第6話 花とお出かけしよう
依頼を受けた美香たちは、竜魚をギルドに買い取ってもらってから、まずは一度こちらの世界の家に帰ることにした。ガットとズーラ、そして花と合流するのだ。
ついでにみんなに買ってきたお土産も置いていこう。
可愛らしい赤いドアの小さな家に着くと、パパは目を輝かせて喜んだ。
「ママ、ママ、可愛いなあ。ほら、絵本の家みたいだ」
うんうん。美香は適当にあしらって、さっさと靴を脱いで家の中に入った。
「へえええ、外国っぽいのに、靴は脱ぐんだね」
家の中からテトテトと歩いて、花が出てきた。
急な来客にも困らないように、服はズボンまでしっかり着ている。けれどフードを被っていないので、柔らかい巻き毛の間に可愛い丸い耳が覗いていた。
「あ、あの、えっとこんにちは。ここに住まわせてくれて、ありがとうございます」
ズーラの手をしっかり握って、緊張しながら美香に話しかける様子。
「やはり一緒に住んでいないとダメね」
と、軽く落ち込みつつ、夫を紹介した。
「花ちゃん、この人は私の夫なの。守っていう名前。よろしくね」
「君が花ちゃんかあ。春の黄色い花さんだね。可愛いなあ。俺は守です。よろしく」
にこにこしながら花の頭を撫でる夫。美香は負けじと、荷物からプレゼントを出して披露しようとした。
……が、ダダに止められた。
「そんなことをしている暇はありません。ガットとズーラも出かける準備をしてください。緊急依頼です。花も一緒に行きますよ」
「仕方がないわね。ここに置いておくから、帰ってきてから開けましょうね」
荷物がごっそり減って軽くなった美香と夫のリュックに、魚臭くなったタオルをビニール袋にくるんで突っ込んだ。これはまた後で使えるだろう。
魚が大量にとれる予定なので、冒険者ギルドから荷車を借りてきている。冷凍の魔道具もズーラが持っていく。
花にはしっかりフードを被せ、夫が抱っこした。
「花ちゃん、じゃあお出かけしようか」
「パパ、靴、靴忘れないで。じゃあ行きましょうか」
そう。大量発生した竜魚を討伐するという名目のピクニックに、いざ出発だ!
みんなでドーアを通って、滝の裏の洞窟に行った。
洞窟の中は魔物が出る気配はないし、滝の外に出ても、パッと見た感じは魔物はいない。
「そういえば、ダダ、ここってどのあたりか分かる?」
「ああ、伝えていませんでしたね。ここが、前回雪男討伐の時に立ち寄る予定だったドーアです。ここはこの地区にしては珍しく雪が積もらない場所なので」
「ああ、そうなのね。でもそこの林、吸血蔓がいて、通り抜けは危険よ?」
「……本当ですか?」
ダダは知らなかった情報らしい。
帰ってから、ギルドを通じて付近の住人に警告しなければ。
などとぶつぶつ言っている。
花には何度も、決して森に入らないよう、また滝壺に近付かないように言い聞かせて、地面に降ろした。
緊張した顔で黙って頷く花。
そしていよいよ、滝壺に蠢く竜魚と対面することになった。