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雪の日の贈り物

久々の投稿です。

ほんとに久しぶりすぎてあまりいいできとは言えませんが、読んで感想かなにかいただければ幸いです。

 今は幼き中学1年の冬。


 比較的暖かいこの町には珍しく雪が降った。


 珍しいこともあるものだ、とその頃の僕は小生意気にもそう思い、今思い返せばもう少しはしゃいでも良かったのではないかと思える。


 しかしその日、僕にとって雪と同じように衝撃を与えたことがあった。


 であったのだ。 雪のように白い女の子に。


 それは帰宅時での出来事。


 母から今日は雪だからと傘を持つようにいわれ、逆らう理由も特になく黒い傘を片手に登校下校をしていた。


 その日の登下校時の風景はいつもと違っていて、この街に白い粉をまぶしたかの如く、綺麗な白に染まっていた。


 きれいに染まった街に初めからそこにあるかのように、女の子はそこに立って いた。


 その女の子を白いと思ってしまったことについては自分でもよくわからない。


 格好は清潔感漂う綺麗な冬物のセーラー服に若干黒よりの青といった色をしたブレザーを羽織っているといったごく一般的な格好で、腰の辺りまで伸ばしている艶のある黒髪がとても印象的だった。


 ただ、その女性は傘を持っておらず、しんしんと降り注ぐ雪を何処か儚げな様子でただ見つめていた。


 僕は女の子に近づき、自分が今さしている傘を女の子の目の前に差し出すと、女の子は首をかしげたので、無理やり傘を手渡すと僕は振り返ることなく駅へと急いだ。

 


  ◆◇◆◇◆


 翌日も雪が降った。


 二日連続でこの町に雪が降るとなると異常気象なのではないかと疑いたく なってくる。


 昨日僕は白い女の子、もとい白い印象を受けた女の子に傘を貸したので、今日は父の傘を借りている。


 僕は昨日、何故彼女に傘を貸したのかよく分かっていない。


 僕が善意をもって行動したのだとすれば褒められる行いだと思うが、そんなに綺麗な理由で貸した訳ではないような気がしている。


 では、下心満載で近づいたのだとすれば、何もせずに帰ったのはおかしい気がする……


 昨日僕の心に宿った気持ちはモヤモヤして、降り続く雪と同じように少しずつ僕の心に積もっていく気がしていた。


 学校につき、クラスに入ると昨日今日と降り続く雪のことで話題は持ちきりだった。


「お、よぉ! 雄太!! 今日の放課後クラスの奴何人か誘って近くの公園で雪合戦しよう と思ってるんだが、お前もどうだ?」


「ごめん、今日はちょっと用事があってね」


「なんだ? コレでもできたか?」


 そう言ってにやけながら小指を立ててにやけながらこっちを見てくる友人に笑って誤魔化しながら窓際にある自分の席へと腰を下ろし、昨日と降る勢いの変わらない雪をただ見つめていた。


 今日一日の授業が終わり、僕はそそくさと教室を出た。


 なんだか会えそうな気がするのだ。


 昨日彼女と出会った場所に行けばもう一度会える気が。


 気づかぬうちに早足になっていたらしく、少し息の上がった状態でたどり着くと、そこに彼女の姿はなかった。


(僕は何に期待していたんだ……)


 頭を掻きながら口元に苦笑いを浮かべ、駅に向かおうと踵を返した時、どこ からか女の子が声を掛けてきた気がした。


「あの……すいません」


「……はい?」


 自分かどうか確かめるために、周りを見回してから返事をしてみる。


「あ……えっと……昨日は傘を貸して下さりありがとうございました」


「………………」


「ちがいましたか……?」


「あっ、いえ! あってると思います」


 まさか本当に会えるとは思ってなかったかので、顔を合わせたときは言葉がうまく出てこなかった。


「あの、これ」


 そう言った彼女の手には、確かに僕が昨日貸した傘が握られており、僕は慌ててそれを受け取った。


「にしても、よく僕だってわかったね」


「制服と雰囲気でなんとなく……」


 恥ずかしそうにしている女の子を見ながら、以外に大胆なとこあるんだな 、と思った。


「立ち話もなんですし、よかったらあそこの店でお茶しませんか? その、お礼したいですし」


「気にしなくていいのに」


「あなたが良くても、私がよくないんです」


「……まぁ、ここで立ち話しているよりはいっか」


「はい! そうです」


 嬉しそうに微笑む彼女はやはり何処か雪に似ていて、儚げな雰囲気をまとっている気がした。


 彼女とはこの後も何度か一緒にお茶する機会があり、彼女のことを色々知ることができた。


 名前を深雪ということ、おんなじ中学の同い年だってこと、そういう普通のことを普通に教えてくれる程度だったが。


 ただ、一度家族のことを聞くと深刻そうな顔をしたのできっとなにか複雑な事情でもあるのだろう……


「雄太くんはさ、雪 になりたいって思ったことない?」


 最初に出会った時と同じような、儚げな雰囲気を纏ってそう言ってきた。


「きれいに降り注いで、綺麗なまま消えていく……そうすれば誰を傷つけるでもなく、別れる辛さもないまま消えることができるのに……」


 その時の深雪の言葉の意味がよく分からなかったが、このあとどういう意味かなんとなくだが分かることになる。


 後日、深雪とはぱったり会わなくなった。


 最初のうちは、時間の都合が合わなくて会えないだけだと思っていたが、一週間二週間と立っていくうちになにかあったのではないかと思えてきて深雪のクラスを訪ねてみると、そこには既に彼女の姿はなかった。


 クラスの人に聞くと、彼女は親の都合で転校したらしい。


 その日 は、雪が雨に変わっていた。



 ◆◇◆◇◆


 あの日から数年経ち、大学を卒業し就職も決まった時期に、久しぶりに彼女と出会った場所へと出向いた。


 彼女と会えなくなってから、僕は一歩を踏み出せないでいた。


 高校にしても大学にしても、ここに行けばもしかしたら再び彼女に会えるかもしれない。


 僕は心の片隅でそう思ってしまっていた事を否定しきれないでいた。


 再び会って話したいわけじゃない、別れを言ってくれなかったことに対して文句を言いたいわけでもない。


 ただ、彼女の姿を、あの儚げな雪のような女の子のことを、僕の中でもう終わったことだと切り捨ててしまいたいのかもしれない。


 そのためにここに来た。


 ここの風景は変わってい らず、見ているうちに胸が苦しくなるのを感じながら、ウロウロしているとそこには彼女の姿があった。


 そこに立っている女性が彼女だとは言い切れないかもしれない……だけど、なぜか僕はその女性が彼女であると確信を持って言えるきがした。


 彼女に声をかければ、またあの幸せだった時間を過ごせるだろうか


 ふと、そう思ってしまったことを完全に否定し、足を進めた。


 すれ違いざま、彼女が振り返った気がしたが僕が振り向くことはなく、どこかスッキリした表情でいつもよりも少しだけ大きな一歩を踏み出すことができたようなきがした。


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