第五十七話 族長会議
会議をしている模様です。
「討伐できたなら、問題なし。」
「なっ!」
こんにちは、みなさん。
神野 華です。
今私は、各族長を招集して、緊急族長会議を開いています。
もちろん、先日の姫路での事でです。
分かっていたはずなのに、早紀が深手を負うことになってしまいました。
そのことについての責任はとるつもりです。
だから、このことを教訓に、討伐時の体制の在り方を見直すように、提案しました。
帰ってきた言葉が、問題なし発言です。
「皆さん知っているでしょう、早紀の実力を。その早紀が、深手を負わされたんですよ。」
「Bクラスだと思ってたんで、油断したんじゃないの。」
「それは、なっかったとは言いません。しかし、Bクラスの魔物を囮に使うという今までになかったことを、してきたのです。もっと、こちらも考えたほうがいいかと。」
「なんだと、それじゃうちらがなんも考えてないとでもいうのか?」
「そんなことは言ってない。もっと、警戒したほうがいいといいたいだけだ。」
婆どもが。
そう、ここにいる私以外は、黒巫女を引退した婆どもたちだ。
族長としては青二才の私の意見は、なかなか聞き届けてもらえない。
私が、他の族長といいあっていると、
「ちょっといいかな、」
魔導機動隊代表として来ていた男が、発言を求めた。
「ん、どうぞ、秀吾さん。」
「ありがとう。」
その男の名は、神野 秀吾。≪しゅうご≫
秀のおやじにして、華の剣の師匠にあたる。
秀吾は、べつに魔導機動隊だったということもない。
しかし、どうしてもと、機動隊に請われたのである。
それというのも、秀吾は昔、黒巫女と一緒に魔物を討伐していたのである。
稀にいるのである。
霊力ははるかに劣っているのに、それを補って余りある剣術の腕を持った男が。
そういうわけで、機動隊は顧問に迎え入れ、他の族長からも一目置かれた存在なのだ。
「今回の姫路での一件は、それなりに機動隊にも被害がありました。機動隊としても、緊急時のバックアップ体制を、見直したほうがいいという意見が、結構ありました。」
「そうか、なるほど。そういうことなら少し、検討する余地もあるかもしれないな。」
「とりあえず、今までよりも警戒を厳にするということで。」
警戒を厳にする。
それ以外は、なにも結論が出なかった。
結論が出ないまま、会議は解散した。
「先生、ありがとうございました。」
「華か。すまんな、何もできずに・・・」
「いえ、あのままだったら、私の意見なんて無視されてましたから。」
「そう言ってもらえると、たすかる。」
秀吾は、すまなそうにしている。
この男は、息子と真逆で生真面目すぎるのである。
すまなそうに、うつむき加減で、秀吾は尋ねた。
「それにしても、早紀がやられるなんて、信じられんな。それで、怪我のほうは、ほんとに大丈夫なのか?」
「私も、始めは耳を疑いましたよ。怪我のほうは、内臓をやられてなかったのが、不幸中の幸いで大丈夫です。」
「帰りに、見舞いにでも行くとするかな。」
「あっ、それじゃ私も、ご一緒しますよ。」
数時間後、ここは早紀が入院している、病院である。
「大変だったな。傷のほうは大丈夫か?」
「はい、おじさん。傷跡も残らないだろうと、先生が言ってました。」
「そうか、それはよかった。それにしても、びっくりしたぞ。早紀がやられたと聞いたときは。」
「すみません。」
「謝ることじゃないがな。そんなに強かったのか?」
秀吾は、早紀の実力を知っているだけに、今でも信じられずにいた。
「はい、小夜ちゃんがいなければ、どうなってたか分かりません。」
「お前がそこまで言うのなら、相当強かったのだろうな。そんな奴は、百年以上現れていないはずだ。」
「そうなんですか?」
「いや、百年どころじゃない。何百年も現れてないはずだ。じゃなきゃ、お前ほどの奴が、やられるなんて考えられん。」
「そんな、買いかぶりすぎですよ。おじさん。」
早紀は、それはいくらなんでも言い過ぎだと思いながら、秀吾の話を聞いていた。
華も、まだまだ青二才のようですね。