第2話 雪だるま戦
「お、大きいわね」
少し距離があって、しかも雪で視界が悪いが、どうみても美香の2倍は軽く超える高さ。
雪だるまに似た形だが表情はなく、ずんぐりした手足も雪で出来ている。
全身真っ白で、これは雪山に逃げられたら見つけられないだろうと思う。
ダダが肩から飛び立ち、美香もレーキを構えた。
「ダダ、どうしたら良いと思う?」
「とにかく雪を削りましょう。美香とガットは武器で。ズーラは火の魔法で。この辺りなら雪崩の心配はないと思いますが気をつけて!」
「了解」
「分かった!」
「大丈夫!」
口々に答えて、まずはガットが雪男に駆け寄った。
雪男もしっかりとこちらを認識しているらしく、ドスン、ドスンと積もった雪を巻き上げながらこちらに来る。
その動きは緩慢で、ガットの一撃目は難なく雪男の足を抉った。
「でかい……」
攻撃は決まったが、ガットの声に安堵はない。
あまりにも大きい雪男の足を、ほんの少し削ったに過ぎない。ダメージを受けた様子も全く見られないのだ。
雪男はゆっくりした動きで切られた足を上げ、ガットを踏み潰そうとするがすでにガットはそこにはいなかった。そのまま後ろに回って二撃目を打ち込む。
同時に正面からレーキを振り下ろす美香。
「ハアッ!」
美香の気合の入ったレーキが、ざっくりと雪男から雪を削り落とした。
杖を構えたズーラが、初級の炎の魔法を美香の攻撃した場所に打ち込む。
初級の魔法は威力も小さく、遠くから打っても途中で消えてしまうので、ズーラも前に出てきた。しかし寒さで動きが鈍っているズーラ。
雪男は炎の魔法を見るなり、美香やガットは置いて、ズーラに向かって歩き始めた。
後方から慌てて追いかけながら、地道に雪男の足を削るガット。
上空のダダはどこかに弱点がないかと雪男の周りを飛び回っている。
と、ふとダダに気付いたらしい雪男が、足を止めていきなり側にある木を殴った。
雪男の手がごっそり削れる。と同時に木から雪がどさっと落ちてきて、危うくダダを埋めるところだった。
「ダダ!」
「大丈夫です」
緩慢な動作の雪男に、こちらもあまりダメージは受けないが、少々削っても雪男の体積は減らない。
「……これは、レーキよりもスコップを持ってきた方がよかったかもしれない」
ブツブツ言いながら、全員で少しずつ雪男の纏う雪を剥がしていった。
ガットは後ろからジャンプして、美香とズーラは正面から、雪男の片足の関節を狙って攻撃を加え続けた。
雪男は時折腕を振り回して、ダダを捕まえようとする。また足踏みして、ズーラやガットを踏み潰そうとするが、ついにその脚も関節が細く削られ、体重を支えられなくなったのか、本体から外れた。雪男は身体を傾けてドウッっとその場に倒れてしまった。
「よし!あとはこのまま……」
ガットが剣を構えて、雪男の体に上ろうとしたその時!
「ダメです!ガット!離れて!!」
ダダの声とほぼ同時に、倒れていた雪男が体を大きく揺らして雪を振り落として、むっくりと起き上がった。
慌てて飛びのいたガット。
みれば、先ほど切り離したはずの雪男の足が付いている。
しかし4メートルあった巨体が、さっき切り落とした足の長さ分、50センチほど縮んで、全体の体積もひとまわり小さくなったように見える。
4メートルの雪だるまから3.5メートルの雪だるまを削りだしたかのように……
「どういうこと?」
美香の声は雪の中に吸い込まれた。