第3話 試行
土手に広げられた、イール確保用の道具各種。
まずはオーソドックスな罠タイプだ。
美香が用意したのはペットボトルの口の部分を切って反対むきに差し込んだもの。入りやすく出にくい、簡単にできる基本の罠だ。
同じように竹で編んだイール用の罠をダダ達も用意してきていた。
「じゃあ、問題はこれをどこに仕掛けるかね」
ちょっと待ってて、とみんなを土手の上に残し、河川敷に降りるとゆっくり紐を伸ばし、岸に近いイールの居ない水面にそっと下ろす。
最初はうまくいったように見えた。
罠は静かに水の中に沈んでいく。
罠の中には重石と餌用に買っておいた肉が一切れ入っている。
肉の匂いにつられ、程なくイールが一匹中に入った。
そのタイミングですぐに引き上げればよかったのかもしれない。
「あら、入った!」
美香が喜んで紐を引き上げようとしたその時、罠に掛かったイールが外に出ようと暴れはじめた。同時に外のイールもまた餌を求めて罠の中に侵入しようとし、狭くて入れなことに怒りだしたようだ。
罠が激しくゆれ、近くに居たイール達に当たり、そこからまた雷がさざ波のように川全体に広がっていった。
「きゃっ」
美香は思わず手に持っていた紐を放した。そのまま罠は沈み、紐の先まで川に飲み込まれていく。
「なんだかピリッと来たわ」
ワイヤーではなくテグスだったのだが、静電気が伝ってきたのか魔法の雷の効果なのか……
美香だから軽く痺れた程度で済んだが、同じことをガットやズーラがするのは危険だろう。
沈んだ罠の中でずっとイールが暴れているからか、しばらく波紋のような雷がそこから広がっていたが、やがて収まった。
次に試したのは釣り竿である。
太めのテグスに大きな針をつけて、針には先ほどと同じ肉を付けた。
これもまた、勢いよく投げると雷が広がるので、竿の届く範囲でそっと水面に降ろすことに。
伸ばした糸の先の肉が、水面に着くか着かないかというところまで降りた時、イールが餌に気が付いた!途端にバシャバシャとそこに集まって、水面が盛り上がり数匹のイールが一斉に肉に飛びついた。がばっと開けた口は大きく、うっかり手でも入れたら腕一本飲み込まれるかもしれない。
1匹が食いつくやいなや、今度は素早く糸を巻き取りイールを回収する美香。幸い無事一匹のイールを釣り上げる事ができたが、水面ではまた雷の波紋が広がっている。
釣り上げたイールは長さがおよそ1メートル、太さは子どもの腕くらいと言えば分かるだろうか。
陸に上げてもまだバチバチと小さな雷を飛ばしながら暴れている。
ガットが土手から駆け下りてきた。
「ハアッ!」
気合を入れて手にした剣でイールの頭を貫く。
その瞬間、電撃が剣を伝ってきたが、一匹程度ならコボルトが怪我をするほどの威力はない。
「捕まえることは出来たけれど……これを何百回も繰り返すのは辛いわね」
イールを掴んで土手に持って上がりながら小さく零した。
倒したイールはビニール袋に入れてから花に冷凍の魔法をかけてもらう。
次は魔法を試してみよう。
河川敷までは雷が届かないことが分かったので、今度はみんなで降りてみる。
つぎに挑戦してみるのは魔道具だ。
美香の肩に乗って、ダダが持ってきた魔道具を覗き込む。
「どれから試すべきか……」
「まずはこれにしましょう」
美香が取り上げたのは、竜魚の時にも使った冷凍の魔道具だ。
スイッチを入れると周囲の温度を下げる効果がある。閉空間で使えばそれなりの効果があるものだ。
スイッチを入れてから振りかぶって、遠く、川の中心に向けて投げた。
水面に着いた瞬間、イールの雷がさく裂し、バチバチと激しい音をたてる。そしてそれは今までと同じように、川全体のイールに広がった。
しかし、冷凍の効果か、魔道具が落ちたあたりの雷はすぐに収まってきた。
「効いたのかな」
「試してみよう」
ズーラの言葉にガットが、石を拾って魔道具を投げたあたりに投げ込んでみた。
バチバチバチバチッ!
先ほどと寸分変わらぬ雷が広がる。
それはそうだろう。イールの大群で温んで泡立っている水中で、そうそう簡単に水が氷るわけもない。
「冷凍の魔道具、使い捨てじゃないのに……」
惜しそうに泡立つ水面をみるズーラだった。
はたしてイールに効く魔法はあるのか、それとも数えきれないほどの大群を一匹一匹釣り上げるしかないのか。残った手段を眺めながら、一同は言葉少なに思案した。