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33:建築チュートリアル

 腹立たしい。

 テストで3週放っておいたらヤギに根こそぎ作物を喰われていた。


 間一髪、綿花の収穫はできていた。それでもだね! 両親が溜め込んでいたストックから出してきた黄金綿花を喰われたのはとんでもない失敗なんだよ! 金糸が! 極上の刺繍糸だと攻略サイトに書かれていたのに!


 もう、私はこのような失敗を犯さない。ヤギには滔々(とうとう)と説教し、ヤギ小屋とヤギ牧場を作ることを決める。

 喰っても喰っても食いきれない、巨大双葉草を牧場に敷き詰めてやれば作物を食べることはないだろう。


 生産ギルドで建築のチュートリアルをお願いする。

「建築関係に右官左官があるんだが、鳶とか大工の建築か?」

右官って、何ですか?

「木で建築するのが右官。石で建築するのが左官だ。この建物を作ったのは左官が主流だな。煉瓦を積み上げて作る家は左官が担当だ」

「ヤギ小屋が作りたいんです」

「ヤギ小屋……?」

奇妙な物を見る目で見られた。

「では、右官の方に連絡しよう。地図を」

差し出された手にマップを渡す。

「じゃ。行ってこい」

「行ってきます」


 右官の大工さんはとても大きかった。

山積みの材木がサイズ別に纏められている。

「そんじゃ、まずは(ノコギリ)だ。鉛筆で線が引かれているから、線に沿って引いてくれ」

「はい」

作業の邪魔にならないよう留め具を取り付け、線に沿って鋸を引いていく。


 引き終える頃にはいつもの時間に差し迫っていた。

「すみません。そろそろ時間になりました」

「そうか。じゃあ、チュートリアルを中断するか。次は(かんな)かけるからまた来いよ」

「はい。ありがとうございます」


 翌日。午前終わりを良いことに建築チュートリアルを再開する。

「次は鉋で表面をなめらかにする。屑が巻くほど薄くなるまで終わらせんから覚悟しろよ」

「しかし、材木が……」

「この材木は元々使えん。お前の練習がなかったら廃棄ものだ。……側面を見てみろ。真ん中にヒビがいっているだろ」

側面を見てみれば、なるほど。確かにヒビが入っている。

「建材に使えないやつだ。練習に使え。余ったら報酬に入れてやる」

「ええと……嬉しいのですが、アイテム・ボックスに余裕がありません」

「んなもん、ホーム・ポイントに送られるよう設定すればいいじゃねえか」

何だって?

「え、あ、設定?」

彼ははぁ、と溜め息を吐く。

「設定画面で報酬の送り先を『任意』にしておけば報酬の受け取り時に選択画面が現れる。『アイテム・ボックス』と『ホーム・ポイント』。『装備』だってあるぞ」

「ああ、そうなのですか。ありがとうございます」

報酬の送り先を『ホーム・ポイント』に変えておいた。

「こういう基本はどのゲームにも共通されるよう指定されているから省かれているんだが、次回作の取説に入れておくよう運営に伝えるわ」

そんな指定があるんだ。

「じゃ。鉋な」

「はい」

鉋を手に取り滑らせる。うーん。少し分厚い? もう一回。あ、切れた……。もう一丁。よーしよし。この薄さなら問題ないだろう。

「どうでしょう」

「もうちょい薄くならねぇか?」

「……はい」

薄く。もっと薄く。もっと薄く。これでどうだ!

「これならどうでしょう」

「まあ、これなら合格だろ。大工ならまだ薄くしなきゃならんが、初心者だしな」

「……そうなのですか」

まあ、合格貰えたから良しとしよう。

「次は(のみ)だ。このノミは叩きノミと言って金槌で叩けるように柄尻を鉄で補強されてんだ。で、このノミを金槌で叩き、この枠内を8㎝ほど坑を空けるんだ。いいな?」

「はい」

叩く、叩く、叩き続ける。そうして8㎝の坑を空けることができ、この日のチュートリアルは終了となった。


 練習用木材とは違う場所に連れて行かれる。

「今日は犬小屋作りだ。板材を釘付けして完成させろ。入り口はアーチ状と注文された。設計図はこれだ。頼んだぞ」

まさかの注文が入りました。

そもそもどうやってアーチを描けばいいの?

うーん。とりあえず設計図通りにマーキングしようか。


 マーキングに沿って、丁寧に鋸を引いていく。あぁ、でもアーチが……

「すみません。アーチを切るにはどうすれば……」

「工具変えりゃあいいんだよ」

おう。なるほど。

彼は工具入れを(あさ)り、工具を手渡してきた。取っ手にコ型のものがついて、糸が張られている。

「そいつは糸鋸と言って、斜めの線を切るやつだ」

「糸鋸……やってみます」

糸鋸を引いていく。おー、確かに斜めの線を切ることができる。うんうん。これならアーチが描けるね。


 入り口の板材を作り終えて釘付けをしようと思ったら止められた。

「鋸で切った後は(やすり)で削るんだ。ささくれで怪我させちゃあまずいだろ」

「そうですね。ヤスリ、ヤスリ」

工具入れを漁り、ヤスリを取り出す。ん? ヤスリがいくつも出てきたぞ?

「あの、どのヤスリを使えばいいですか?」

「まずは目の粗いヤスリを使って、徐々に細かいやつに変えていくんだ」

まさか、ヤスリを何種類も使い分けるとは思わなかった。

ヤスリを目の粗い順に並べたら研いていく。

確かにヤスリを使う前とは全く違う。粗いヤスリでこうなら、細かいヤスリは綺麗になるんだろうな。


 アーチのところがやりにくい。

「円の所は紙ヤスリを使うんだよ。ほれ」

紙ヤスリ!? 確かに紙の入った袋があったけど、ヤスリとは思わなかった。

目の粗い順に研いていく。

「これでいいですか?」

「おう。次は釘付けだな」

「板と板を合わせて釘付けすればいいのですよね?」

「いや、違う」

え。

「棒状の木があったろ? それを端に打ち付けて、釘が重ならないようにするんだ。板だけでは頑丈にできないからな。つまり、柱の役割だ」

な、なるほど! 犬小屋とはいえ家なのだから、すぐに外れちゃ困るものね。しっかり柱を入れないと。


 柱となる木材を端に打ち付けて、組み立て、犬小屋を完成させた。

「よし。これで建築チュートリアルは終了だ。もっと深く建築について知りたいなら、生産ギルドに言って頼みに来な」

「はい! ありがとうございます!」

「木材や板材の販売はここじゃあやってないから専門店に行けよ」

「はい」


《建築チュートリアルが終了しました。

 チュートリアル・カウンターに報告してください》

《建築スキルレベル0を獲得しました》


ーーー獲得スキルーーー

建築スキルレベル0 +STR2


ーーー獲得報酬ーーー

100(コイン)

木材 300×80×80


さあ、木材屋と本屋に行ってこよう。ヤギの好きにはさせない!

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