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第10話 帰宅

 凍った滝の裏に隠された洞窟というのは、珍しく美香の冒険心を刺激した。このまま外に出て、辺りになにがあるか調べたい。

 調べたい……のだが。


「そろそろ帰らないと、心配されるわね」


 スマホの時間を見れば、もうすぐ6時。良平たちは無事カレーを食べているだろうか。

 6時からのテレビ番組を考えて、激しく不安に駆られた美香は、急いで帰宅することにした。


 洞窟は湾曲していて奥まで一目で見渡せることはないが、50メートルほどの距離しかない。

 突き当りのドアに菫色のリボンの鍵をさし、他の場所を意識せずに扉を開けば、先ほどまでの異世界とはどこか違う景色。

 目の前には草の生い茂った斜面があり、木には蔦が絡まっている。冬なので多少枯草も目立つが、登りたくない、道も付いていない山。

 その手前には人通りのない砂利道が左右に伸びている。

 振り返るとフェンスがあり、網目の扉の向こうは駐車場だ。このフェンスの扉から出てきたらしい。


「あら、ここ……」


 そこは美香の家からは歩いて15分程の、学校の裏手にある山だった。

 よく猿が出たとか熊が出たとかお知らせが来るので学校が近いにもかかわらず、あまり遊んでいる子どもは見かけない場所だ。

 見た目は普通のフェンスの扉だが、よもやこんなところから異世界に行けるとは、ラノベ好きの中高生も思いもよらないだろう。





 そしてペタンコになったリュックを背負って、スコップを持って、美香は家に帰った。


「ただいまー」


「あ、ママだー!」


 浩平の声の後に焦った良平が続く。


「ヤベーよ」


「あははは。兄ちゃん、ヤベーよ!」


 出かけた時のまま放り投げられたランドセルが転がるリビング。

 脱ぎっぱなしの制服。

 6時半近いがまだ食べられていないカレー。

 落ちているゲームのコントローラーとリモコン。

 付きっぱなしのテレビ。


「片付けなさーーーーーい!」


 今日もまた、美香は叫ぶ。

 そして思う。

 ……異世界の方がよっぽど平和だわ。



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