第二十一話 刀鍛冶は目の前に
小夜の待ち人はいつくるのだろうか。
みなさんこんにちは。
神野 小夜です。
今私は、ワクワクしながらある人を、待っています。
そのある人とは、お父さんの知り合いの刀鍛冶さんです。
今週中に来るという事なので、今日来るかもしれません。
だから私は、学校が終わったと同時に、チャリンコを立ち漕ぎして猛ダッシュで帰りました。
そして今、今か今かとお待ちしているのです。
がらっ
来たっ。
「いらっしゃいませ。」
「おう、ただいま。なんだその『いらっしゃいませ。』って?」
「なんだ、秀兄ちゃんか。おかえりなさい。」
「なんだとはなんだ?」
「ごめんごめん。ちょっとある人と勘違いしちゃって。てへ。」
「てへ、とかやっても、かわいくないぞ。」
「ひどい~」
「ところでその刀鍛冶さんは、何しに来るんだ。」
「ムフフ。」
「気色の悪い笑い方すんな。早く教えろ。」
「どっしよかな~~」
「刀を造ってもらうんだよ。」
「あ~もう、なんで教えちゃうかなお父さん。もっと引っ張ろうと、思ってたのに。」
「すまんすまん。」
俺は何も知らないふりで言った。
「蔵を改造してたのって、そのためだったんだ。」
「ああ。」
「蔵、いや鍛錬場みてもいい。」
「おう。一緒に見に行くか。」
「私も行く。」
「もう見たんじゃないのか。」
「いいじゃない、何回見たって。悪いの。」
「悪いなんて言ってねぇだろが。・・・・」
てくてくてく
「どうだ。防音も耐火もした。音は近所に迷惑にならない程度に、
抑えられはずだ。耐火も壁だけじゃなく、天井にも施してある。どうだ?」
「言うことなし。完璧だよおっちゃん。」
「なんで秀兄ちゃんがそんなに喜ぶの?」
「喜ぶ?それはちょっと違うな。すげぇって、驚いてんだよ。」
「驚いてんの?」
「前から改造してたのは知ってたが、改めて見ると、すげぇなってな。」
「へぇ~」
「そこまで言われると恥ずかしいな。」
「ところで、そこで鍛錬するんだが、座ってみてくれ。」
「よいしょ。うん、鞴の位置もハンマーもこれでいいんじゃないかな。」
「ハンマーって、その機会ハンマーなの?」
「ああ、今はほとんどこいつを使うな。」
「そうなんだ。よく知ってるね。」
「あ、ああ、前に本か何かで読んだ気がする。」
ちょっと鋭い奴なら、このくらいでも怪しむんだろうな。
小夜のやつは、よく言えば素直。悪く言えば鈍感。
でもその素直過ぎるところは、嫌いじゃないけどな。
「しゅ、秀兄ちゃん、な、何してんの。火なんかつけて。」
「ああ、これな。火入れしとかないと、湿ったりしたらいけないだろ。」
「湿ったらいけないの?」
「そうだ。刀鍛冶の人が湿ったの見たら、こんなところで仕事ができるかって、
帰っちゃうぞ。」
「え~!それはダメ。秀兄ちゃん火入れして。」
「ああ、火おこしするには、もうちょっと炭がいるな。
小夜、炭を小石の大きさくらいに切ってくれ。斬るの得意だろ。」
「う、うん、でも何で切ればいいの?」
「それなら、そこの鉈で切ってくれ。」
「わかった。」
ぴしゅっ
こんころろん
「大きさは、これくらい?」
「もう一回り大きく切ってくれ。」
これはいいな。
俺の嫌いな炭切りは、小夜にこれからも、やってもらおう。
「このくらいでいい?」
「そうだな。」
「手が真っ黒になっちゃった。」
「顔もな。」
「え~っ!」
「どうせ真っ黒になったんだ。これから使う炭、切ってあげたらどうだ?」
「えっ、まだ切るの。」
「切ってあげてたら刀鍛冶のひと、きっと喜ぶぞ。」
「そ、そうかな。」
「ああ、そうだとも。」
「わかった、もっと炭切っとく。」
「おお、がんばれ。」
小夜はちょろいな。
あ~あ、小夜ちゃん、いいように扱われて、ちょっと哀れかも。まあ知ってても、同じだろうけど。
「私手伝う。」とか言って。