんだと!?」

 そして二段の段差のすぐ下まで来ると、ウルクを鋭い目つきで睨んだ。

「シオウルの魔物どもは、先月、デグレード国のナガール兵のフリをして、けしかけたばかりで殺気立っておる……。ジニマルが弱体化しているというのに、そのようなことをしたら、こちらに刃が向きかねんぞ……」

 ウルクはカルプを振り向くと、苦虫を噛み潰したような顔をして「ちっ」と舌打ちをした。

「むぅ……」

 カルプが半歩下がり、顔をしかめてうなる。

(この能無しの亜人が……)


 魔王ジニマルの弱体化という前代未聞の出来事に、フラガの魔道士たちも状況判断をつき兼ねていた。


 フラガ国とデグレード国はジニマル出現以前、たびたび大きな戦争を繰り返していた。

 現在も臨戦状態にあるが、両国が大々的に戦乱を起こさず小競り合いで収まっているのは、ほかならぬジニマルの存在があるからだ。

 バイエモンを取り込んでもなお、フラガがデグレード国に攻め入らないのは、バイエモンの魔力をもってしても、デグレードの北方に控えるジニマルに対抗する術がないからだ。


「ククク、二人とも落ち着け。ウルク、そのゴブリン処分にオレやフラガ国が関わったという痕跡は残していないんだろ?」

「もちろんです!バイエモン様。アタシの顔を見たものは一掃しましたから」

 ウルクはそう言うとニコッと笑って頭を下げた。


 ドン、ドン、ドン。

 と、再びノックをする音が部屋に響く。

「今度は誰だ?」


 扉の向こうから声がする。

「ノイスです。バイエモン様」

「ふん、入っていいぞ」

「失礼します」

 そう言って、カルプと同じ茶色のローブを羽織った若い見た目の男が入って来た。

 背は高く細身で、分厚いグリモワールを脇に抱えている。


 ノイスは軽く頭を下げると、まっすぐに部屋を進み、段差のすぐ下にいるカルプの横に並んだ。

「バイエモン様、カルプ様。ジニマル調査隊のエドから再び呪符通信が届きましたので、ご連絡に伺いました」

 ノイスはそう言うと、長く伸びた黄色い髪を直した。

「何か動きがあったのか?」

 バイエモンが興味津々に尋ねる。

「はっ。ジニマルがさらに弱体化し、シオウル山脈から離れ、間もなくナガール上空に差し掛かったとのことです」

「ほほぅ!」

 バイエモンは嬉しそうな声を漏らした。

「なんだと……。それほどジニマルの弱体化が進んでいる、ということか?」

 カルプも少し驚いたように、ノイスを見て言った。

「そのようです。エドの報告によれば、ジニマルを目視できないほどシオウルからは離れたようで、ジニマルの監視を止め、こちらに帰還するとのことです」

「ふむ……。(それほどまでの弱体化……)。このようなこと、ジニマルがこの世界に現れてから初めてのことですな。(一体何が起こっているのか……)」

 カルプが顎に手を当て少し考えるように言った。

「ククク……。ついにオレに風向きが変わったか?」

「……だとよろしいのですが」

 カルプは肩を落とし、曇った顔をした。


(ナガールに侵入させている間者からの連絡では、王都では対ジニマル用結界術を発動させるとか。対策があるのは王都のみ……。ならばナガールは、単純に結界強化の底上げだけで対応せざるを得ないはず……)


 結界強化の底上げには、相当の魔力が必要だ。

 しかし、ナガールに駐留している魔道士たちは、ほとんどが先月の強襲で負傷し、戦力になる者は少ない。

 そうなれば王都からの援軍は必須。


(王都の魔道士は対ジニマル用結界術の要員を残し、あとはナガールの援護に向かうか……?)

 そうなれば、王都にいる魔道士の絶対数が減少する。

(ふむ。いくら対ジニマル用結界術が強力でも、それは我々には全く影響のない魔術。王都を叩くならまさに好機か?しかし……)


 弱体化したジニマルの動きがまったく読めない。

 このままジニマルは“カロの森”に魔力を最大まで喰われるのか?

(そうなれば、ジニマルは当分の間動くことはできない……)

 しかし、瞬時に魔力を取り戻し、シオウルに戻る可能性も否定はできない。


 カルプは訝し気な顔をしてバイエモンを見た。

「うーむ……(やはり今は事を起こさず、状況を見守るべきか……。だが、このバイエモンがジニマルの弱体化を黙って見ているとは思えんな……)」


 バイエモンはカルプの予想通り、何かを思い立ったように立ち上がった。

 そしてベッドから降り、ウルクの前に立つ。

 ウルクが慌てて段差を一段降り、その場に跪いた。

「カルプ、かねてよりの計画を実行するぞ!」

「えっ?――」カルプは驚いて顔を引きつらせた。「――……あ、あの計画でございますか!?」

「あぁ!これぞ好機。ジニマルが弱体化することなど、この先あるかどうかわからないだろ?今やらずしていつやるのだ!」

 バイエモンは威勢のいい声を上げた。

 その足元で、ウルクがバイエモンに熱い視線を送っている。

(バイエモン様。素敵!)


 ノイスが曇った顔で、カルプの様子をうかがうように見た。

「あの計画と申しますと……?」

 カルプが言いにくそうに口を開く。

「むぅ……、カロの森の……“力場”を……、奪取する」

「えっ?い、今、何と……?」

 ノイスは驚いた声を上げた。

「“力場”だ。“カロの森の力場”を奪うのだ」

 それを聞いたノイスの顔がみるみる青ざめ、恐怖に満ちる。

 そして、バイエモンに視線を移し、声を震わせ言う。

「バ、バイエモン様。それはさすがに……。ジニマルは森に、“カロの森”に引っ張られているのですよ。いくらジニマルが弱体化しているとはいえ、“魔力を奪う雨”が降っているさなか、ジニマルが向かう先に行くなど自殺行為。わ、我々はそのようなこと……、とても容認できません」

 ノイスは首を横に振ると、そのまま視線を伏せて唇をへの字に結んだ。


 バイエモンが腰に手を当て言う。

「ハハハ!お前たち、何もわかっていないな。だからこそだ、だからこそなんだよ!“魔力を奪う雨”の焦点はジニマルに当たっている。オレが魔術を施せば、完全ではないにしろ、あの忌々しい雨の効果を押さえることができる」

「で、ですが!」

「ノイス、あんた心配し過ぎ!」

 ウルクが口を挟む。

 そして立ち上がり、両腕と太ももに描かれた紋様を指して言う。

「これ、バイエモン様に施してもらった“呪詛雨除け”の魔術よ。これのおかげで、“魔力を奪う雨”から弱体化されずに済んだわ。さっき、実際に経験したんだから、間違いないんだから!」

「……くっ」

 ノイスは思わずウルクを睨んだ。

(それは魔物寄りの亜人にだから効果のあるもの!我々人間に効果があるとは限らない)


「うーむ……(バイエモンがカロの森の“力場”を奪取できれば、フラガの完全勝利。ジニマルなど恐るるに足らず。そして、デグレード国は滅亡する……)」

 カルプが大きくため息をつく。

「たしかに、今後ジニマルが弱体化する可能性は低いやもしれませんな。……なぜ“カロの森”の魔力低下が起こったのかも不明ですし。同じ状況を作ってジニマルを弱体化させることはほぼ不可能……。“カロの森”に強引に異世界へ向かう風穴でも作れば別ですが」

「し、しかしカルプ様。“カロの森”は、王都デグレードよりもさらに東。ここからは直線で森へ向かったとしても数百キロはあります。しかもその直線上にはデグレード最強の城塞都市王都デグレードがあるのですよ!……前回の襲撃で明確にわかりましたが、あの特殊な防衛結界は、我々フラガの魔術では破れません!」

 ノイスが焦ったように言った。

「ハハハッ、確かにそうだな。この国の魔法・魔術では、あれは破れん」

「バ、バイエモン様!」

 バイエモンがノイスを向き、ニヤリと笑い言う。

「だが、オレたちは違う。ロジュス、いるか?」

 そう言ったとたん、バイエモンの背後に影が揺らめく。


「控えております」

 その影は、バイエモンから少し離れた位置に立つと、静かな口調で言った。


 真っ黒いマントを羽織り、青い顔をした頬のこけた男が不気味に佇んでいる。

 カルプとノイスが若干恐怖の混じる顔で、半歩後ろに下がった。

「(相変わらず不気味な男よ……。バスィエル様とは大違いだ……)ロジュス様……。バスィエル様の捜索から戻られていたのですか……」

 カルプがつぶやくように言った。

「えぇ。手がかりはつかめましたので……」

「うむ。オレたちは、近々、バスィエル奪還に動くつもりでいるのだ」

 バイエモンが嬉しそうに言った。

「だ、奪還?い、いつの間に……」

 カルプが驚愕した表情でロジュスを見た。

(奪還ということは、どこかに囚われているということ?……我がフラガ魔道部隊が、何年も探しても何一つ手掛かりがなかったというのに……)


「先週のことです。シオウルのふもとでジニマルの動きを探っておりましたら、ナガールに近いカロの森の辺縁部から、我が世界の魔力の波動を感じたのです。我が世界の魔術を使わなければ生じることのないあの魔力の波動……。この世界に我々以外であの魔力を使える者は、バスィエル以外におりません……。バスィエルはナガールにおります。間違いなく……」

 ロジュスは淡々とした口調で言うと、そのまま影のように部屋の暗がりに溶けていった。


「ナガール……。バスィエル様はデグレード国に囚われている……?」

 ノイスが驚愕した顔のまま、つぶやくように言った。


「オレたちは、この世界の魔力とは異質の魔力を使っている。この異質の魔力を使えば、王都デグレードの防衛結界にひびを入れることなど容易い。ジニマルも同じだ。あの魔力も相当異質だ。だからこそ、ナガールも王都も対ジニマルに向いて動いているんだろ?あの魔力、力の無い者にとっては毒そのものだからな、ハハハ!」

 ノイスは言葉を失い、顔を引きつらせてバイエモンを見た。

「うーむ……」

 カルプが怪訝な顔をしてうなった。

(ナガールにも数名の間者を送り込んでいるにも関わらず、バスィエル様がナガールにいるなら、なぜこれまで六年もの間、気が付かなかった?魔力の遮断された場所にでも囚われていたというのか……?しかし、間者の報告で、ナガールにそのようなものがあるなど、聞いたことがない。フラガ国の人間はともかく、同じバイエモンの側近であるロジュス様なら何かしら気づいてもよさそうなものだが……。それが先週になって急に気づいたというのも変な話だ……。どうも何か引っかかるものを感じますな……)


「バイエモン様、どうなさいますか?」

 ウルクがバイエモンを見上げて言った。

「そうだな……。ナガール……、バスィエル……」

 バイエモンは顎に手を当て視線を落として何やら考え始めた。


「バイエモン様……」

 部屋の隅の暗がりからロジュスの声がする。だが、その姿は影に紛れ見ることができない。

「私に良い考えがあります。うまくいけば、バスィエルも手元に呼び戻せるやもしれません……」

「ほぅ?それはどういうことだ?」

 バイエモンにはロジュスの姿が見えているのか、不気味に笑い、部屋の隅へ視線を向けた。

「まず、ウルクが殺めたというゴブリンどもを、ナガールの者がやったと偽装しシオウルの魔物どもに情報を流します。そうすれば先月同様、シオウルの魔物どもはナガールを襲撃するでしょう。同時に、ジニマルを弱体化させているのも王都のやつらだということにするのです。そうすればシオウルの魔物だけでなく、ジニマルを魔神と仰ぐ魔物どもは、デグレードそのものを敵と認識し、まずはジニマルの拠点に近いナガールにその刃を向けるはず。結果としてナガール兵の注意をこちらから逸らすことにつながります」


「ふむ……、なるほど。そうなれば、こちらでの動きがとりやすくなりますな……」

 カルプが感心したように言った。

「そうです。ナガールが魔物に襲撃されているとなれば、ナガールは防衛に入り、それにより王都デグレードから魔道部隊だけでなく、それ以外の援軍も来るはず。そして、戦場と化したナガールからのバスィエル救出を名分に、こちらからも魔道兵を送り込むのです。その魔物とデグレード軍との戦乱に乗じてナガールを崩壊させれば、デグレードの戦力を大幅に削ぐことができるでしょう……。ナガール崩壊は、あくまでフラガではなく、すべて魔物が起こしたこと。我々は同朋救出に動いたにすぎないのです」

「へー。それならミュール国や周辺国への言い分もたつわね」

 ウルクが言葉とは裏腹に、素っ気ない態度でロジュスのいる暗がりに言った。


「当然、兵を出してくれるよな?カルプ」

 バイエモンのその言葉に、カルプは一瞬顔をしかめた。

 そして少し考えて答えた。

「……“バスィエル様救出”という大義名分が立つのなら、このフラガ辺縁の地、ルーシュに駐留する魔道兵全軍をもってナガールに向かいましょう……。ただし、王にお伺いを立てなくてはなりません。こう大きく兵を動かすとなると、私の一存では決めかねます」

 バイエモンがニヤリと笑って頷く。

「いいだろう。すぐに王に了解を取り付けるのだ!」


 ノイスが、ようやく冷静さを取り戻し、話に加わる。

「し、しかし、カルプ様!デグレード魔道士の中には、恐ろしく強い者もいます。シオウルの魔物など、我が魔道兵がナガールに着く前に一掃されてしまうのでは?」

「あー、それは大丈夫なんじゃない?あのシオウルの魔物ども、案外強いよ」

 ウルクが段差に腰を掛け、頬杖をついて言った。

「し、しかし……」

 ノイスが言い淀む。

「“テオ”……か?」

 バイエモンが、そうつぶやいてノイスを見た。

「え、えぇ……。デグレード国の時期魔道院長と目されるあの男……、おそらくは一人で、我が魔道士精鋭部隊シャクティの魔道士上位10名に匹敵する強さかと……――」

 その言葉に、部屋の隅に控えていた五人の女性魔道兵が渋い顔をする。

「――それにデグレードの有能な魔道士が数人でも加わってしまえば、いくらシオウルの魔物どもが強くても……」

「ククク、そうだな。デグレードの魔道士は、あの男だけが突出して強い。あれは全盛期のアルマデル以上の強さだ。……だが、ほかの魔道士どもはそうでもないぞ。アルマデルもすでに老いぼれているからな」

 バイエモンが、どことなく楽しそうに言った。

「心配ならば、デグレードの戦力を分散させればよいだけ……」

 暗がりからのロジュスの声。

 イノスが恐怖の表情を浮かべたまま、冷や汗交じりに言う。

「どのように!?」

「時間差で王都デグレードを攻めるのです。王都からナガールまでは距離があります。王都の援軍がナガールへ近づいた辺りで王都に奇襲を仕掛ければ、援軍の一部は王都に戻るはず……」

 ロジュスの策に、カルプが感心しながらも不満そうに言う。

「そう、こちらの計算通り動いてくれれば良いのですがな……」

 そして鋭い視線を暗がりに向け、続けて言う。

「それから、王都奇襲にはフラガの兵は出せませんな。そちらは“魔物に襲われているナガールからの同胞救出”という名分が立ちません」

「…………」

「ふむ、たしかに……」

 バイエモンはそうつぶやいて腕組みをすると、そのままベッドにドンと尻をついて座った。

 そして片足で胡坐を組み、そこに頬杖をつく。

「ならばこうしよう。王都奇襲はオレの配下の者たちで行う。そうすればフラガ国とは関わりなく、オレたちが直接手を下したということにできるだろ?」

 カルプが目を細めバイエモンを見る。

「……そのようにしていただければ、フラガとしても手持ちの兵を失わずに済みますな。されど、この戦略は、あくまでジニマルが弱体化しているからこそ成り立つもの……――」カルプは部屋の暗がりをじっと睨んだ。「――ロジュス様、もしもジニマルの魔力が元に戻ったらどうされるおつもりですかな?」


「ハハハハっ!」

 突然、カルプの言葉にバイエモンが大声で笑い立ち上がった。

「!?」

 皆、一様に驚いた顔をしてバイエモンを見た。

 控えていた魔道兵の女性5人も、タウも同じようにバイエモンを見ている。


 バイエモンの強い魔力が部屋に充満する。

「カルプ、あまりオレたちをなめるなよ。オレたちは異世界から空間を捻じ曲げてこの世界に来ているのだ。目的は魔力の泉……、この世界では“力場”と呼んでいる、魔力が無限に湧き出る場所だ!この世界に来て三十年。ジニマルのせいで、いまだ力場があるとされる“カロの森”にすら入ることができず、ずっとこの地に甘んじてきた。ジニマルが僅かでも弱体化したのなら、この好機を逃すことはできない!たとえジニマルの魔力が戻ったとしても、我々はそのまま動く!」


「………さ、左様で」

 カルプは突然のことに呆気にとられ、ようやく出てきた言葉がそれだった。


 暗がりからロジュスが言う。

「バイエモン様……。それでは王都奇襲は我々にお任せください。デグレード国の戦力をナガールと王都デグレードに引き付けておけば、“カロの森”への注意は希薄になります。ましてや“魔力を奪う雨”とジニマルがいるのなら、森に近づく者さえおりますまい。それに、たとえジニマルの魔力が戻ったとしても、これまでのふるまいから、ヤツはこの世界の人間には干渉はない様子。“カロの森”に入られるのなら、少人数で、この世界の人間に化けて行かれるのがよろしいかと……」

「ふむ!ロジュス、なかなかの策略よ」

 バイエモンが暗がりに向いて言った。そしてカルプを振り向く。

「カルプ、オレたちはそう動く!ナガールの方は……、バスィエルのことはフラガに任せたぞ!」

「……かしこまりました。バスィエル様救出、フラガ国ルーシュ駐留全部隊をもって、必ずや成功させましょうぞ……」

 カルプはそう言って軽く頭を下げた。

 隣にいたノイスも同じように頭を下げる。


「うむ!いざ、デグレードへ!」

 バイエモンは手を上げ、声高らかに言った。

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