17:料理チュートリアル
そういえば、と みなとさんが洗い物をしていた手を止める。
「料理スキルは手に入れたか? よかったら教えるぞ」
「本当ですか? お願いします」
彼はうん、と頷く。
「献立は 味噌汁 だ」
よかった。これなら何とかなるね。
「とりあえず、出汁を作ろう」
出汁!?
調理台に 昆布 煮干し 鰹節 削り機 が用意される。
「削りから用意するんですか。初めて見ました」
「まあ、削り節が市販されてるし、見る機会はあまりないのは当然か。そもそも出汁の粉末で十分だから、一般が使う必要ないもんな。だが、削りたての鰹節は一味違うぜ」
それは確かに違うだろう。
違いがなければ定食屋も出汁の粉末を使う。
最初に作るのは煮干しの出汁汁だ。
煮干しを1尾ずつ、頭と腸を取っていく。量は18尾。
この手間が料理のランクを上げるのだと彼は熱く語る。
4カップ800mlが入ったボウルに次々入れながら、私は 日常的に作ることはあるのだろうか? などと思いながら聞き流す。
リストライフで作らせよう。
30分漬けておく間に昆布と鰹節の出汁を作る。
昆布は10cm程の大きさに料理ハサミで切ったものを2枚。汚れをふき取り、水4と2分の1カップ入れたボウルに投入。
20分の漬け時間の間に鰹節を削る。
「薄く! もっと丁寧に削るんだ!」
無駄に熱い彼に呆れながらも言われた通りに薄く丁寧に削っていく。
削った鰹節は量りで正確に28g。
鰹節を削るのに神経使って疲れた。しかし、休憩している時間はないらしい。
慣れない作業に時間がかかり、出汁を煮込まなければならないタイミングだったのだ。
昆布汁と煮干し汁を別々の鍋に入れて中火にかける。
昆布の鍋底から気泡が出てきたら昆布を取り出す。
煮干しの鍋が煮だったら弱火にかえて、アクを取りながら7分。
同時に昆布鍋が沸騰したら鰹節を投入し、弱火にしてアクや泡を取りながら2・3分。
火を止めて鰹節が鍋底に沈んだら、目の細かいザルを入れたボウルに鰹節がボウルに入らないようそっと注ぐ。
煮干し鍋の火も止めて、目の細かいザルが入ったボウルに入れて濾す。
長ネギ1本を1cm間隔で切り、
「全部切るのか?」
「え?」
何か、おかしいだろうか?
「5mmとかにしたほうがよいですか?」
「いや、そうだな。地方によって使う場所は違うものだったか」
みなとさんは長ネギの白い部分だけを使うという。
「うちは、根っこ以外は全て使います」
地方の違いを知り、長ネギを洗ってボウルに入れて水にさらす。次は大根だ。
大根を10cmほど切り落とし、皮をむく。
更に3~4cm間隔で輪切りにし、イチョウ切りにしていく。
洗ってザルに上げる。
豆腐の水きりは、乾いた布巾を敷いたまな板を少し傾けて置き、木綿豆腐を一丁乗せる。
「今回は味噌汁だから軽い水きりでいいが、きっちり水切りをする時は平らなバットとかで重しにして、30分ほど置いておくんだ。覚えとけ」
現実だったら、ペーパータオルに包んだ豆腐を耐熱容器に入れて、電子レンジで1分でもいいぞ。と付け足す。
これから味噌汁を作るのだが、はっきり言って2種各800mlも作れない。
疑問に思って尋ねると、余った出汁は違う料理に使うという。
「日常的に作れねえからな。出汁は2・3日もつし、飯屋でなきゃ作り置きでいいだろ」
納得だ。
「だから、今回はそれぞれ1カップ200mlずつ使うぞ。こぼれないように入れるんだ」
1カップずつ鍋に入れ、火にかける。
煮立って来たら大根を投入し、豆腐を2cm角に切っていく。
大根が透明になってきたら、長ネギと豆腐を加えて更に煮る。
「味噌は何にする?」
「うちは合わせ味噌を使ってます」
「いや、あのな。合わせ味噌でも色々あんだよ。とりあえず、米みその白甘口使っとけ。後で説明する」
うん。と頷き、火を消すと濾し器に大さじ1.5杯入れると菜箸を使って濾していく。
味噌が溶けきったら火にかけて煮だたせる。
煮立ってすぐに火を落とせば、味噌汁の完成だ。
味噌汁を器に入れて飲む。はっきり言って白い味噌汁とか初めて見た。
「さてと、チュートリアル終了の前に、味噌について教えとくか」
飲み干した器を置いて、みなとさんを見る。
味噌は全国に数百種あり、エンジョイ・ライフでも米みそ・麦みそ・豆みそがあり、米みそには赤と白があるという。
「本当は米みそでも甘みそ・甘口みそ・辛口みその赤白と麦みその甘口・辛口まで再現して欲しかったんだが、そこまで生産されてなくてな。ま、贅沢は言えない」
「味噌って、奥が深いんですね……」
そもそも、そこまでの種類を追求した職人さんも凄いと思う。
「そもそも、味噌って大豆で作るものでは?」
「原料は大豆で合ってるよ。味噌の麹は穀物の麹を使ってるんだ。米麹・麦麹・豆麹だな」
「へぇ。麹って色々とあるんですね。塩麹くらいしか知りませんでした」
「料理ってのは、奥が深いんだよ」
そこまで奥深く入り込む必要あるのかなぁ、と思いながら私は曖昧に笑った。
《料理チュートリアルが終了しました》
《料理スキルレベル0を取得しました》
「これで料理チュートリアルは終わりだ。定食屋みなとではレシピも売ってる。これから贔屓にしてくれよ」
「はい、また来ます」
―――獲得スキル―――
料理スキルレベル0
食事を作る
VIT+1
―――獲得報酬―――
200C
味噌汁(3食)
味噌汁の入った器×3
「あれ? いつもより報酬が多い」
「今回は出汁を多く作ってもらったからな。出汁の報酬だよ」
「ありがとうございます!」
さあ、ホーム・ポイントに戻ってログアウトしよう。




