第十六話 秀の過去
秀に違和感を感じた早紀。秀の違和感の正体は?
みなさんこんにちは。
神野 早紀です。
昨日、「剣を見ていたらあんな負け方はしない。」
と、言った秀の言葉がひっかかり、まるで仕事になりません。
秀には分かっていたというのでしょうか?
それともほんとに、な~んとなくというやつなのでしょうか?
あ~もう、仕事が手につかない。
今聞いてもどうせはぐらかされるだけでしょう。
いつか見ていなさいよ、その口割らせてやるんだから。
こんちは。
神野 秀です。
昨日は危ないところでした。
何のことかというと、、早紀姉たちに剣の指摘をしてしまったのです。
昔俺は、親父のもとで早紀姉たちと剣術をやっていました。それも嫌々。
ある日、早紀姉と手合せすることになりました。
俺は思いました。
ここで早紀姉にぼっこぼっこにやられれば辞められるかもと。
そして俺は、ぼっこぼっこにやられました。
すると親父は言いました。
「今まで何をやってきた!剣術の才能のかけらもない奴は道場から出ていけ!」
やった!作戦成功。と俺は思っていました。
しかし親父は、
「そんなに剣術が嫌なら辞めさせてやる。だが、条件がある。」
くそ親父は見抜いてやがったのです。
そして条件というのは、親父の後輩の息子も剣術をやっていて、
天狗になってるからどうにかならないかと相談されたそうだ。
だから俺に剣術の大会でそいつに勝てということだった。
あんたの後輩の息子のことなんか知るか!
と言ってやりたかったがしようがない。
親父に詳しい話を聞いてみると、その息子というのが小学6年生で、
『うん、年上か。辞めるためだ仕方がない。』
身長180cmで体格もいい、ときやがった。
親父!辞めさせる気なんて、さらさらないだろ!!
と、言ってやりたかったが親父が怖い目つきで睨んでいたのでやめた。
大会まで2週間。
こんなに練習したことない、というほど俺は頑張った。
絶対に辞めてやる。歯を食いしばり頑張った。
相手のことを考えると、気持ちが萎えそうになるので、
何も考えずに頑張った。
そして、大会当日。
そいつは福島のやつだったので、わざわざ福島まで出向く羽目になった。
他のやつらの話を聞いていると、バカ息子は大会あらしをやってるらしい。
はた迷惑なやつだ。
トーナメント表を見ると、1回戦でバカ息子と当たることになっていた。
これは、ラッキーだ。バカ息子に1回勝てばいいだけだ。
俺はポジティブに考えた。
優勝することが、目的じゃないのだから。
だいたいバカ息子と勝負するということが、ネガティブなのだから。
そして、バカ息子との勝負が始まった。
で、でけぇ。
目の前にしてみると、思ってた以上にでけぇ。
だいたい俺は小4だぞ。相手が小6ってだけで不利なのに、
身長差が40cm以上。
俺はもう泣きたくなった。
ああもうどうせダメだ。棄権しよう。そう思ったときにバカ息子の顔が視界に入った。
ニタニタ笑っていやがった。
バカ息子になめられてる。
このまま負けるのは嫌だ。
そう思った俺は一か八か思い切り懐に飛び込んだ。
舐めきっていたバカ息子は、驚き体を反らしてかわそうとしたが、
体制を崩したところに俺の袋竹刀がバカ息子の胴にきまった。
バカ息子が舐めきってくれたおかげで俺は勝てた。
ありがとうバカ息子。
俺はお前のアホ面を一生忘れない。
そして2回戦は、あっさり負けてやった。
どうだ親父、あんたの思い通りなんかなってたまるか。
昔こんなことがあった。
早紀なんかに弱くなんかないことがばれれば、稽古に付き合わされるに決まってる。
そんなのまっぴらごめんだ。
昨日のことが引っかかる、って顔を早紀がしてたが、
知らぬ存ぜぬでこれからも通してやる。
俺の穏やかな日常をぶっ壊されてたまるか。
俺はあらためて、自分に誓った。
秀はやっぱりダメ人間でした。