第6話 雪山は危険なので
美香が第4倉庫に帰らなければならない時間が迫っている。
あまりにも大きな問題だから、自分たちだけで抱えている訳にもいかない。
「冒険者ギルドに連れて行きましょう。ギルドマスターに相談してみないと」
「そうね。花ちゃん、ママたちは花ちゃんを探しに山を下りてくるのかな?」
「ううん、迷子は指の数だけ探して、諦めるの。……花はもう、きっと諦められたの」
普通だったら身に纏った雪が剥がされたら、山の上に逃げ帰るものなのだろう。どこまでも続く雪山に盲目的に探しに入るよりも、山頂近くで待つ大人たち。
けれど花は雪を削ってくれる人に会わないまま、本能的に暖かさを求めてふもと近くに降りてきてしまった。
左手を広げて、人と同じ五本の指を眺めながら、泣き疲れてぼんやり答える花。
当然だが、家に帰る道は分からない。しかもこの雪の中だ。たとえ美香たちが連れて行こうとしても村まで辿り着ける可能性はほぼ無い。
「花ちゃんは、おばちゃんがいつかきっとお家に連れて帰ってあげる。お家は遠くて、どこにあるか分からないけど、雪が解けたらきっと見つかる。だから、今はおばちゃんたちと一緒に行こう」
「……ん」
全てを諦めたように小さくうなずく少女。
泣くことも逃げることも諦めた少女に、美香がかける言葉も途切れがちだ。
今は仕方がないが、少しでも早く親元に返せるよう、何か方法を探そうと心に決めた。
さて、いったん花を保護すると決めた美香だったが、早速問題がある。
この世界で美香が相談できる相手と言えばギルド長くらいだ。しかしアシドのドーアは見張りがいて、通る人をチェックしている。こっそり誰にも内緒でギルド長のところまで花を連れて行くにはどうすればいいのか。
「内緒にしないといけない?表門から堂々と入ればいいんじゃないかな」
ズーラが首を傾げるのに、ダダが冷静に答えた。
「いや、今まで知られていなかった新人類という話になれば、国や、他国でも大騒ぎでしょう。花の村に攻め入るとかいう話になっても困りますし、花自身だって自由が失われるかもしれません。こっそり根回しする時間が欲しいのです」
「ギルド長は大丈夫なの?」
「ええ、彼はああ見えても、情に厚い人ですし、冒険者ギルドは国に対してもある程度発言する力を持っていますから」
いっそ美香が家に連れて帰ることも考えたが、それこそ見つかったら実験動物扱いで大騒ぎだろう。
「変装して通り抜けるのはどうかしら?」
「花はこの世界のどの種族にもあまり似ていませんので……」
鳥族や妖精族は顔は似ているが大きさが違う。コボルト族やリザードマンたちは顔が全く違う。
蛇族はそもそも体型が違い過ぎるし、強いて言えば竜人の赤ちゃんとは顔と体型が近いが彼らはほとんど体毛が生えていない。
他のいくつかの美香が会ったことがない種族も皆、似ているとは言い難いという。
「いっそ私の子どもとして連れて行こうかしら」
「オーガの子など記録にありませんから、それは良いかもしれませんが……」
「いっそ、ギルド長にここまで来てもらったらどうだ?」
ふと呟いたガットの言葉。うん。それは良いかもしれない!
この山小屋は他の人が来る可能性があるので、人が来にくい場所に。
「分かったわ、第4倉庫に集合しましょう」
相談しているうちに、いよいよ時間が無くなった美香。果たして無事、花とギルド長を会わせられるのか?