第3話 服屋
冒険者ギルドを出て、大通りを歩く。
「美香、今日はこの街で過ごす予定ですが、どこに行きたいですか?」
耳元でダダが楽しそうに聞いてきた。最近、危険が少ない時にはダダは美香の肩に座るのが定位置になっている。
可愛いもの好きの美香にとっても、綺麗な羽を持つ小さなダダを肩に乗せるのは、心弾むものがある。
「そうね。お昼にはまだ早いから、服や生活用品が売ってあるお店が見たいわ」
異世界に来ても主婦たるもの、生活雑貨は見逃せない!
と言う訳で、ここから先は、ズーラの案内で町を回ることになった。
「ここは普段着を扱うお店。種族によってサイズが全然違うから専門店も多いんだけど、このお店はあらゆる種族の服が揃ってる大型店なの。美香の着れる服もあると思うよ」
ズーラは最近慣れてきて、気安く話してくれるようになった。来ている防具の革に小さな花の模様が描かれているのも、女の子らしい。
店内は美香が歩き回っても窮屈ではないくらいに広い。人形の服かと思う程小さなものから、美香が着る事ができそうなサイズまで、確かにいろいろだ。
「私と同じくらいの種族ってまだ会ったことがないけど、どんな人がいるの?」
「一番背が高いのは、竜人と呼ばれる種族です。美香とだいたい同じくらいの背の高さの人が多く、姿かたちもオーガによく似ています」
「竜人は遠くで自分たちの国を作っていて、この国に来ている人は少ないから。でも、そのうち会うこともあると思うよ。ほら、この服は竜人用だけど美香にピッタリじゃない?」
ズーラが選んでくれたのは、若草色のワンピースで、胸に黄色い花の刺繍があって、とても可愛らしい。美香の歳だと着るには勇気がいるデザインだが、ダダもガットも一緒になって勧めてくれた。
この世界の服は、男女の区別なくスカートが一般的だ。それはどうやら、しっぽのある種族が多いので、ズボンは着にくいかららしい。好まれる色合いも男女の区別よりも種族差が大きく、店の売り場はサイズによって色合いが全然違う。
白やオレンジなど、明るくて華やかな色が多い、小さい服のコーナー。ベージュや黒など、シックな色合いのものが多い子供服サイズのコーナー。これはガットたちのもののようだ。
ズーラたちリザードマンや、竜人サイズの服は緑や青の寒色系が目立つ。もちろんそればかりではないけれど。
数は少ないが可愛い服が多い竜人のコーナーで、美香はみんなに勧められて先ほどのワンピースを一枚買うことにした。
店員の所に持っていくと、ティッシュケースよりも少し小さいくらいの箱で、美香のギルドタグを読み取る。
「ありがとうございます。1200Gです」
お金を払ったら商品はそのまま、自分のバッグの中に入れるようだ。レジ袋などはない。
「やっぱり美香のサイズの服は大きいから、少し高めだね」
ズーラがそういうので小さなサイズの服を見れば、値札が付いていて、最近覚えたばかりのこの世界の数字が書かれていた。
「えっと……9……8……0。980G!」
美香の買ったのとよく似た、青いワンピースが980Gだった。
「私も美香とお揃いで、買おうかな?」
「ええ、いいわね、お揃い!」
お揃いのワンピースを手に持って仲良く店を出る二人。
ダダとガットはようやく一軒終ったとばかりに、顔を見合わせて肩をすくめた。