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人形は夢を見る

作者: 中津まこ

 誰もが知っている、人形が人間になった物語。

 これは、その主人公であるピノキオに憧れた、魂が宿った人形のお話です。



 僕の名前はライ。

 夢は、ご先祖さまのように人間になること。

 だからそのために今、良心を知ろうと旅をしているんだけど……。


「ご先祖さまは、どれくらいの間冒険をしたんだろう」


 旅を始めてから、今年で100年。

 僕を人間にしてくれるはずの青い妖精は、未だ現れる様子を見せないでいた。


「ということは、僕はまだ良心というものをわかっていないんだろうなぁ」


 僕はため息をついて、アスファルトの上でひとり、途方に暮れた。もちろん実際は息なんかしてないから、そんな風に、だけど。

 100年、僕は僕なりに良心というものを理解しようとしてきた。ううん、理解どころか、実行もしてきた。もし良心とはかけ離れたことをしてたらどうしようとか、やってることが唯のありがた迷惑だったらどうしようとか、いっぱい悩みながら怖々とした行動だったけど、沢山の人にありがとうって言われて、僕は嬉しかった。この体は小さいけれど、出来ることは沢山ある。なんたって、病気にならず疲れを知らず、万が一があっても替えが利くのだ。何度この体に感謝したか。

 そんな体を持っていて、どうして人間になりたいのか。人間にならない方が良い。……なんて、よく言われるけど。今より不便な体になろうと、人間になりたいと僕は思う。

 メリットなんて無いのかもしれないけど、僕はなりたいのだ、どうしても。

 人間に。


「誰かを傷つけることはいけないこと。誰かを慰めるのはよいこと。誰かを馬鹿にするのはいけないこと。誰かを褒めるのはよいこと……」


 つらつらと、今まで経験したことや学んだことを、人の居無い道路の端をなんとなしに歩きながら僕は並べてみた。


「誰かと喜びをわかちあうのは良いこと。誰かと陰口を叩くのは悪いこと。誰かと仲良くなるのは良いこと。誰かとケンカするのは悪いこと」


 脳なんて無いから、何処に記憶が刻まれているのか僕にはさっぱりわからないけど、今まで見てきたものはきちんと覚えている。

 だから、僕はどこかにヒントが無いかを当てにしてひたすら呟いてみる。


「誰かに手を差し伸べるのはよいこと。誰かに暴言を吐くのは悪いこと。誰かに甘えるのはよいこと。誰かに執着するのは悪いこと。それから……」


 僕は羅列し続けた。……そのうちに、悲しい気持ちになってくる。

 もう、良心というものは理解し尽くしたはずなのに。

 貴方ほど人間らしい人形は知らない、と言われたこともあるのに。

 どうして?


「なんで?あと、何を経験したら、何を知ったら、僕には良心を理解出来るんだろう、人間になれるんだろう」


 落ち込んで、考えようとして、でもすぐに頭を振って顔を上げる。


「ダメだダメだ、じっとしてたって仕方ない。何か、何かしなきゃ!」



 彼は走り出しました。

 どこかへ向かうように、何かから逃げるように。


 あぁ、なんて可哀想な人形なんでしょう。

 彼は誠の魂が宿った人形でした。

 人間になる事を夢見た、けれど人間になれない現実を見られなかった、哀れな人形だったのでした。

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