第四十三話 名前を足さないで
式神に名前が付いたようです。
我は、誇り高き妖魔である。
名前は、言いたくない。
今、我は黒巫女の稽古相手をしている。
誇り高いなら、そんなことするななどと思ったやつは、愚か者だ。
我は、この黒巫女の隙を窺っているのだ。
そして、隙さえあれば心の臓を一突きにしてくれる。
これさえできれば、我は後世に名を残すことになるだろう。
黒巫女の奴がつけた、変な名前じゃなくもっと強そうな名を。
しかし、この黒巫女はなかなかに強い。
だが、それでこそ後世に名が残るというものだ。
「はい、蜘蛛吉もういっちょ~!」
『蜘蛛吉と、呼ぶな~!』
「名前をつけてくれって、自分で言ったくせに。」
『つけるなら、もっと強そうな名前にしろよ。』
「贅沢なこと言う式神ね。しつこいと、蜘蛛っちとか、蜘蛛ピーにするわよ。」
『ぐっ、それはやめてくれ。』
「もっと強ければ、敬意も込めてもっとかっこいい名前考えなくもないけど。」
『ほんとか、どうすればいい?』
「もし、私にかすり傷でもつけられたら、改名してあげる。」
『よし、その話乗った。』
我は、その話に飛びついた。
ふふふふ、
かすり傷程度でいいのか。
なめやがって。
我の本気の攻撃を受けてみろ。
わしの名は、えくすかりばー。
小夜の奴がこの名前をつけおった。
まあ、最近はエクスとカリバーに分かれておるが。
今、わしの目の前で小夜と蜘蛛吉が、名前をかけて勝負しようとしておる。
馬鹿な奴じゃ。
小夜に、退治するどころか、その場で練習相手にされたのを、忘れたというのか?
やはり、妖魔は妖魔という事か。
悪知恵が働くといっても、所詮は浅知恵。
阿保ということだな。
じゃが、分からなくもない。
わしとて、できることなら名前を変えてほしい。
『いくぞ、黒巫女!』
「いいよ~。」
『くらえ!』
蜘蛛吉は、まず前方4段時間差攻撃を仕掛けた。
ざしゅっざしゅっざしゅっざしゅっ
『ふふふ、これはまだ小手調べよ。いくぞ!』
「はいよ。」
次は、前後2段攻撃。
ざしゅっざしゅっ
こんなことが、またしても1時間ほど続いた。
「どうしたの、蜘蛛吉。」
『どうしたもこうしたもない。かすり傷をつけられる気がしない。我のまけじゃ。』
蜘蛛吉の奴、ようやく悟ったか。馬鹿な奴じゃ。
『蜘蛛吉よ、退治もされずにそのまま練習相手にされたのを、忘れたのか。』
『忘れてなどおるものか。しかし、万に一つの可能性に賭けただけだ。』
『そうじゃったか。分からなくもないぞ蜘蛛吉よ。』
「なに、カリバーも名前が気に入らないの?」
『まあな。できることなら、わしも改名してほしいのお。』
「そうなんだ。エクスもそうなの?」
『うん、私も変えてほしいなぁって思ってる。』
「わかった。ちょっと待ってね。今考える。」
5分経過
「う~ん、う~~ん。」
10分経過
「え~と~。」
15分経過
「よし、これだ。まずは、蜘蛛吉。『鬼蜘蛛。』。」
『おお~、鬼蜘蛛か。よいではないか。我の名は、鬼蜘蛛。気に入ったぞ黒巫女。』
「よかった~。鬼蜘蛛の蜘蛛吉。これで決まり。」
『蜘蛛吉はいらんぞ、蜘蛛吉は。』
「だ~め。弱いからだ~め。」
『くそ、そのうち鬼蜘蛛だけに昇進してやる。』
「がんばってね、蜘蛛吉。次はエクスカリバーか、どうしよっかな~。」
30分経過
「こんなのどうかな。『龍神切り』」
『おお~いい名前じゃ。わしの名前の由来にするのに、ぴったりの名じゃ。』
「よかった、それじゃ龍神切りエクスとカリバーで決まり。」
『お~~い、小夜さんよ~、エクスカリバーはそのままなのかのお。』
「そ、龍神切りエクスカリバー、かっこいいでしょ。」
『そっかぁ、そのままなのかぁ、うん、そうだな、なかなかいい名前だな。』
ああ、そうじゃな。龍神切りだけならな。
しかし、小夜のあのいい名前を付けたといわんばかりの顔、
何を言っても龍神切りだけには、ならんだろうな。
ここは、諦めが肝心じゃな。
これで我慢してください、蜘蛛吉もエクスカリバーも。