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二人の歌姫 (Yuki and Miti)【singer side:花野美知】


【singer side:花野美知】


「この大会も、後2人が歌うと優勝が決まります」


 と司会者が言うと割れんばかりの歓声が響きわたる。


 続けて


「13番は、なんと予選一位通過者です。優勝最有力候補、花野美知さんです」


 と私の紹介をした。


 私の出番が来たようだ。


 急いでステージに立つと私はマイクの高さ調節をする。


 私は出場メンバーの中で最も背が低い。


 そしてギターを持って演奏するため、ほかの出場者に比べ調整に少し時間が掛かった。


「お待たせしました。13番、花野美知『あの時に戻りたい』を歌います」


 まばらな拍手が収まると私は演奏し歌い始める。


「あの頃に戻れたら ふと思う 戻れないとわかっているのに わかっているのに」


 この歌は、今日のために作った新曲だ。父との別れた時の苦しい思いと、奴等に対する憎しみをこの歌に込めた。


「隠すために 私たちは口を お金で塞がれた」


 5人いた審査員の内3人が青ざめた。奴等の関係者だろうか。


 サビに入る。


「あの時に戻りたい 戻れないけど もうあなたは帰ってこない 」


 会場の空気が次第に重苦しくなる


「忘れられない 忘れたくても 忘れる力も勇気も無い」


……やりきった。


 何人かの審査員が青ざめた時は、失格になるか不安になったが中断されることなく歌うことができた。


「得点がでたようです。満点・満点・満点・19点・満点、合計得点は99点です!」


 と、興奮しながらも得点と順位を司会者が発表した。


 満点が取れなかったのは痛かったが、やれるだけのことはやったのだ。


 お願い勝たせて、と私は祈った。


「まだです。まだ歌う人はいますよ、皆さん。勝負は最後まで分かりませんよ。それでは最後に歌う人を紹介します。樫崎由紀さんです」


 と司会者が言うと割れんばかりの歓声が響きわたり、会場が再び盛り上がる。


 彼女の出番が来たようだ。


「かなり人気があるのね……」


 会場には彼女のファンが彼女に向かい手を振ったり名前を読んだりしていた。


 しかし彼女が歌い始めるのが分かっているかのように、突然静かになった。


 他のアイドルの時は歌っている途中だというのに騒々しかったのにどういうことだろう?


「14番、樫崎由紀『明日は晴れるかな?』を披露します」


 割れんばかりの拍手がやんだ後、彼女は歌い始めた。


 歌唱力は、アイドルの枠を越えていたが、これは私も負けてはいないと感じた。


 しかし、彼女の歌を聴くうちに彼女には敵わないと確信した。


 この大会はアイドルの頂点ナンバーワンを決める大会だ。


 アイドルに憧れてアイドルになり、歌手に匹敵する歌唱力を誇る彼女にこそふさわしい称号ではないか。


 彼女の歌を聴くたびにその思いは強くなった。


 私は、この大会でアイドルに勝ち№1に輝くことが復讐になると考えていた。


 だがそれは、自分がアイドルだと認めることになる。


 仮に私がこの大会で優勝したとしても、歌手がアイドルに勝ったとは思われないだろう。


 無名のアイドルが、有名アイドルを倒し番狂わせを起こしたと会場の人々は考えるだろう。


 自分の考えた復讐は、皮肉にも彼女をひきたたせるものだった。


 あの道化師が用意した舞台で私はピエロを演じさせられていたのだ。


 彼女が歌い終わると割れんばかりの拍手がおこった。


「得点が出たようです」


 の一言で私はもう一度祈った。


 勝たせてほしい、と。


「満点・満点・満点・満点・19点、合計得点99点で、なんと優勝者が2人になります!」


 信じられなかった。


 誰がこの結末を予想できたのだろうか。


 いや、あの道化師はこの結末を予想できただろう。


 私と彼女をこの大会に招待した張本人なのだから。



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