少年少女はあっけなさを感じる
この世界の宿はオートマチックになっている。受付もホテルマンも、みんなロボットだ。
便利な世の中になったと思うが、襲撃のことなどを全く想定していない。そこが唯一の欠点と言えよう。
その無防備なホテルを前に、俺たちはいつものように計画の最終確認をする。
計画の内容はこうだ。まずマリンとランデルが部屋に入りおびき寄せ、部屋から出てきたところをユミナとユーメルの魔法で討つ。そして余りが出ればーー俺が消す。
今までユーメルの計画が失敗したことは一度もない。さすが“悪魔の計画者”と呼ばれるだけあると思う。
ユーメルの計画はいつも単純だ。複雑に入り混じったややこしい計画などはせず、一人一人が自分の役割を明確に把握できるようにちゃんと計画されてある。
ユーメルの計画は必ず失敗しないと全員が信頼している。そのおかげで今まで迷いなく作戦を実行でき、失敗無しという結果を招いているのだろう。
「よし、行くか。お前ら全員いつも通り、死なないように」
いつもの言葉を全員にかける。
「よっしゃ!」
そういってマリンとランデルは部屋へと走って向かった。
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「やあやあみなさんこんにちは!どうですか?ーー別のギルドを潰して飲む酒の味は」
「きっ…貴様は…!?」
大男を中心にした5人組のギルドーーそれが今回のターゲットだ。
今驚いた声をあげたのはギルドマスターであるダーマという男だろう。
「ええ、ご存知ならば光栄です。おなじみ『ブラックローズ』のランデルと」
「マリンって言いまーす!それでは外の仲間を呼んできますね、それではみなさんさようならー!」
「ま、待ちやがれ!!」
仲間を呼ばれたら一貫の終わりだ。反射的にそう結論を出したターゲット。釣られるままに部屋を出た途端ーー
ターゲット全員の右半身に今まで感じたこともないような衝撃が走る。何が起こったのか全く分からなかった。
簡単な話だ。計画通りユミナが強大な水魔法を放ったのだ。今ので3人はノックアウトしただろう。
「ひぃ…」
這いつくばりながら逃げようとするターゲットに、今度はユーメルが火魔法を放つ。ターゲットは呻き声とも叫び声ともなんとも言えない声を発していた。
その間にダッシュで逃げようとする大男ーーダーマの前に立ちはだかる黒い服を着た少年。
その顔を見た途端、ダーマの顔が凍りつく。
「お、お前はまさか…?」
「ええ、ブラックローズのギルドマスター、ブルートと申します。………死後、お見知り置きを」
以後を死後と言った所に、全ての皮肉を込めておいた。俺はダーマが俺の言葉に絶望するーー前に右手で素早く剣を抜き、一閃。
あっけなく事を得た。
「全員無事だな?」
ミッション完了後に安否確認はかかせない。
「はーい。今回もあっけなかったね」
つまらなさそうにマリンが呟く。
「まあそう言うな。あっけない方が危険が少なくて本来はいいことなんだから」
俺は諭すように言う。
空を見ると、さっきまでの雨雲が嘘のように晴れていた。
「さ…帰りますか」
いつものように俺たちは亡きギルドに一礼をしてから、元来た道を戻って行った。