少年少女は明るく話す
ギルド狩りーー本来なら禁断とされているものだが、ブラックローズが許されているには理由がある。だがほとんどのギルドは気付いていない。
簡単に説明すると、ブラックローズはこの世界で「警察」のような役割を担う「IGA(国際ギルド協会)」に送り込まれたギルドなのだ。
内部から掟破りのギルドを発見し、執行するーーそれがブラックローズに任された役割だ。
そしてその事に気付いているギルドもある。
「お!今日も狩ってきたの?お疲れ様、毎日ありがとうね」
ターゲット討伐が終わり、宿へと戻る途中に何者かに声をかけられた。
「あ、ユウマさん。いえいえ、礼を言われるような事はしていませんよ」
ユウマさんは、ギルドランキング3位のギルド『ダークナイト』の一員だ。ダークナイトは昔から俺たちの秘密に気づいていて、割と友好的な関係となっている。
「いやー、ほぼ毎日やってて無敗でしょ?本気でポイントを稼ぎに来たらTOP10なんて楽勝だと思うんだけどなぁ。今度うちのギルドと模擬戦しようよ」
ユウマさんはそういってニッと笑う。感じが良くて笑顔が似合う、好青年とはこの人のためだけにあるんじゃないかと疑うほどだ。
「いえ、そんな…ボコボコにやられちゃいますよ」
俺ははにかみながらそう返す。
「また謙虚なんだからさ!まあ、また気が向いたらしよーぜ。じゃ!」
ユウマさんはウインクしながら走って何処かへ行ってしまった。
「あの人ほんとに強いのかなぁ…」
なんだか心配になってきた。まあいいや。
「よし、みんな宿に戻…お?」
「あ、ブルートこっちこっち〜」
マリンがなにやら綿菓子に見えるものを口に含みながらブンブン手を振っている。周りには綿菓子を食べ終わった棒で突っつきあいをしている仲間たちがいた。
「ほんっと、なんだか軽いよなぁ」
まあこの軽さが好きなんだけど、と心の中で呟きながら、俺は仲間の方へと走っていった。
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「またブラックローズに潰されたみたいだよ」
金髪の外国人風な顔立ちをしている少年がやれやれ、といった感じで仲間に報告する。
「けっ、ブラックローズのメンバーは1人も消せてないんだろ?どんなバケモノ集団だよ」
サングラスを額にかけたヤンキー風の男が少し笑いながら続ける。
「まあいいじゃないか。それだけ潰しがいがあるってこった。おいレブン、酒をとってくれ」
レブンと呼ばれたホスト風のその男は、言われた通り瓶に入った酒を渡した。
「そうだな…でもそろそろ消えてもらわないと俺たちの計画の妨げになっちまう。…そろそろ使うとしようか。ーー切り札を」
そう言って酒の蓋を簡単に外して親指でピンと弾く。弾かれた蓋はそのままコロコロと床を転がった。
「ーーレブン。『デスギルド』に連絡を取れ」
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「あーー疲れた!」
マリンが本当に疲れたといった感じでゴロンとベットに転がった。
「ちょっと、ランデルに棒で突かれたとこ、まだ痛いんだけど。慰謝料何万出るの?これ」
「えぇまってユミナ!同じギルドの仲間を訴えるの!?仲間だよねねぇ!?」
「だれが仲間なんて言ったっけなぁ!」
ユミナはフン、といった感じでそっぽを向く。黒髪の長髪で大人びた感じなのだが、内面はまだ子供の部分が多いようだ。
「ちょっとブルート、あんたまさか『子供だなぁ』みたいな事思ってなかったわよね」
完全に疑いの目でこっちを見てくる。
「い、いやぁ、そっそんなことは…ハハ」
「わかりやすっ!」
ドワッと笑い声が飛び交う。ギルド狩りをしているとは思えないような、本当に陽気なギルドだ。
「さ、そろそろ寝るかぁ」
くわぁ、とあくびをかきながらユーメルが言った。“悪魔の計画者”とは程遠いような眠そうな顔をしている。
「そうだな、明日に備えてそろそろ寝よう」
俺はベットに顔をうずくめる。
ーー明日に史上最大の激闘が待っているとは全く知らずに。