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第5話 お揃いのホクロをつけよう

 アシドの町に入ると、物珍しさから夫がキョロキョロと周りを見ている。今日も大通りにはたくさんの人が歩いていて、その姿かたちも様々だ。


「わあっ、美香ちゃん、かわいい町だね。へえ、俺たちよりみんな、小さいね。可愛いなあ。あ、あのお店は何を売ってるんだろう?」


 ついついよそ見をして遅れがちの夫に、ダダが「急いで!」

 と声を掛けたが、夫は気にする様子もなく、観光を楽しんでいる。


「パパ、急いでってダダが言ってるわよ」


「ああ、ごめんごめん。ママはダダちゃんが言ってる言葉が分かるんだねえ」


「え?……あ、あら、まだ念話の魔道具使ってなかったわ。でもさっきダダに初めましてって挨拶してたわよね?」


「うん。だってママがいつもお世話になってる人って言ったじゃない?」


 どうやら夫は雰囲気だけで会話に参加していたらしい。海外でもすぐに馴染みそうな特技!けれどこのままでは不便なので、慌ててダダに念話の魔道具を使ってもらう。


「え、あ、え!ホクロ……」


「ほら、私もここに。急ぐわよ、パパ!」


「急ぎましょう、オーガのパパ」


 おおお、言葉が分かる!

 そしてママとお揃い!

 呟きながら、走ってギルドへと向かった。


 冒険者ギルドは駆け込んでくる美香達一行に、またか……とちらっと眼を向け、驚く気配もない。特に冒険者の間では美香たちの活躍はしっかり広まっている。そのため今更オーガが一人増えたところで、大丈夫だと思われる程度の信頼はされている。

 受付にさっと手を上げて、ギルド長の所に行くからと声を掛けて通り過ぎた。


「またお前らか……今度はどんな厄介事を持って来たんだ?」


 ギルド長が、やれやれと肩をすくめる。前回、花の事で相談に来たのは、たったの二日前のことだ。ギルド長は部屋の奥の机で書類仕事をしていたらしく、目の前にたくさんの書類を積み上げている。

 手前には美香たちが座れる大きさのソファーセット。そのソファーの前のテーブルを指さして、ダダが言った。


「マスター、これを見てください。オーガのパパ、その竜魚をこのテーブルに」


 夫が置いた魚を見て、ギルド長の雰囲気が瞬時に変わる。


「これは何処で?一匹だけだったか?」


「いえ、一昨日もらった鍵のドーアの近くよ。沢山いたわ!美味しいかしら?」


「あああああ、ダダ、説明してないのか?」


「そんな暇ありません。私もさっき見せてもらったばかりなんですから」


 すでに息の止まった竜魚を見て、急に焦りだしたギルド長が、早口で説明してくれたところによると――


 竜魚は元々15センチほどの小さな魚型魔物として発生する。気の荒い魔物で、住処に入ってきたものは人、動物、魔物の区別なく襲い掛かる。鋭い歯で噛みつくので迂闊に噛まれれば怪我はするが、逆に言えば釣ろうと思えば簡単に釣れる。


 そのため、川や池など竜魚の発生しそうな場所は人気の釣りスポットとなっており、発生したとたんに駆除されるのだ。

 しかし、発生地点が人の少ない山奥などの場合、見つけられずにそのまま増えてしまう場合がある。そして増えた竜魚は一定の密度を超えると、共食いしてサイズが大きくなるのだ。


 美香たちが捕まえた竜魚、70センチにもなると、いったいどれだけ共食いしたのか。さらにまだ沢山いた竜魚たちがこのまま共食いを続けたら、いったいどんな化け物になるのか……


「発見してくれて良かった。緊急依頼をお願いしたい。今すぐそこにもう一度行って、竜魚を一掃してもらえないだろうか」


 こうして、美香と夫の異世界デートは、一転、仕事へと変わった。

 成り行きで夫も冒険者登録をしてしまい、さらには一人で置いていけない花も一緒に行くことに。


 美香は思った。

 ショッピングからフィッシングに変更ね!

 つまり美香の中では、デート続行なのである。


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