気味の悪いお客さん。
「どこまでですか?」
お客さんは、何も答えない。
まさか、また乗せてはいけない何かを乗せてしまったのか…
「お客さん!聞いてますか?」
「A町のF公園まで」
聞こえるか聞こえないかの声で、答えた。
”ふぅ良かった。幽霊とかそういう類ではないらしい。”
タクシー運転手をやっていると、別の世界(所謂あの世)から普通のお客さんとは、
違うお客を乗せてしまうことが、ごくまれに起こる。
一瞬、それがよぎった。
「F公園でよろしいでしょうか?」
彼は、頷いた。
お客さんの服装は、グレーのパーカーにジーンズ。
顔色があまり良くない。10代~20代前半くらいに見える。
”この人、大丈夫か。体調でも悪いのか”
「お客さん、大丈夫ですか?」
彼は、もう一度小さく頷いた。
彼のことは、少し気になるが職務を全うすることにした。
車の空気がなんとなく重たい空気になっていったことを察して、
ラジオをつけることにした。
「次のニュースです。タクシーの運転手が暴行される事件がO県で発生しました。」
「最近、物騒な事件が多くてね。タクシー運転手も気を抜いて仕事できなくなっちゃいましたよ。」
世間話を彼に振ったが、当然彼は無反応。
私は、話を続けた。
「O県だからいいもののS県で起こったんなら転職も考えますよ。」
突然彼は、話始めた。
「この事件の犯人知ってますよ」
「えっ!そうなんですか!?何でそんなこと知ってるんですか?」
彼は、話すのを止めた。
”何なんだ。この客は!?気味の悪い”
「気味の悪い事を言わないでくださいよ。」
私は、気味が悪くなりラジオを切った。
10分後、目的地目前の所まで来て彼は、話始めた。
「あなたは、天罰を信じますか?」
「何ですか?わからないですよ。」
彼は、淡々と続ける。
「本当にこの世に存在するんです。天罰が。」
「冗談は、よしてください。」
「人が行った行為は、自分に跳ね返ってくる。しかし時には、それを上手く避ける者が昨今、
増加している傾向にあるのです。私はそれを罰するために神託を受け、この世に一般人になりすまし、
現世で過ごしているのです。」
「私が、何をしたと言うんですか?」
彼は、私に目を見開いて答えた。
「あなたは、人を殺めた。」
「待ってください!私は、本当に人を殺めたことなどありません。」
目的地に到着した。
彼は怒鳴った。
「あなたは、この公園で2人も人を殺めたのですよ!!」
「いや私は、そんなことしていません!」
「いいやそんなはずはない!あなたは、2人も人を殺している」
彼は、私の言動を聞き動揺している。
「お客さん、もう降りてください。」
私は、彼を車から降りる様に促した。彼は、車から降りた。
「はぁ、これで3人目か…」
ドンッ
頭部を鈍器で殴りつけた。彼は、倒れた。
「めんどうなこった。ドライブレコーダーなんかあるから、一回降ろしてからやらないと
いけなくなってよ。自分で一般人とか言っちまうんだもんな。
一般人だったら俺でも殺せちゃうよ。死神さん。」
「やはり、あなたで合っていたんだ。」
彼は、流血もせず、笑みを浮かべながら立ち上がった。
「良かった。これで心置きなくあなたを天罰にかけられる。これからあなたに起こることは、想像を絶する罰を受けることになります。準備はいいですか?」
「やめてくれーーーーーーーーー」
「次のニュースです。S県A町のF公園のトイレにタクシーが衝突し、運転手の男性が死亡しました。居眠り運転が原因だと見られています。」