閏年の歌宴 (opening )
ここから本編となります。
閏年の2月末日の午後7時、各民間放送局はある大会の中継を一斉に開始した。
その大会とは、30歳以下の女性アイドルの頂点を決める世界初の大会、最強偶像杯(Best・idol・Cap)である。
この大会の優勝者には、多額の賞金が与えられるということもあり、参加希望者・団体が殺到、邦楽ランキング常連から地方で地道に活動する者まで、レコード会社の垣根を越えた豪華な大会となった。
そのため急遽予選会が行なわれ、十四名が決勝戦に駒を進めた。
しかし、決勝進出した14人中10人が同一グループのメンバーおよび姉妹グループのメンバーであったため、ネットの最強偶像杯掲示板では、名無しさんによる『八百長・出来レース』のコメントとそれに怒ったグループのファン達による不毛な口撃の応酬が繰り広げられていた。
ただ、予選会の審査を行った審査員達に、不正な評価・選考を下した者がいないことをここに記しておく。
また、決勝進出を逃した参加者のレベルは低く、上位13人を除きほとんどの参加者が100点満点中の50点以下の点数しか取れていなかった。
以下、予選順位と得点である。()の内容は所属団体・グループである。
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第1位 100点 花野美知(無所属)
第2位 92点 樫崎由紀 (A48)・三嶋雨花 (A48)
第3位 90点 渡真由実 (A48)
第4位 89点 小山彩 (N48)
第5位 87点 桃田綾香 (A48)・縦山結衣 (A48)・西葉莉子 (H48)
第6位 84点 道軽美優 (イブニングガール)・田上玲美 (イブニングガール)
第7位 79点 石野美咲 (A48)
第8位 76点 松木樹里 (S48)・松木玲 (S48)
第9位 49点 繭永桃乃 (イブニングガール)
以下予選敗退者
第10位 42点 千田冬子(ピーチシスターZ)
以下諸事情により省略
第3061位 11点 井伊直子(歴女13)
最下位 0点 天野尼子(海女ーS)
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この大会は、歌唱力とそれ以外のパフォーマンスを、5人の審査員が評価する。
審査員は、1人を除けば有名な歌手・作詞家・作曲家、そして芸能界のドンとそうそうたる顔ぶれである。
彼抜きにテレビ番組は作れないと言われるほど、芸能界で絶大な権力をもつ大手芸能事務所の会長J、カラオケ印税で1000坪の豪邸を手にした作曲家K、ミリオン圏外の歌手・グループでもミリオンヒットする流行歌を書き上げる紅一点の作詞家N、バンドブームの火付け役となったグループChild・ロck (チャイルド・ロック)のヴォーカル桃木和利である。
そんな有名な歌手・作詞家・作曲家達で固められた審査員達に混じって、音楽とは関係ない仕事をしている者が1人いた。
彼は、有給を使って好きなアーティストのライブに行ったり、音楽番組をかかさず見ること以外普通のサラリーマンであった。
だが、ほかの審査員と同じく大会側から招待された。
そんな一般人ともいえる彼には、当然ながら注目が集まった。
「大会の主催者サイレントピエロについて、何かわかりませんか?」
とレポーター達が尋ねるも
「彼の正体は僕にも分かりません」
と素っ気ない彼の答えに、多くの観客・視聴者・レポーター達は失望した。
だがその失望は、会場に入場したアイドル達によって歓喜に変わった。
そして、打ち上げられた季節外れの煌びやかな花火によって、閏年の歌宴が始まりを告げた。
そして、その花火はある作戦の開始を告げる合図でもあったが、会場にいる観客・テレビ中継で大会を見ている者・審査員・決勝進出者達、そしてマスメディア・マスコミが知るよしもなかった。