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第6話 昆虫型魔物と妖精族

 転移陣で40階に上った一行は、次の転移陣がある38階を目指して歩いている。

 途中休憩もしたが2時間以上歩いてさすがに疲れたのか、美香は少しペースを落としてガットとズーラと並んで歩くことにした。

「洞窟の中はどこも明るいけれど、これも魔法なのかしら?」

「ああ。おそらくだが、空中にある魔素がダンジョン全体にかかっている何らかの魔法に反応して光を出しているのではないかと言われている」

 ガットが答えてくれた。何度見ても和む顔だ。

 思わずニヤニヤしそうになる頬を、美香は慌てて引き締めた。


 途中で出会う魔物や人類について説明してもらいながら進んでいるのだが、この辺りの階は昆虫型の魔物が多いようだ。美香の知っているトンボやバッタ、蜂などに似ているが、皆少し大きくて、薄く透明な羽が様々な色に美しくきらめいている。

「昆虫型の魔物は羽の部分を通る魔力が、洞窟のシステムに照らされてうっすら輝くのです。妖精族の羽根も同じような理由で輝いているので、間違えないように気をつけてください」

 木々の影から広げた羽が50センチくらいある巨大な蝶は輝く鱗粉をまき散らしながら寄ってきた。

「あれは……魔物よね?」

「魔物です!鱗粉に毒があるので気をつけて!」

 シューっと殺虫剤を振りかけて、弱った魔物にガットがとどめを刺す。

 美香と、パーティーメンバーの三人の息がだんだん合ってきた。

 隆行はそれをにこにこと眺めている。


 こうして何度も魔物と対峙するうちに、最初は妖精族と羽のある飛ぶ虫型魔物との区別がつきにくくて戸惑っていた美香だが、38階に上がる頃にはすっかり慣れて、虫型魔物と戦っている妖精を助けるまでになった。


「あ……ありがとう……ございます」

 妖精族の男の子がびくつきながらお礼を言ってきた。

「どういたしまして。きちんとお礼が言えて、偉いのね」

 美香、母親目線である。だがしかし。

「オーガから見たら虫のように小さくてかわいいかもしれないが、これでも立派な大人で、どちらかというと中年のおっさんだ。その話し方はやめてやってほしい」


 そうガットに言われたので、妖精の男の子をじっと見る。妖精族の身長は30センチほどで、人とあまり変わらない姿をしているが、背中に美しい虹色の透き通った羽を持っている。彼はきれいな石のはめ込まれた杖を持っていて、魔法で戦うらしい。その小さいけれど美しい顔にグイッと近付いて見れば、なるほどうっすらと口元にしわがあるような?


「美香、彼が怯えるから、もう少し離れてください」

「あら……」

 もう少し見ていたかったわ。そんな風に思いながらも、美香は大人しく下がった。


「今の妖精君が中年っていうのは、意外ね。もしかしてダダやガット、ズーラも思っているのと違うのかしら」

 そう、こっそりつぶやいていると、隣を歩くズーラが少し笑いながら聞いてきた。

「ちなみに、私たちの事、何歳くらいだと思います?」


「そうねえ。見た目は分かりにくいから話している感じでだけど、ダダは35歳、ガットは28歳、ズーラは22歳くらいかしら」


「22歳……22歳!」

 ズーラが跳び上がらんばかりに喜んでいる。答え合わせを待っていると、隆行が振り返って説明してくれた。

「寿命を100歳とすれば、だいたい当たりかもしれんのう。こちらの人類は種族によってずいぶん寿命が違うから、ダダは30歳ちょっと、ガットは20歳より下、ズーラは50過ぎってところかの?」

「タッキー様、さすがです。鳥族の寿命は80年から120年ほどですがダダは確か32歳で、美香も当たりですね。コボルトの寿命は長くても60年ですが、その代わり子ども時代が短く、老年期も短いのです。ガットは成人してそろそろ10年になりますので18歳くらいですね。リザードマンは不老長寿という噂もありますが、およそ200年から300年は元気に生きます。私は今年で63になりますが、まだまだ若いのですよ。22歳はほめ過ぎですけどね。ギャッギャッ」


 なるほど。

 ……では私の年齢は……

 ズーラの話を聞きながら人間の寿命に合わせて計算しなおし掛けたが、「これ以上考えないほうがいい」と思いなおした美香だった。少なくとも最年長ではない。隆行がいるから。


 38階の転移陣から22階に上り、そこから20階にある最後の転移陣までまた小走りに歩いた。この位上の階だと、弱い魔物しか出てこず、美香の殺虫剤で瞬殺できる。

 歩くペースを落とさずに、一気に最後の転移陣から2階まで上がり、そのまま一階分階段を上るとダンジョンの出口まで辿り着いた。


 ダンジョン1階の出口は美香の身長だとかろうじてかがまずに通り抜けられる高さの横道が100mほど続き、その向こうにはダンジョンの中とは明らかに違う明るい光が見えた。


 外に出て眩しい光に目が慣れたあと、まず目についたのはこの世界の空だ。曇りの日の昼と夕焼けの間のような黄色っぽい空が西や東の山の端だけでなく全天を覆っている。

「今って、お昼よね?こちらの世界では夕方なの?」

「いいえ、おおよそ正午です」

 空の色が違うのか……。ダダの言葉に、美香がスマホをチェックしてみる。案の定電波は届いていなかったが時間は11時30分で正午に近い。転移陣をめいっぱい使ったものの、第4倉庫に入ってから3時間半でダンジョンを踏破していた。

逆向きに。



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