第三十一話 刀の出来と師匠
刀の出来はどうなのか?師匠は認めてくれるのか?
みなさんこんちはです。
神野 秀です。
もう少しで、急ごしらえだけど、刀が仕上がります。
これが出来上がれば、師匠に仕上がりを見てもらって、OKをもらうだけです。
そのことを小夜に言うと、
「えっ、ほんと。いつできるの。明日?明後日?それとも今日。」
「今日って、お前今晩御飯だろが。俺に徹夜で刀仕上げろっちゅうのか?」
「あっ、それもそうか。なんか、待ち遠しくて。」
「お前、なんかサンタのプレゼント待ってる子供だな。」
小夜のやつは、玉鋼がだんだん刀の形に近づくにつれ、はしゃいでみえる。
そんな小夜を見ていると、俺もやる気が出て予定より早くここまできた。
「子供って、失礼だなぁほんとに。そんなんじゃ女の人にもてないよ。」
「ああ、そうだな。ここにいるせいで、女に幻想も持てなくなった俺は、ダメな男だ。」
「ん、なんか失礼こと言われた気がする。」
「気にすんな、お前の気のせいだ。」
「ところで秀さん、いつ仕上がりますの。」
「ああ、鍛冶押しは明日で終わる。」
「それでもう終わりなのか秀。」
「うん、一応。後は師匠に見てもらうだけ。」
「みんなに見せろよ、手伝ったんだから。」
「おじさんに、OK出してもらえるといいわね。」
「ああ、一つ気がかりなのは、あのおっさん気分屋ってところかな。」
俺の師匠でもあり叔父でもあるオッサンは、ほんとうに気分屋過ぎるのだ。
「ああ、今日は気分が乗らねえ。やめたやめた。」
こんなのは、刀匠ならよくあることだ。
だが、この先がこのオッサンの悪いとこだ。
「ちょっと、気晴らしに町までいって来る。」
気晴らしはしたらいいのだが、だいたい喧嘩して帰ってくるか、
警察にお世話になっているかの二つだ。
刀を見せに行ったときは、機嫌がいいことを祈ろう。
次の日
「は~っ、終わった終わった。」
昼過ぎに作業は終わった。
まず、おっちゃんに見てもらった。
「ほ~、久しぶりとは思えないくらい、いい出来じゃないの。まあ、素人のいう事だけど。」
「いや、ありがと。おっちゃんには、感謝してるよ。」
「感謝なんていらないよ。どうせなら、また秋葉でお土産買ってきてよ。」
「前は、ウエディングセイバーだったから、次は何がいいかな~?」
こんなくだらない話を、お昼を食べながらしていた。
まだ小夜たちは、帰ってこない時間なので、ソファに横になった。
俺は、そのままソファで眠ってしまっていた。
どれくらい時間がたったのか、道場の方から声がする。
小夜と京香の声だ。
「ああ~また負けましたわ。さすがですわ。」
「京香さんこそ、打ち込みが鋭いです。」
「ありがとうですわ。それじゃもう一本いきますわよ。」
「はい!」
どうやら、手合せしているようだ。
「くそっ!何で勝てねえ!!」
例の変態男の声もする。
ん、変態は誰とやってんだ?
早紀姉でも美紀姉でもないようだ。
なんか、男の声がする。
「かっかっかっか、よわっちいなお前。」
「うるせえ!」
聞き覚えのある声だ。
まさか。
おれは、道場まで慌てて走っていった。
道場には、俺の思った通りのオッサンがいた。
「師匠のおっちゃん!なんでここにおるん。」
「なんでここにって、お前が打った刀見に来たんじゃねえか。」
「秀兄ちゃん、このおじさん知り合いなの?」
「えっ、うそ、小夜ちゃん俺のこと覚えてないの。」
「どこかで、お会いしましたっけ。」
「小夜と会ったって言っても、小さいころに一回だけやろ。」
師匠のおっちゃんは、小夜の一言で落ち込んでいた。
「ま、まあいい、刀はどこや。」
「ああ、あっちにおいてる。」
師匠のおっちゃんと、刀を見に行こうとすると、
「秀兄ちゃんてば、だれなの?」
「ああ、俺の師匠。」
「え~っうそ。早く行ってよね。お茶入れてくる。」
お茶なんて、別にいいけどついでに、小夜たちにも刀を見てもらおう。
「京香も、刀見に来ないか。」
「行かせてもらいますわ。」
そして俺たちは、師匠のおっちゃんの合否の判定を聞きに行った。
「お茶、此処に置いときますね。」
「おお、ありがとう小夜ちゃん。」
「ど、どうですか?」
「し~っ。小夜さん、こちらに。」
「は、はい。」
俺と小夜と京香は、正座で一列になって、師匠のおっちゃんの言葉を待った。
小夜のやつは、俺以上に緊張している。
10分ほど刀を眺め、
「いい具合に反りが入ってるな。太刀にしたのか?」
「はい、太刀の方が自分は好きなので。」
あれ、秀さんの言葉づかいがいつもと違いますわ。雰囲気も。
こんな秀さんもいるのですわね。
「材質はそんなに良くないな。」
「はい、久しぶりでどうなるかわからなかったので。」
「えっ、そんな、ダメなんですか?秀兄ちゃんあんなに頑張ったのに。」
「小夜さん、それは違いますわよ。」
「だって、良くないって・・・」
「それは、材質ですわ。そうですわよね叔父様。」
「その叔父様ってのは、やめてくれ。」
「ダメですわ。」
「そうか、諦めるか。」
「じゃ、どうなんですか、叔父さん。」
「小夜ちゃん、」
「はい?」
「その叔父さんっての辞めてくれたら、教えてあげる。」
よかった。どうやら合格のようだ。
「おめでとうですわ、秀さん。」
「あんがとさん。京香ちゃん。」
京香ちゃんは、場の雰囲気を悟って、理解したようだ。
だが小夜は理解が出来ずに、居間の方で二人で騒いでいる。
「だったら叔父さん、どう呼んだらいいんですか?」
「あ~っ、また叔父さんって呼んだ。ダメだな、もう教えてやらない。」
「え~っ、なんでですか~!」
「ダ~メ、教えてやんない。」
こんなことを10分ほどしたころに、俺は師匠のおっちゃんに言った。
「ほどほどにしないと、痛い目にあうよ。」
「なんじゃそら。」
「教えてくださいよ~。」
「ダメでござる。教えないでござる。」
「なんでですか~教えてくれないと、殴りますよ~!!」
ボコッ!
「殴ってから、言わないで、欲しかっ・・・た。」
「きゃ~、おじちゃんごめんなさい、おじちゃん!」
そのころ道場では、師匠のおっちゃん(神野 啓二)に、歯が立たなかった変態は
道場の隅っこで、疲れて寝ていた。
師匠の自覚のない、お茶目な師匠です。