第三十四話 師匠のおっちゃんが帰らない理由
師匠のおっちゃんは、女の子がいるだけでハーレムなんだろうな。
おう、元気でやってるか。
俺は、秀のやつの刀匠としての、師匠だ。
名前は、神野 啓二。
秀のやつが、また刀を造り始めたと聞いて、姫路まで来てやった。
そして、秀が世話になってる家に着いた。
美人が二人も道場で稽古をしていたのを見て、驚きで鼻の下が伸びてしまった。
この二人のほかに、まだ二人もいる。
秀のやつは、今も女に囲まれていやがるのか。
けしからんやつめ。
羨ましすぎるぞ、我が弟子よ。
これではまるで、ハーレムではないか。
くそっ、刀の出来が少しでも悪いときは、駄目だししてやる。
まあ、今はそんなことどうでもいい。
俺も稽古に混ぜてもらおう。
あの時はこんなことを、思ったものだ。
そして、女の子と一緒にアニメの上映会。
うん、此処は居心地がいい。
うちなんか、年食った嫁と、ババアしか女がいない。
帰りたくねえなあ。
神野 秀だよ~
みんな~あつまれ~~
なんちって。
俺は今、刀の一件が一段落ついたんで、休養を取っている。
俺の休養の取り方は、アニメを見ること。
俺の血は、アニメでできている。
おい、そこ。どんな血やねんって突っ込むな。
俺がアニメを見ている後ろでは、師匠のおっちゃんがネトゲをしている。
なんだかこの師匠は、帰る気がなさそうに見える。
そして、凄い勘違いをしている。
さっき、師匠に聞いてみた。
「師匠のおっちゃん、いつ帰る気なんだ。」
「お前ひとり、いい目に合うなんてことは、許しがたいからまだ帰らん。」
「えっ、なんのこと、どういう意味・・・」
「しらばっくれやがって。」
何を、しらばっくれるというんだ。
俺は、何のことか暫く考えてみた。
だが、何のことかさっぱりだ。
「師匠のおっちゃん、好きなだけいていいから、何のことか教えてくれ。」
「まだそんなこと言うか。まあいい教えてやる・・・」
アホのオッサンが言うには、俺が今ハーレム状態だというのだ。
なんちゅう勘違い。
俺は女に、幻想を抱かないことにしているというのに。
説明するのも面倒なので俺は、
「ふふ、つまり師匠は俺からハーレムを奪うというのだな。やれるものならやってみろ。」
「受けてやるぜその勝負。俺のハーレムにしてみせるぜ。」
ちょろいおっさんだ。
これで少しは、厄介ごとをオッサンが引き受けてくれるだろう。
「まずは、京香ちゃんから落としてやるか。」
「そうか、がんばれよ、師匠。」
「くっ、いつまでその余裕が続くか、見ものだな。奪ってみせるぜ。
まってろ、俺のハーレムの日々よ。」
おっさんがここに居座るのはいい。
だがおっさんは、向こうでの仕事があるはずだ。
「師匠のおっちゃん、仕事はどうすんだよ。」
「ああそれな、さっき力也さんと相談した。」
「なにを。」
「元蔵だけにまだ、スペースがあるだろ。そこを使わせてもらう。」
「同じところで刀造りする気か。」
「まあ、そうなるな。でも、力也さんにある同盟に入ったら、
全面的に応援してくれるそうだ。」
そっかあ、おっさんが同盟入りか。
それなら俺も、オッサンを利用してやるか。
「師匠のおっちゃん、俺も応援するから、研ぎできるだろ。俺の刀の研ぎも頼むよ。」
「仕上げ研ぎだろ、金とるからな。」
「いいことを教えてやろう。小夜は金に困ってるそうだ。」
「それがどうした。」
よし、食いついてきた。
「ここで、研屋のぶんの金が浮けば小夜も喜ぶかもな。いいところが見せられるかも。」
「おい秀、なんで俺に塩を送るような真似をする。」
「それは・・・ハーレム勝負を平等にするためだよ。」
「秀お前、成長したな。」
「うん、おばさんたち誤魔化すのも、一人じゃ大変だろ。」
「そうだな、その辺は頼むぞ。」
「任されたぜ、師匠。」
近くに研ぎしがいると、何かと便利だからな。
師匠のおっちゃんは、たとえ殴られてもご褒美なんだろう。