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第5話 転移の魔法陣

 60階層あるダンジョンを、最短距離で突っ切って上に向かう美香達一行。

 迷いながらだと数日がかりになる事もある大きなダンジョンだが、ダダ達はA級冒険者で魔物に後れを取ることもなく、道もしっかりと覚えている。

 そしてそれ以上に美香と隆行の歩くスピードは速い。

 後ろから息を切らしながら、「そこを右です、あ、足元に気をつけてください」と指示を出すダダ達。美香も一応は用心しながら、さほど問題もなく上っていった。


 丁度10階分上った所で、ガットがみんなを呼び止めた。

「この階のセーフゾーンで休憩しよう。疲れると思わぬところでミスが出るものだ」


 それを聞いて、ズーラがふーっと大きく息を吐いて、言った。

「ダンジョンには時々、魔物が近付かない場所があります。それがセーフゾーンです。この階だと、下に繋がるこの階段の周りがセーフゾーンになります」

「この階はっていう事は、どの階でも階段付近は安全という訳でもないのかしら?」

「そうですね。各階でセーフゾーンは異なりますので、ダンジョンに潜る冒険者は必ず地図をチェックしてから乗り込みます」


 下の階に繋がる穴を眺めながら、その周りに座り休憩する一行。ガットが荷物を下ろして、リュックの中からコップを出して美香に渡した。

「ただの水ですが、良かったらどうぞ」

 コップの中にはさっきまでは入っていなかった水が、いつの間にか溢れんばかりに湧いている。魔法で出した水のようだ。

「これ、飲んでも大丈夫かしら?」

「大丈夫じゃよ。水魔法の水は、この辺りの湿気から抽出したもので、純水に近いからさほど美味いという事もないが、不味くもないの」

 恐る恐る飲むと、ひんやりして思ったよりもずっとおいしい。

 美香が水を飲み干すと、同じように水を出して、他のメンバーも順々に回し飲みしていった。

「食べ物も基本的には口にしてもかまわんよ。ただ、時折人にはアレルギー症状が出るような食べ物もあるからのう。次からは念のため食べ物は持ち込むのが良いかもしれんのう」

「アレルギーって」

「私たちが好んで食べるキノコは、他の種族が食べると笑いが止まらないこともありますね」

 ズーラが笑いながら言った。多分笑っていると思う。

 こうして喋っているうちに、だんだんとズーラ(トカゲ人間)やガット(二足歩行チワワ)の表情の微妙な変化がわかるようなきがし始めた。

 ギャッギャッっと言いながらにーっと開いた口からちょろちょろと舌がのぞくのも「案外可愛いかもしれない」と思い始めた美香だ。


 少し休んで汗を拭き、また歩き始める。この階には上への階段とは別に、10階上の40階層に繋がる転移陣がある。転移陣は美香が持っている鍵と似た働きをする。鍵はあちらこちらにあるドーアとドーアを繋げることができるが、ダンジョンの転移陣は決まった2か所を相互に行き来するものだ。移動できる場所は限られているが、誰でも利用することができる。

「こういう転移陣は、この世界の人が開発したのかしら?」

「いや、転移系の魔道具は全て失われた文明のアーティファクトです」

 前を歩くダダが簡単に歴史を教えてくれた。


「この世界に今の人類達が生まれる前に、滅びてしまった古代文明があると言われています。もちろん、遺跡を見てそう判断しているだけで、失われた文明の生き残りはいません。当時は魔法が高度に発展した文明だったらしく、各地に残る遺跡には多くの魔法に関係する遺物が残されています。そのうちのいくつかは研究され、現在ではごく当たり前に実用化されているものも多くあります。先ほど水を飲んだコップもその一つです。

 しかしまだ再現できないもの、使い方の分からないものも多くあります。転移の魔法陣は使用方法は分かりましたがまだ現代の技術では再現出来ていません」


 そんな説明を聞きながら速足で歩き、50階層にある転移陣に到着した。

 転移陣は洞窟の壁に掘られた四角い部屋だ。

「この部屋は、上から人が降りてくるときには入る事ができません。逆にこちらから上がろうとしている時には、上の部屋に入る事ができないようになっています」

 一度に双方向では使えないようだ。入ると床の中央にスイッチがある。天井は上が見えないほど高く吹き抜けになっている。

 もしかして……

 全員が部屋に入った事を確認するとダダが中央のスイッチを足で踏んだ。

 すると床が輝き、フワッと浮く不思議な感覚と共に、床の輝きごと超高速で上がっていった。

「きゃっ」

 珍しく驚きの声が漏れる美香。

「ああ、びっくりした。これって瞬間移動というよりエレベーターなの?」

「そうじゃよ。うぉっほっほ。さすがの美香さんも驚いたかの」

「そうですね。驚きました」


 異世界の転移陣は意外なことにエレベーターだったが、10階分を数秒で上がるそのスピードと、そのわりには速さを感じさせないふんわり浮くような感覚が、未知の技術、魔法なのだなあと思う美香だった。



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