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五番通りの魔道具店  作者: もとめ
36/71

第28話 探索する、その前に

 

 今月初め。

 魔道院ナガール支所。


「おはようございます」

 ミラは机の上を布巾で拭きながら、フロアに入って来た支所長を見た。

「うむ。おはようですじゃ……」

 支所長は朝から難しい顔をして、よぼよぼと通路を通り、一番奥の自分の席にゆっくりと腰を下ろした。

 そしてマントを椅子の背もたれに引っ掛けると、背もたれにもたれて大ききため息をつく。

 ミラはその様子をクスッと笑って見た。

「支所長、どうしたんです?朝からずいぶんお疲れのようですね。昨日の魔道院臨時招集で、何かあったんですか?」

 ミラはそう言うと、隣の机に移動してその机の上を拭き始めた。

「うーむ……」

「おはようございます」

 そこへバスがフロアに入って来た。

「あ、バスさんおはようございます」

「おはようですじゃ」

 バスは羽織った青いマントを脱ぎながら、ぐったりしている支所長を見た。

「あれ?どうしたんですか?今日はずいぶん早いですね、支所長。昨日、魔道院の会議で何かありましたか?」

 そう言って、脱いだマントを椅子の背もたれに引っ掛ける。

 ぐったりとした支所長は、遠い目をして言った。

「うむ。……昨日の魔道院の会議、院長名での招集で何事かと思いましたら、なんだかよくわからぬことで」

 そう言うと支所長はフロアを見回した。

 そして椅子からよぼよぼと立ち上がり、通路の真ん中に立つと、魔法課、魔道士課、両方の魔道士に向けて言った。

「昨日の魔道院臨時会議の報告ですじゃ。獣魔課に限らず、すべての魔道院に所属する魔道士はウスペンスキー亜型を探せとのことですじゃ。今、下の階の獣魔課の連中にも言ってきたところですじゃ」

 その言葉に、ミラとバスは互いに顔を見合わせた。

 魔道士課にいる数人の赤い魔道服を着た魔道士たちも、キョトンとした顔をして互いに顔を見合わせている。

「亜型はウスペンスキーの突然変異だと考えられておったが、どうやら魔王の眷属の可能性があるとかないとか……。このナガール周辺での目撃情報はないが、王都獣魔課ではおそらく血眼になって探すはずですじゃ。かわいそうにのぅ。まぁ、ナガール支所でも適当に協力をお願いしますですじゃ」

 その言葉に、バスは一瞬引きつった顔をした。

 ミラはあきれたように苦笑いをしている。

 そしてバスに向かって小声で言う。

「私、亜型って見たことがないんですよ。あれってフーナプラーナの東の森で主に目撃報告がある魔物ですよね?……この辺りですと、ちょっと出ないんじゃないかと」

 その言葉に、バスは引きつった笑みをして答えた。

「そうですね。確かにこの辺りでは、まず見かけないですね……。でも何で急に……?」

 バスは顔色をうかがうように支所長を見た。

 支所長は疲れた顔をして自分の席に戻ると、目をこすりながら言った。

「ワシにもよくわからんことですじゃ……。何でも、王都で毎月一回開かれている青空市の見世物小屋の亜型が、死体を残さず消えたとかなんとか……――」

 その言葉に、ミラは付近を持ったまま、何かを思い出すように宙を見た。

 支所長は続けて言った。

「――魔物が死体を残さず消えたとかいうのを根拠に、魔道院では魔王の眷属ではないかと騒いでおるが、ワシに言わせりゃ、それは単に幻獣の一種じゃったというだけの話。まったく、院長名で招集するほどのことかのぅ」

 バスは支所長の話を引きつった顔をして聞いていた。


 二年ほど前に、混線した魔術によって意図せずカロの森に放たれたコウモリダンゴ。

 それが今頃になって、まさか魔道院で騒ぎになるとはバスは思ってもいなかった。

(院長名で臨時招集までして……。当然ルルア先生も出席されていたはず。……正直にルルア先生に話をして相談するべきか……。いや、やはり先生には迷惑はかけられない……)


「あ!そうそう、思い出したわ」

 ミラが付近を片手に、急に声を張って言った。

「うん?何ですじゃ?」

「亜型と言えば、私、前に王都魔道具課のソフィア様に、ウスペンスキー亜型の羽で作った髪飾りをもらったことがあるんですよ。でも、魔力効果がほとんどなかったんですよね」

 ミラはそう言うと、ニコッと笑った。

 その言葉に、支所長は大きく頷いた。

「うむ。亜型は素材として出回っている数が極めて少ないからのぅ。それに魔力効果がウスペンスキーの一割もない、きわめて効率の悪い素材じゃ。獣魔課もそんなことはとうに知っているはずじゃろうに。魔王の眷属じゃと?まったく、何を血迷ったことを言っておるのかのぅ」

 バスはその言葉に苦笑いをし、そして支所長に尋ねた。

「その、支所長。幻獣の一種というのは何ですか?」

 支所長がキョトンとした顔でバスを見た。

「なんじゃ、バス。そんなことも知らんのか……。あ、いや、すまぬ。そうか、バスなら知らぬかもしれんな」

 支所長は、バスが記憶喪失であることをたまに失念し、よく会話の中で思い出すことがある。

 支所長は気まずそうな顔をして言った。

「カロの森は昔から、まれに幻獣が出ることがあるのじゃ。まさに幻の獣じゃ。満月の夜のカロの森は非常に魔力が強くなるからのぅ。その魔力が森の中にいる魔物の幻影を作り出すのじゃよ」

「えっ……。そんなことが……。なるほど……(そういえば、あの時も満月だったような……)」

 バスは思い出すように顎に手を当て、視線を落とした。


 ルルアの魔道具。

 バスィエルの異世界の魔法紋様。

 パルスの飛び交う未知の異世界。

 満ちる月の晩の、カロの森の濃度の濃い魔力。

 魔術に混線を招いた原因を探れば、どれも思い当たる節ばかりだ。

 そこにカロの森で時折起こる、幻獣ができる要因と、偶然にも重なったとしたら……。


「幻獣なら、死体が残らないのは当然のことじゃ。何しろ元が魔力の靄のようなものじゃからのぅ」

 そこへ、下のフロアから青い魔道服の魔道士が入って来た。

「失礼します。支所長、先ほどのお話ですが……」

「ん?オリバーか。どうしたんじゃ?」

 オリバーはバスと同じ年頃の少し太めの魔道士で、獣魔課に所属している。

 オリバーは通路をまっすぐに進み、支所長の机の前に来て言った。

「ウスペンスキー亜型の捜索の件ですが、この辺りには、まず出ないのではないかと思いまして……」

「うむ……。そうじゃなぁ。そもそもこの近くには、ウスペンスキーとなるマ・ブーナの巨木が無いからのぅ」

 支所長はそう言うと、机の引き出しを開けた。

 そして中から1枚紙を取り出すと、それを机の上に広げた。

「バス、お前さんも、ちょいとこっちに来い」

 そう言って、バスに手招きをする。

 バスは「はい」と返事をして、支所長の机の前にオリバーとともに並んだ。

 机の上に広げられた、ナガール周辺の地図。

 支所長はその地図を指さして言った。

「ここがナガール。そして南東に、カロの森から続く森がある。しかし、ナガールからこの森の縁までは直線でも約30キロは離れておる。魔法課の調べで、この最短の森の縁から少し入ったこの辺りに一本マ・ブーナの巨木が確認されておるが、もし亜型が出るとしたらこの辺りかのぅ……」

 支所長は地図上の、ナガールから35キロほど離れた森の辺りを、指でグルグルと示した。

 地図をじっと見ていたオリバーが、首をかしげて言った。

「うーん、ですが……。亜型はそもそも、二年前のあの年の天候不順が原因で、マ・ブーナの実が完熟ぜずに落ちたものが亜型になった、という調査報告を聞きましたが……」

 その言葉に、机を拭いていたミラも、話に入って来た。

「あー、一昨年ですよね。雨ばっかり降っていて、夏なんかすごく寒い年でしたね……」

 そう言って苦笑いをする。

「うむ。そうじゃったな。……その亜型の調査研究をしたのが、ワシの同期で王都魔道院獣魔課長のシェオルじゃ。……ヤツは先日の王都強襲で相当負傷したようでのぅ。昨日、王都に行ったついでに見舞いにと思って医療棟に行ってみたんじゃが……、面会謝絶になっておった……――」

 支所長はそう言って、ぐったりと背もたれに大きくもたれた。そして虚ろな表情で天井を見つめた。「――今回の会議にヤツが出席しておったら、話の流れが多少は変わったかもしれぬのじゃがのぅ……」



 その週の週末。

 バスは休日を利用し、王都に来ていた。

 黒いぴったりとしたパンツにチュニック風の上着、その上に青いマントを羽織り、魔道院前の大通りを足早に歩いてゆく。

「久々に来たな……。魔道院」

 そう言って、通りから、整備された公園の先にそびえたつ魔道院塔を見上げた。


「バスー!」

 そう声を上げて手を振りながら、公園を貫く道を、遠くからこちらに向かって走ってくる青いマントの人影。

「ディルメイ!」

 バスは久々に見たディルメイの姿に、思わず声を張って名前を呼んだ。

「バスー!久しぶりですの」

 マントの下に花柄のワンピースを着たディルメイが、息を切らせてバスの前に駆け寄る。

「うん、久しぶりだね」


 バスとディルメイは、バスが魔道高等学校の二年生に編入したときに同級生となり、その後、魔道院魔道学校までの2年間、同じクラスで過ごした仲だ。


「バス、今日は久しぶりの王都ですの?でしたらギルド通りに行くですの。感じのいいカフェができましたのよ」

 ディルメイはそう言うと、ニコニコと笑って通りの反対側の大きな道を差した。

「うん。そうだね。それもいいけど、ここまで来たから、魔道院にも寄って行こうかと……。それに、あまり他の人に聞かれたくない話があるんだ」

 バスはそう言うと、ディルメイが差した方とは真逆の、魔道院塔のある公園を貫いて通る道を見た。

「そ、そうですの?今日はお休みの日ですから、出勤している方は少ないとは思いますのね……」

 ディルメイは少しつまらなそうな顔をした。


 魔道院のエントランス。

 高い天井に、ひんやりした空気。

 どこからともなく魔力を帯びた風が弱く吹いている。

 バスはエントランスを見回した。

 床に描かれた大きな魔法円。

 等間隔に吊り下げられた、紋様が描かれた旗が、その弱い風に僅かに揺れている。

「魔道院……。半年ぶりかな……」

 バスはそう言うと5階まで吹き抜けの高い天井を見上げた。

「私は、五日ぶりですのね。先週からフーナプラーナの詰所におりますの」

 ディルメイはそう言うとため息をついた。

 その様子に、バスが苦笑して言った。

「そうか、王都の獣魔課では、もうウスペンスキー亜型の探索に入っているんだね」


 誰もいないエントランスの端に寄り、ディルメイはその壁に寄りかかった。

「それで、話って何ですの?」

「うん。そのウスペンスキー亜型の話なんだ……」

 バスがそう言うと、ディルメイは浮かない顔をした。

「獣魔課では、フーナプラーナに詰所を作って、東森の調査を行っていますけど、全然見当たりませんのよ。亜型。出てくるのはメア・ラビットばかり……。早く王都に帰りたいですのね……」

 そう言って足元に視線を落とす。

「……ディルメイ、獣魔課の他の人たちは亜型について何か言っているかい?ナガールでも一応は、探索に出てはいるけど、……手がかりがなくてね」

 バスはそう言うと苦笑いをした。

「うーん、そうですのね……。ここだけの話、獣魔課ではシア様とベトール様とで意見が分かれていて、少し雰囲気が良くないですのよ」

「意見が分かれて?」

「ですの」

 ディルメイはそう頷くと、ひと呼吸おいて壁に吊るされている旗を眺めながら言った。

「シア様は、魔道院長寄りの意見で、魔王の眷属説ですのね。でもベトール様は……。あまりはっきりおっしゃらないですのだけど、たぶん、課長が前に出した報告書と同じで、幻獣だと思っている気がしますのよ」

「ふむ……(やはり、コウモリダンゴを見つけるまでは解決しないだろうな……)」

 バスは顎に手を当て、少しの間何か考えるように無言のまま宙を見つめた。そしてディルメイに向いて言う。

「ディルメイは?どう思う?亜型のこと、魔王の眷属だと思うかい?」

 その問いに、ディルメイは腕を組んで難しい顔をした。

「うーん、未熟な実が魔物化した亜型は、あの年しか出現していないのですし、異常気象による突然変異で間違いないと思いますのね。ですので幻獣説が有力な気がしますの。でも、私の希望としては、魔王の眷属がいいですのね。シア様が言うには、幻獣に似せて作られた眷属が混じっているのではないかということを言っていましたし、実際、眷属を見てみたいですのね」

 そう言うと、バスを見てニコッと微笑んだ。


「そうね、もし魔王の眷属だとしたら、王国にとっては朗報になるかもしれないわね」


 突然、吹き抜けのエントランスの、らせんに抜ける階段の上階から声がした。

 バスとディルメイは、驚いて声のした方を見上げた。

 らせん階段の途中、ルルアが薄地の水色の外套をなびかせて、階段をゆっくりと下りてきていた。

「ルルア先生!」

 バスがそう言って、少しうれしそうな、戸惑ったような表情を浮かべ、階段の下に駆け寄る。

「る、ルルア様」

 ディルメイは驚いた顔をして、バスとルルアとを見た。

 ルルアはエントランスまで下りると、バスを見て微笑んで言った。

「バス、久しぶりね」

「はい!お久しぶりです。先生、お元気そうで何よりです」

 バスはルルアの横に立ち、ニコニコと笑顔を見せている。

 その様子をディルメイはあっけに取られて見た。

(どういうことですの?何でルルア様とそんなに仲が良さそうですの?)

「バス、それで、こちらの方は?」

 ルルアがディルメイを見て言った。

「王都魔道院獣魔課のディルメイさんです。私の魔道高校と王都魔道学校時代の同級生でして……」

「ディ、ディルメイですの……」

 ディルメイはそう言うと、少し緊張した様子でルルアに頭を下げた。

「こんにちは。ディルメイ。魔道具士のルルアです。バスは、魔道第二中学校で私の教え子だったんですよ」

 ルルアはそう言ってディルメイに微笑んだ。

「そ、そうだったんですのね。私は魔道第一中学出身ですの」

「あら、そうなのね。なら、魔道具の授業はイルミナが受け持っているわね」

「で、ですの……」

「それにしても、魔道高校では驚いたんじゃない?こんなオジさんが突然編入してくるなんて」

 ルルアはそう言うとバスを見てクスクスと笑った。

 バスは照れたように顔を掻いている。

 ディルメイは気まずそうに言った。

「そ、そうですのね。周りはみんな10代から20代の方ばかりでしたので、バスは目立っておりましたのですの」

「いやぁ。そうなんですよ。でも、高校と魔道院学校はまだ20代の人もいたので良かったんですが、中学の時は……。それこそルルア先生に受け持っていただいてた時は、こんな小さな子も同級生にいましたからね。まるで親子ですよ」

 バスはそう言うと、自分の腹の辺りに手を当てて“小さな子”の背の高さを示した。

「フフフ。私が今、受け持っているクラスにも飛び級入学の子がいるのよ。その子はまだ九歳なの」

「へぇ。それはすごいですの」

 ディルメイは少し感心したように言った。

「ところで今日は、先生はどうして魔道院に?」

 バスがルルアを見て不思議そうに尋ねた。

「え?あぁ……――」

 ルルアはそう言うと、抱えるように持っていた資料を左手に持ち直した。

「――これを、写しに来たの。ミゲルさんの、魔王に関する研究資料の一部ね……」

 バスは、ルルアの魔王という言葉に、一瞬緊張が走った。

「へぇ。なんだか難しそうですの」

 ディルメイがその資料を見て言った。

「かつて、この世界に存在したとされる魔王のリストよ。このデグレードにも、約百年前には魔王はいたの」

「知っていますですの!魔王アフリマネスですのね。魔道の歴史の授業ではよく出てきますの」

 ディルメイはそう言うとニコッとルルアを見た。

「うん。そうね。魔王アフリマネス。この魔王がどんな魔王で、どうしていなくなってしまったのか、実のところ、詳しくはよくわかっていないのよ……」

 そう言うとルルアは困ったような笑みを浮かべた。

「そ、そうなんですか……」

 バスは冷や汗交じりに言った。

 バスは、もしバイエモンの話を振られて、ルルアが自分がバイエモンの配下のバスィエルであることを勘付かれるのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。

 ルルアが続けて言う。

「その頃には、すでに魔道院長は、魔道院の魔道士としてご活躍だったはずなのに、話を聞いてもなんだかはっきりしなくって……。それに、テオ様も若かったとはいえ、魔王が存在した時にはすでに魔道院に入られていたはずなのに……」

 ルルアはそう言うと資料に視線を落とした。

「……わからないのですか?」

 バスが遠慮気味に聞いた。

「えぇ。魔道院に残されている資料も、詳しくは書かれていないし、ミゲルさんが調べてまとめてくれていた、この研究資料が一番詳しいのよね……」

 ルルアはそう言うとため息をついた。

 そしてつぶやくように言う。

「二人とも、魔王から記憶の操作でもされたのかしら……」

 その言葉にバスはルルアを見た。

 ルルアも自分の言葉にハッとしたようにバスを見た。

「そういえば、バス。……あの後、記憶の手掛かりは見つかったのかしら?」

「い、いえ……。それが……」

 バスは引きつった笑みを浮かべた。

「勤務地にナガールを志望したのは、ミュール国に近いからでしょう?」

「え……。えぇ、まぁ……」

 ルルアに限らず、バスの記憶喪失を知るものは、バスがミュール国の未登録の魔道士なのだろうと思っている。バス自身、“記憶をたどる魔道具”で過去の自分を見るまでは、ミュール国の魔道士なのだろうと、疑うこともなかった。

「バスなら、絶対王都勤務だと思っていましたの。魔力も強いですし。でも、ナガールを希望するなんてびっくりでしたのよ」

 ディルメイはそう言ってバスを見た。

「いやぁ……。記憶が戻らないにしても、何らかの手がかりがつかめるんじゃないかなと思ってね……。ナガールならシオウル山脈も見えるから……、あはは……」

 バスはごまかすように苦笑いをした。

「“記憶をたどる箱”……箱と言っても枠だけど……。確か壊れてしまったのよね?」

 ルルアは優しく問いかけた。

「は、はい……。すみません」

 バスが申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

「ううん。いいのよ。あれは試作品でもあったし、バスの魔力を加味しないで作ってしまったから」

「それで、ルルア様にお願いが……。もう一度、あの“記憶をたどる魔道具”を作ってもらえないでしょうか?」


 ここでルルアに会ったのは偶然にしろ、バスは亜型の探索の命令が出てからというもの、ルルアに“記憶をたどる魔道具”の作成の依頼を考えていた。

 コウモリダンゴが見つからなければ、院長名で魔道院全員に出された亜型の探索は終了することはない。

 そうなれば自分も、ディルメイたちも、ずっと探索に駆り出されることになる。


「かまわないわよ。今度はもう少し魔力耐性の強い素材で作る必要があるわね……」

 ルルアはそう言うと、ニコッと微笑んでバスを見た。

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