第1話 夫を巻き込んでみよう
この世界は思ったよりもあちらこちらで、異世界に通じているのかもしれない。
一年前は異世界など考えたこともなかったのに、今では二つの魔法の鍵を持ち、三つのドーアの位置を知る美香。
そして向こうの世界に家と仕事を持ち、仮初とは言え子どもができた。
最初はスーパーの仕事の事だからと思い、家で話すこともなかったが、こうなるとさすがに自分の胸の内に収めておくのは不安だ。
子どもが寝静まった夜、お茶を淹れて夫と飲みながら、思い切って話すことにした。
「ねえ、聞いてくれる?私……異世界に子どもが出来たんだけど」
翌朝、寝不足の目をこすりながら家族を送り出して、美香はヒマワリマートに出勤した。
美香の仕事は第4倉庫に行く火曜日と土曜日は固定で、日曜日は休みと決まっている。それ以外の日は同僚とシフトを組んでいて、今週は水曜日と金曜日が出勤だ。
昨夜は本当に大変だった。
お茶を噴き出した夫に事情を説明すること2時間、日付も変わってもういい加減寝なければという時間になってもぶつぶつ言っている夫。
一応変な誤解は解けたようだがまだ何やら心配なので、明日の木曜日に会社を休んで、美香に付いて一緒に向こうに行くらしい。
今日の店舗での仕事は、休憩なしの4時間。午前中だけだ。
「お疲れさまでした」
挨拶を済ませてエプロンを外してから、店内をひとまわりして買い物を済ますのは、ヒマワリマートに勤めるようになってからの決まり事になっている。わざわざ買い物に出かけなくてもよくなったのは、とても効率的だ。
いくつか花のところに持って行くため、食材をいつもより多めに買い込んだ。
いったん帰って荷物を置いて、今度は反対方向の店に行き、幼児服を何点か買って帰ることに。
「女の子がいたら、こんな服を着せたかったのよね」
着せやすさを重視して選んだので、デザインは少しモサッとしているけれど、花のモチーフがいくつも付いた丈の短いスカートは女の子らしい。
フード付きの上着も何枚か買った。ウサギ耳や猫耳が付いているのも。
足首にゴムが入った薄いピンクのズボンは、裾がひらひらしなくて、ズボンに慣れない向こうの人にも履きやすいだろう。
買い物ついでに隣りの雑貨屋で、ダダ達三人にもお土産を選んだ。
ダダには手触りのいいビーズクッション。
ズーラにはアクセサリー。
ガットには……良いものを思いつかなかったのでスノードームのオルゴールを。
できればこのまま、向こうの世界にすぐに持っていきたいが、もうすぐ帰ってくる子どもたちを放っておくわけにもいかない。
楽しい買い物から帰り、いつものように晩御飯の支度をする。
そして荷物をまとめながら、明日の事を思う。
久しぶりの二人きりのデートの、行き先が異世界な件について。