オイオイ、やめてくれよ・・・ 3
第2話 世界大戦前夜②
海軍省 海軍大臣室
「いいんじゃないか?ヤマトが艦隊旗艦になって」
「私にとっても、ヤマトちゃんに艦隊旗艦になってもらった方が安心するわ~」
「ボクも賛成~!」
と、鎮守府に戻った俺が山本長官に呼ばれた理由をみんなに話すと、喜んでくれた。
「とは言え、あまり浮かれても行かないと思うんだけどなぁ・・・」
「姉御は変な所で心配症だな」
「ヤマトちゃんは基本的にはしっかりとしてるんだけでねぇ」
「だ、大丈夫ですよ、ヤマトさん!わ、私も第一戦車師団の隊長を務める事になったんですから!」
「チリはまず落ち着け」
喜びの中にはツッコミも入っていたが、この際はあまり気にしなくて大丈夫だろう。鋼の少女用に作られた寮にある談話室で、小規模でありながらしっかりとした宴会になっているし。
昼間、山本長官に言われた“第1遊撃艦隊”の他にアカギを中心にレイやナナがいる”第1航空機動艦隊”、輸送船団を護衛するための“護衛艦隊”、軽巡洋艦や駆逐艦を集中運用するための艦隊などがあり、これらの幾つかの艦隊をまとめて運用するのが連合艦隊である。
その中で一番人気は第1遊撃艦隊であり、そこの配属された経験だけで羨望の的になる。だが、一番人気であるが故に身体機能や運動感覚などの素質が大きく関わってくるため、倍率が非常に高い。現在、日本海軍に軍人として所属している人数はおおよそ300万人。
それに対する第一遊撃艦隊の所属人数は1万人前後。そこから単純計算で大体300倍という超難関であり、それを徴兵された兵と志願した兵から選別していくのは、かなりの労力と時間が必要になる。
だがその分、優秀な人材が士官クラスから兵に至るまで揃っているので責任重大だ。戦場では、気の抜けない状況に陥るのが目に見えてわかる。だから、彼女達はこうして固まった肩をほぐしてくれているのだろう。そんな彼女達の気遣いに感謝しないとな。
俺はそう思い、彼女たちと共にお酒を飲みながら色々と話していった。
その宴会から1週間後、海軍から正式に命令書が渡されたため、晴れて第1遊撃艦隊の旗艦となった。
それから3ヶ月の間、第1遊撃艦隊のメンバーであるタカオや他の軍艦との猛特訓によっていつ、他の艦隊と一緒に組んでも恥ずかしくないレベルにまでの練度まで上がった。
そして月日は1935年の夏から1936年の春になり、時代は大きくうねり始めるのだった。
「ついにドイツが軍縮条約から脱退する可能性が高くなりましたね」
「ふむ、あの男なら必ずやる事だからな」
俺と山本長官が待ちながら話しているのは、ドイツが国際連盟によって可決された2つの軍縮条約を破棄する内容を、国際連盟に提出してから2年が経つ事だった。
軍縮条約の破棄を申告した年、つまりは1934年からはそれまで兵器の製造を禁止されていたドイツが表立って大量に製造していた。それはまるで、予め大量生産する事が前提ような体制になっていたため、アメリカやイギリスは猛反発していた。あまりにも手際が良すぎる、という事で。
それと同時に、諜報員からの報告でドイツ製の鋼の少女がドイツ国内のドイツ空軍飛行場で確認されたため、前もって準備していたことが判明。その結果、欧米を始めとする世界各国で軍拡の気運が高まっていた。
勿論、日本でも同じような気運が高まりつつあるため、それまで見送られてきた大和型戦艦の追加建造が可決された。つまり、俺の妹が少なくとも1人はできる訳で個人的にはとても楽しみでもある。(ちなみに同型艦である武蔵は建造され、実戦配備済み)
それと同時に、既存の戦艦を整備・点検する、という名目で大規模な改修工事が行われている。エンジン部分を蒸気タービンからディーゼルエンジンにして、36センチ砲を持つ戦艦は40.6センチ砲に、40.6センチ砲を持つ戦艦は46センチ砲に、といった具合だ。
元々、そういう目的で作られた戦艦であったために、改修工事は比較的容易だった。
また、こちらの鋼の少女も3人増えた。
駆逐艦“ユキカゼ”と伊号第501潜水艦“イオリ”、そしてだ4式戦闘機“ハヤテ”だ。
ユキカゼとイオリは海軍に配属されるがハヤテは陸軍機であるため、チリやホイと一緒に動く事が多くなるはずだ。鋼の少女の集中運用は各国の軍の間では鉄則であり、彼女達をどれだけ生産して効率的な指揮系統で運用するのが課題になっている。
ただ、これで合計11人になる鋼の少女を保有しているのは現段階では日本ぐらいだろう。
何故なら、第1次世界大戦の時にイギリスやドイツと言ったヨーロッパ諸国はあらゆる意味でのダメージが今でも残っている。そのため、鋼の少女を作るにしても予算がなかなか決まらないので遅々として進んでいないのが現状だ。
敗戦国であるドイツやなんとか戦勝国になったイギリスならともかく、アメリカにまで軍縮の気運が広がった。その結果、鋼の少女の配備が多くても5~6人に留まっているにも関わらず、日本だけがここまで配備できたのには理由がある。
第一に、第1次世界大戦の時に多くの軍艦と大量の支援物資を送ったため、国際連盟での日本の発言力が強くなった事。第二に、軍縮条約の会議の水面下で発言力のある国と交渉を続けていた事。そして最大の理由は、世界の国際情勢の未来を予測して自国を守るためにあらゆる事をしていたのが大きい。
夢のない事ではあるが、夢や理想だけでは国は守れない。夢や理想とは、それに向かっていくだけの力や技術があってこそ、初めて実現するものだ、というのが日本のトップに立つ人間達の考えである。
その結果、軍縮条約では戦艦や空母、巡洋艦、駆逐艦や潜水艦に至るまで制限をかけたが、鋼の少女に関しては一切のお咎めはなし、という事になった。
それでいいのか?といった声も聞かれたが、軍縮条約が失効した後の世界を考えるとこれが一番ベストな結果だと俺は思っている。
そんな訳で新しく配属されるユキカゼ、イオリの2人を待っているのだが、
「・・・遅いですね。彼女ら」
「なぁに、まだ10分も経っておらんよ。気長に待とうじゃないか」
なかなか来ないのだ。
これだけ遅くなると、逆に心配になってくる。彼女達を誘拐しようとするのが人間だったら大丈夫なのだが、アカギやデンリュウだったらかなりやばい状況だな。
なにせ、彼女達は無類のかわいい物好きだからな。変な事でもされてなきゃいいんだが・・・。
コンコン
「ユキカゼとイオリ、只今参りました」
「ふむ、入りたまえ」
と、俺がそんな事を考えていると扉をノックする音が聞こえ、少女達が入ってきた。心なしか疲れているように見えるが仕方ないと感じてしまった。
「陽炎型駆逐艦“ユキカゼ”及び、伊号第501潜水艦“イオリ”。只今着任しました!」
「・・・着任しました」
と、見事な海軍式の敬礼をしてくれたが、明らかにその顔には疲れが見えていた。
「俺は大和型戦艦“ヤマト”だ。そして、こちらは海軍大臣の山本五十六長官です」
そう自己紹介をして敬礼をした。
「は、はい!よろしくお願いします!」
「よ、よろしく・・・」
ユキカゼの方は元気な少女だが、イオリの方はちょっとばかし引っ込み思案な少女だろう。まぁ、このぐらいの個性がないと戦争になったら生き残れないだろうな、と思う。
「所で、10分ほどの遅れになったのだが理由があるのかね?」
「はい、実は・・・」
ユキカゼ達の話を聞くと、やっぱりアカギ達に捕まり、色々と揉みくちゃにされたらしい。それで大きい方がいいか、小さいほうがいいかの論争になっていると言う。ユキカゼ達には同情するね。とは言え、平和な時ならともかく、戦争の時になったら大変な事になるぜ、全く。
「話はわかった、アカギ達を注意しに行くよ」
「わかった、よろしく頼む」
そう言って俺は、ユキカゼ達を連れてアカギ達がいる場所に向かった。
~~~~~~
横須賀鎮守府 鋼の少女の整備区画
「あぁん、そんな所に隠れなくてもいいじゃない~」
「「ひっ・・・!」」
俺達がアカギ達がいる鎮守府の一角に顔を出すと、真っ先にアカギが怪しい笑顔で手をワキワキしながら近づいて来た。そんな彼女を見たユキカゼとイオリはすぐに、俺を盾にするように隠れた。
「落ち着け、アカギ。あんたがそんな事をするから新入り達が怯えてるんじゃないか」
このまま行ったら色んな意味で危ないのでツッコミを入れるが、アカギはそんな俺に拗ねた顔をして、
「む~、ヤマトちゃんったら素っ気な~い。色んな着せ替えがあるのに~」
そんなことを言ってきた。駄々っ子か、あんたは。
「こいつらは着せ替え人形じゃねーぞ?そんなにしたかったら、人形とでも弄れたらどうだ?」
「それはいい考えね~」
俺が言ったことを想像しながら、満更でもない表情を浮かべた。
「うわ~。完全に変態として見る目だよ、あれ」
「アカギは可愛いものには目がないからな」
「姉御もよくあんな状態のアカギにツッコミを入れられるな・・・」
全く、誰がこんな奴に仕立て上げたんだか。前世の日本だったら速攻で通報されて警察に捕まるってのに。
そんな風に考えていると、後ろからデンリュウの声が聞こえたのと同時に胸に手を回された。
「ヤマトちゃ~ん、そんなに怒らないで~」
「デンリュウ?後ろからいきなり声をかけるな・・・て、胸を揉むな!」
「やっぱり、ヤマトちゃんの大きなオッパイはいいわね~」
この変態残念美人共、前世の人間が見たら百合だとかガールズラブとか言われるが、それでも辞めないタイプだろ、これ。全く、被害者からすればいい迷惑だぜ。
「え~、やっぱり女の子は小さい方がいいでしょう?ねぇ、レイちゃん、ナナちゃん」
「え!?い、いきなり話を振られても・・・」
「アカギ達の趣味など、聞いていないんだが・・・」
「いやいやいや、残念美人とか、百合系女子とか、そういうツッコミはありだと思うぜ?」
デンリュウの持論にアカギが反論するが、その議論についていけないレイ達はドン引きしているし、新入りのユキカゼ達は完全に話の輪から離れちゃってるし、タカオに関してはいつの間にか、どこかに行っちゃってるしで事を収拾させるのに時間がかかったよ。
それで後日、アカギとデンリュウに話を聞くと彼女達なりの歓迎だったらしいが普通、あんな事をすれば嫌われるからやめておけ、と注意した。
~~~~~~
そんな一悶着がありながらも、無事に新しい仲間を歓迎してから1週間後。
「お花見?」
「えぇ、そうよ~。そろそろ身の回りも落ち着いたからちょっと遅いお花見をしようと思ってね~」
俺がアカギから聞かされたのは、鎮守府の近くにある神社でお花見兼宴会をする、という事だった。
俺は、息抜き程度の催し物だったらいいか、と思って企画書を出す所に出したら提出したらいいぜ、と言っておいた。ついでに神社ってこの近くにあったけ?と赤城アカギに聞くと“着いてからのお楽しみよ~”、なんてはぐらかされた。
その後、1時間ぐらいしてアカギが“大丈夫ですって”、なんてゆるい感じで言ってきたので、ふた手に分かれてみんなに声掛けしておくか、という話になった。
「それにしてもお花見、か」
一人っ子だったとは言え、友人も少ないながらもいたため、お花見は何回か行った事はある。だが、それもただ見て終わりで遊園地やゲームセンターに行ったりしていた。そのため、お花見兼宴会って実際はどういうものなんだろうなぁ、と思っていたのだ。
とは言え、人前で変な行動は避けてほしいものだ。そう一人で呟きながら、鎮守府に植えられている桜を見てその日はのんびりと過ごした。
お花見、当日
横須賀鎮守府近くの神社
「人が多くないか?」
鎮守府から歩いて30分ぐらいにある神社に到着した俺達、鋼の少女を待っていたのは多くの人だかりだった。
見た感じ、境内はかなり大きいのだがそれ以上に人が集まっていたのだ。
「そりゃ、そうよ~。だって、鋼の少女を町中で見られるなんて滅多にない事よ~」
「それで2週間も待っていたのかぁ」
「どおリでおかしいと思った。イベントならちゃんと準備するはずのアカギがその前に誘うなんて」
そう。アカギは普段、おっとり系の女の子なのだが長らく鋼の少女のリーダーを務めていただけに、物事を理解してそれに必要なものは一通り、前もって準備する女性なのだ。
それを知らなかった俺は、それを知った時に非常に驚いたのだがアカギに、『能ある鷹は爪を隠すって言うじゃない~?』と、言われて妙に納得したものだ。
とは言え、ここまで人が集めるには前もって関係各所に連絡しないと難しいだろう。そういった事務処理なんかも、俺も出来るようにしたい。
何故なら、前世では今から6年後の1942年6月5日に発生したミッドウェー海戦にて、空母赤城を始めとする空母4隻が瞬く間に撃沈。その後の戦局を大きく変えた海戦となったからだ。
可能性の話ではあるが、前世の日本よりかは好条件でも前世の歴史の流れをなぞるように行くならば、あの悲劇が隣りにいるアカギに降り注ぐ事になる。それだけは絶対に阻止しないといけない。俺の手が届く範囲内で大切な人を死なせるものか。
そう思っていると、
「アカギせんぱ~い」
「あら、久しぶり~」
「・・・この声はチリか」
俺達は声がした方に顔を向けると、チリ達陸軍の鋼の少女達がいた。すると、周囲にいた民衆から大きな歓声があり、そんな彼らに手を振るとより一層大きくなった。
ではなぜ、祭日でもない日にこれほどまでに民衆が集まったのかと言うと、民衆のアイドルだからだ。これまで陸海軍は、鋼の少女の有効性を示すためにあらゆる努力をしてきた。
兵器になるのか疑問視する政府や軍の上層部、多くの税金を投入して人形を作る気か、とがなり立てるマスコミ、それに釣られて反対運動を起こす群衆。それらを説得し、懇切丁寧に説明をして承認され、作った後は日本全国に移動してその実用性を説いた。
その結果、民衆の理解を得られたためにこうして人気を博しているのだ。そして何よりも、それまで志願兵の数が一気に多くなり、地域によっては全体の20%台を上回る年もあったほどだ。
そんな訳で賑やかになった境内ではあるが、誰も彼女達に手を出す人間はいなかった。
理由は言わずともわかると思うが、彼女達の身体機能は一般人より遥かに上回っているため、悪さをした場合、すぐに捕まって警察の御用になるからだ。実際にそうなった人はいるのだから、人の噂は恐ろしい。
その日は、久しぶりに再開したメンバー同士で飲み合っていたがその内、周りの人も巻き込んでの宴会となり、次の日の朝まで続いたと言う。その後、なんとか境内をみんなで掃除して帰ったが、今度は二日酔いで更に次の日までダウンしたのは言うまでもない。
そんな感じで新しい仲間が増え、和気藹々とした春から夏に季節が変わり、その夏が終わった9月1日、ついにそれがやってきた。
世界を地獄に陥れかねない世界大戦が。




