第五十五話 祭りの夜3
小夜は、救援に間に合ったようです。
「お姉ちゃんを、お願いしますね。美紀お姉ちゃん。京香さん。」
そういうと、小夜ちゃんは、魔物にむかって歩いて行く。
早紀のけがを見て、心配そうな顔をしてたので、わたしは声をかけた。
「落ち着いてね小夜ちゃん。」
「うん、大丈夫だよ。」
いつもと、様子がちがう。
あんな顔の、小夜ちゃんは私は知らない。
私は、早紀に聞いてみた。
「小夜ちゃんの様子が変だけど、大丈夫か?」
「私だって、あんな目をした小夜ちゃんなんて初めて見たわよ。痛っ。」
「ああ、もういいよ、しゃべらなくて。」
でも、その後ろ姿は、すごく頼もしく見えたのは、私だけだろうか?
『ようやく来たか、待ちわびたぞ黒巫女よ』
「・・・・。」
約20分前。
小夜は、おやじと一緒に深夜アニメを見ていた。
すると、昔の家にあるような、黒い電話がなった。
ちりりりりん、ちりりりりん、ちん、
力也のおやじは、慌ててその電話を取った。
「はい、神野です。・・・はい、わかりました。すぐに行きます。小夜、すぐに出るぞ。京香ちゃんも起こしてくれ。」
その電話は、緊急時にだけ使われる、特別な電話だ。
「なにがあったの?」
「わからん。でも、この電話が鳴るということは、よくないことだろう。おれは、車で待ってる。
急げよ。」
「なにか、あったのですか。」
「京香さん、応援だそうです。早く、準備を。」
「わかりましたわ。」
そのころ、早紀と美紀は、魔物の攻撃を捌くので、手一杯だった。
早紀の傷の、出血は力を使い今は止まっている。
しかし、痛みまで取れるわけじゃない。
「美紀!背中を合わせて!これで、目の前に集中できるわね。」
「動いて大丈夫なのか。」
「大丈夫じゃないけど、今は踏ん張らないと。じっとしてたら、ただの的になるしね。」
「それもそうか、フォローはする。目の前の攻撃にだけ集中してくれ。」
それを見ていた、魔物が言う。
『そんなことで、けが人と、それをかばって疲れた人間が、この俺様に勝てると思っているのか。』
「だまれ、この卑怯ムカデ。」
美香は、腕がいっぱいあるから、ムカデといった。
すると、魔物が言った。
『お前は、アホだな。腕か足か知らんが、いっぱいあるからムカデか。』
「それじゃ、なんだっていうんだよ。」
この会話を聞いた、早紀はピンときた。
「木よ。」
「き?」
「植物よ。」
「あの攻撃は、根っこというわけか。」
『ご名答。虫のような、下等生物と一緒にするな。よく聞け、俺様の力を。』
この魔物は、自分の核から根のように、妖力伸ばしていたのだ。
人に気づかれないように。
そして、他の魔物が現れれば、力をそこに集中させて、パクリというわけだ。
いまでは、近隣の市町村にまで、その力は及んでいる。
その力は、目にも、耳にもなる。
早紀たちのことを、知っていたのは、この力のせいである。
『分かったか、バカ娘。』
「う~ん、わかったような、わからないような。もう、一回頼むわ。」
『しかたない、お前でも分かるように、説明してやるから、光栄に思え。』
美紀は、それぐらいわかっていたが、魔物が喋っているうちは、攻撃の手が緩むのである。
そして、魔物の説明とやらが、終わってしまった。
『これで、わかったな。分からないとは言わせない。』
「あっ、いや、私馬鹿だから、もう一っぺん頼むわ。」
美紀は、なんとか時間稼ぎをしようとした。
『もういい、分からないふりは、それくらにしておけ。』
なにっ、こいつ気づいてやがったのか。
知らんふりするしかない。
『そうか、分からないやつは、死ね。』
魔物は、そう言うと、再び攻撃が鋭くなった。
その攻撃は、美紀に向かって一直線に向かってきた。
避けようと思えば、避けられる速さ。
しかし、避ければ傷を負っている、早紀がいる。
これまでか、と美紀が諦めかけた時、その攻撃を誰かが断ち切った。
そして、魔物との間に割って入った。
「小夜ちゃん?」
「遅くなってごめんなさい。あとは、私が。」
そう言って、小夜は後ろを振り返った。
するとそこには、誰かの血だまりがあった。
美紀には、そんな傷はない。
あとは、一人だけ。
「お姉ちゃん!」
小夜が叫ぶ。
少し遅れてきた京香も、
「早紀お姉さま、だいじょうぶですか?」
「へへ、どじっちゃった。」
「あいつに、やられたの?」
「まあね。」
「そう、そうなんだ。」
しばらく小夜は、下を向いていた。
そして、立ち上がると、
「お姉ちゃんを、お願いしますね。」
小夜は、魔物に向かって、ゆっくりと歩いてゆく。
『ようやく来たか。待ちわびたぞ。黒巫女。』
「・・・・。」
『聞こえんのか黒巫女よ!』
「・・・・。」
無視をする小夜に、頭に来た魔物は攻撃をしてきた。
その攻撃は、小夜の頬をかすめた。
小夜です。
いま、お姉ちゃんが、傷を負った姿を見てしまいました。
お姉ちゃんを、こんな風にした、魔物はすぐそこにいます。
自分でも、驚いているのですが、妙に落ち着いた気分なのです。
もっと、怒り狂うと思ったのですが・・・?
ん、魔物が攻撃してきました。
頬を、切っちゃったじゃないか。
もう、うるさい奴だなぁ。
もうすぐ、殺してやるから、待てないのかな。
しかたがない。殺るとするか。
『ふははははは、なんだ、避けるのも、精一杯なのか。傷だらけだぞ。』
魔物のいう通り、小夜は傷だらけだった。
手も、足も、体も、魔物の攻撃が当たっていた。
というより、かすっていた。
小夜は、最小限の動きで避けている。
ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。
魔物は、自分が有利に攻撃していたと思っていたが、当ててやろうと思った攻撃まで避けている。
5m、4m、3m。
このままでは、殺られると思った魔物は、根のように張り巡りため込んでいた、妖力を捨てて地面から飛び逃げた。
『お前、本当に人間か?』
「ん、当たり前。」
ざしゅ!
『ぐわっ!』
「お前、」
ざしゅっ!
『ぬわっ!』
「誰に。」
ざしゅ!
「傷を、」
ざしゃっ!
うぎゃ!
「つけたかわかってるのか。!」
あとは、小夜が魔物の触手を、一本一本、確かめながら、斬っていく。
『やめてくれ、殺すなら、早く殺してくれ。』
「お前が、封印されたらもう、斬れないだろ。私の気が済むまで、斬られてろ。」
魔物が封印されたのは、夜明け近くだった。
それでも、小夜の気は済んでいなかったが。
小夜ちゃんは、Sだねきっと。