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第10話 接触

 花の住む村に近付いていることが分かったので、今日の花はあの日、保護した時に着ていた服を着せて歩くことにした。


「寒くない?」


「うん。寒くない」


 ウサギ耳のパーカーを残念そうに脱ぎながらも、今まで着慣れた自分の服に嬉しそうな花。

 バスタオルを巻きつけただけのようなシンプルなワンピースだが、よく見れば所々に模様が刺繍されている。

 ぬいぐるみのようにモコモコの毛におおわれた頭には丸い耳がちょこんとついていて、パーカーを脱いでもとても可愛らしい。大人たちはどんな姿なのだろうか。同じように可愛いのか、それとも全く違う風に大きくなるのか……。

 今回の遠征の目的は、花を自分の村に返すことともう一つ、花たちの種族とサリチル国が交流を持つことだ。花たちの種族とは言葉が通じないので、最初は念話の魔道具を使って通訳ができる花だけが頼りになる。



 美香の肩の上にいるダダが、時々飛んで上空から辺りを確認している。

 この辺りの木々は背が低く、足元にはゴツゴツの岩が転がっている。洞窟よりも上には人が登ることはあまりないので、獣道らしきものもない。


「美香、少し右側に進むと開けた場所がありますそこで休憩しましょう」


「そうね。花、疲れてない?」


「だいじょうぶ。ここ、知ってる匂い……みたい」


 かなり近付いたようだ。山頂まではまだ距離があるが、だんだん花の様子が慣れたような、安心感というか……身軽になったように見える。

 藪をかき分けて抜けると、ぽっかりと空間が広がっている。そこは花の名前のもとになった「春の黄色い花」の花畑だった。


「ここ……来たことある。家はあっち」


 そう言って花が指さした方向には、切り立った崖が山頂まで続いているのが見えた。


「じゃあ休憩しましょうか」


 美香がリュックを置いて中からおやつを取り出そうとしたその時!


「美香!危ない!」


 ガットが叫ぶと同時に美香に飛びかかってきた。受け止めきれずに思わず尻餅をついてしまった美香の、その頭上を、ヒュッっと音をたてて冷たい風が通り過ぎた。


 パァン


 後ろの岩に当たり音をたてて砕けたのは、ピンポン玉ほどの氷の塊だった。


「ガガッ、グゥ、ガウ」


 あちらこちらにある茂みのいくつかから、唸り声が聞こえた。

 そのうちのひとつから聞こえた声を聞いたとたん、花が目を見開き動きを止めた。そのまま少し悩んでからガットの顔を見て、そして声のした藪に向かって走っていった。


「パパ!魔法、撃たないで」


「ガウッ、グググ」


 花が叫びながら藪に飛び込んだ。しかしその途端、四方の藪から魔法で打ち出されたと思われる氷の玉が、一斉に美香たちに襲い掛かった。


「痛ッ」


 いくつかは外れたが、ひとつふたつは美香に当たった。どうやら大怪我をするほどの威力はないらしい。けれど確実に青あざになっただろう。

 ガットは上手く避けていたが、ズーラはお腹に氷の玉を受けた。皮鎧を着ていたので鎧に当たって氷の玉がはじける。

 ダダは氷が当たればただでは済まないだろう。慌てて空へと逃げた。


「美香、藪に花に似た者たちがいます。えーっと、全部で6人です。気をつけて!」


「分かったわ、大丈夫!わたしには効かないみたい」


「油断するな、美香」


「分かってるわ。さあ、花が説得してくれるまで、ちょっと運動しましょうか!」


 飛んできた氷の玉を手に持ったスコップで叩き落として、美香が不敵に笑う。

 リュックはそのまま投げ捨てて身軽に。ポケットに入っている殺虫剤を一応確認しつつ、重みのあるスコップを改めて構えなおした。


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