第四十九話 私の体はまだ若い
刀づくりは、新たな段階に入ったようです。
「秀君、ちょっと見学してもいいかな。」
「いいっすよ、支部長。」
みなさんこんにちは。
神野 小夜です。
今日は、華姉さんの稽古はお休みです。
なぜかというと、
「私だって、お休みが欲しいんだよ、小夜ちゃん。だから、今日はお休みにします。」
それはそうです。
支部長としてのお仕事もしながら、私に稽古をつけているのですから。
「今日から、『素延べ』ってやつだよね。」
「ああ、そうだ。よくわかったな。」
「だって、前回いろいろ教えてくれたじゃない。」
前回、私がいろいろと聞いても、秀兄ちゃんは嫌な顔もせずに教えてくれました。
だから、分かったのですが『素延べ』の作業で分からないことが一つあります。
『素延べ』というのは、刀の形に打ち出す前段階です。
折り返し鍛錬で鍛えた鉄の塊を、叩いて長くするのです。
それは、分かるのです。
「秀兄ちゃん、一つ質問。」
「ん、なんだ。」
「素延べし終わったやつの先のほうを斜めに切ったでしょ。」
「ああ、」
「なんで、そのまま刀の形にしなかったの?」
「よく考えろ。切った断面を棟側にしたとして、棟の反対側にはなにがある?」
「う~ん。え~と。」
どういうことだろ。
わかんないや。
「うんうん、唸ってないで自分の刀をよく見てみろ。」
「わかった、見てくる。」
たったったった
棟の反対側、棟の反対側、棟の反対側
私は、つぶやきながらエクスカリバーを、見に行きました。
エクスカリバーを見ているうちに、私は気が付きました。
棟の反対側には、刃があります。
そうか、棟側には刃よりも柔らかい皮鉄が使われています。
刃金の部分を切っ先の刃にするためかも。
きっとそうだ。
「秀兄ちゃん、多分わかったよ。」
「そっか。」
「切っ先の刃の部分を刃金にするためでしょ。」
「あったり~。」
あたりました。
私は、馬鹿じゃなかったです。
でも、素延べはなかなか難しいらしいです。
下手に叩くと、皮金が刃金を包み込んでしまうそうです。
「それじゃ始めるか、小夜ちゃんの疑問も解決したことだし。」
「おっし、それじゃ始めますか。小夜ももういいか。」
「いいよ、お待たせです。師匠のおじちゃん。秀兄ちゃん。」
なんだか、頭の中がスッキリしたようです。
刀づくりのお手伝いも、気持ちよくできそうです。
「小夜ちゃんも、手伝うの?」
「はい。」
「そっか、じゃあ私も手伝おうかな。」
「華姉さん、今日はお休みにするんじゃ?」
「別に、体を休めたいわけじゃないから。気晴らしができるならそれでいいの。」
と言って、華姉さんも手伝うことになりました。
でも翌日、
「いててててて。」
「華姉さん、大丈夫?」
「あんまり、だいじょうぶじゃないかな。いてててて。」
使い慣れてない筋肉を使ったせいで、華姉さんはすごい筋肉痛になりました。
「翌日にすぐ筋肉痛になるってことは、まだ若い証拠ってことだよね。いててててて。」
とうぶんのあいだは、稽古も支部長としてのお仕事も、お休みになりそうです。
華姉さん、ちょっとへっぽこに見えちゃいますよ。自分の、日本刀の作り方についての認識が間違っているかもしれませんが、御容赦してください。