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第9話 登山

 今日の昼食は自分で作ったお弁当。晩御飯から明日にかけての食事は携帯保存食だ。

 お湯は魔道具で簡単に沸かせるので、インスタントのカップスープは持って来ている。


「そういえば美香はあまり長時間こちらにいないので、野営は初めてでしたね。洞窟で寝るのは大丈夫ですか?」


「うーん、洞窟で寝たことは無いけど、大丈夫と思うわ。寝袋も持ってきたし、エアコンの魔道具もある事だし!」


「それにしても、このスープは美味しいですね」


「俺はこっちの方が好きだな」


 みんなで味見しながらわいわい騒いで食べるのもまた楽しい。

 昼の休憩を終えて、今夜の目的の洞窟までまた歩き始める。

 花も一生懸命歩いている。美香からしたら小さいが、身長はほぼガットと同じくらい。歩幅だって一人前だ。

 花たちの種族は5歳か6歳で成人する。この春4歳になる花は、人にすれば小学校の高学年から中学生くらいだろうか。成人すればガットやズーラよりは大きく、身長は120センチ程にもなるようだ。


「でも疲れたら言ってね。休憩するから」


「うん、歩ける。ありがとう」


 そう言いながらきょろきょろと辺りを見回している花。住処の近くに来たので、見知った景色がないか確かめながら歩くのだ。村はきっと目立たないように偽装されているはずだから、花のうっすらと残った記憶だけが唯一の頼りなのだ。

 春とは言え山の風はまだ冷たいが、やがて来る短い夏に向けて、草木は精いっぱい枝葉を伸ばし、気が早いものは花を咲かせてもいる。


「あ……春の黄色い花」


 花が草むらを指さす。そこには地面にペタリと貼りつくようにして、可憐な黄色い花が咲いていた。花の正式な名前は「春の黄色い花」

 これが名前の由来になった花なのだろう。春の柔らかい光を精いっぱい受け止めようと、地面に葉を広げ、花は良い香りを放っている。


「可愛らしい花ね」


「ん、ありがとう」




 休み休み進み、さほど奥行きのない洞窟に到着したのは辺りが薄暗くなりかけた頃だった。

 山に入った者たちが休憩に使うので、地面は(なら)されて寝やすくなっている。

 火を使った跡もあるが、今日は暖房の魔道具を使うので、火で暖をとる必要もない。ぼそぼそと携帯食を食べながら、昼とはまた違うスープを飲んで盛り上がった。

 ダダ達が持ってきた携帯食もちょっとずつ味見させてもらう。

 堅く焼いたスナックのような細長いパンは、塩味がちょっと強くて美味しい。

 ダダの持っている木の実はピスタチオのように緑色で、噛むと甘みがあってびっくりした。

 美香が持ってきた柿の種とチョコレートは「刺激的な味ですね」と言われた。

 花は春雨のスープが気に入ったようだ。



 寝袋は硬い地面の感触を大して和らげはしなかったが、慣れない山歩きで疲れた美香と花はあっという間に寝入ってしまう。


「何かあった時に起きてもらえばいいか」


「そうですね。では私たちで順番に見張りをしましょうか」


 ダダとガットとズーラの三人は顔を見合わせて笑う。そして順に見張りをしながら平和な一晩を過ごした。





 日の出とともに目を覚ました美香たちは洞窟を出た。すでにかなり山の上まで登ってきた一同は、眼下に小さく、ふもとの村を見る事ができた。


「あ……」


「どうしたの、花?」


「見たこと、ある。あっち」


 花はふもとの方を指さして言った。もう少し高い位置から、眼下に広がる景色を見ていたのであろう。見覚えのあるその光景に花は、住んでいた村が近い事を感じ、自然と笑顔を浮かべた。

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