お偉い人の前で膝をつく風習がない私にとってイルミスにいつも私の頭を思い切り下げられるのはびっくりする。
昼も過ぎそろそろ夕方位の時間に一行は城へとたどり着いた。
「ルーツ姫様が戻られたぞ!門を開けろ!」
そう城の門番が叫ぶ。
そうすると木と鉄で出来た門がゆっくりと開いていく。
「着いたぞ。ここが私の城だ。」
鈴はそう言われると馬車の前から顔を出した。
そこには石レンガでできた大きな城が有った。
「ふぉおおおおおおお!すげええええええ!!!本物だああああああああ!ファンタジー最高!!」
「アイリス、鈴は何を言っているのだ?」
「わからない。」
「おい鈴!何か思い出したのか?」
「え?あ、いや、何も思い出してないんだけど、なんかすごいなーって思ったの。」
「そうなのか。」
「でも鈴ってそう思わなさそうな服来てたわよね?そこらと記憶が合わないような。」
「う(ヤバイ!感動しすぎて状況がヤバイ!)。…ちょっと頭が…。」
「大丈夫か鈴?」
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう(セーフ!いやぁ危なかった)。」
三人がそんなやり取りをしていると馬車を操作していた兵士が声をかけてきた。
「ルーツ姫様、お着きになりました。」
「うむ。ご苦労、二人共降りるぞ。」
三人が馬車を降りると付いてきていた兵士とイルミス達が立っていた。
「お前たちご苦労だった!イルミスと鈴とお前は私と一緒にお父様のところへ行くぞ。」
「ハッ!」
「え?お父様って王様だよね…ですよね?」
「そうだが?」
「えええええええ!!王様!お城!お姫様!ファンタジー最高!ひゃっほおおおう!」
「鈴…やはりどこか頭を打ったのではないか?」
「あ…だ、大丈夫です。」
「……?」
イルミスはそんな鈴の言動を見ていて疑問を抱いていた。
いくらなんでも記憶喪失と言えどもここまでの言動は起こさない。
そして一つの結果にたどり着いた。
"これは何かしらの記憶が有り、ただ単に新しい物に珍しがっているだけである"っと。
イルミスは鈴に声を掛けようとしたがアゼリアが近くに居るため、それは出来なかった。
「それ以外のものは解散!持ち場にもどれ。イルミスパーティはそこのものに案内させる。それでは行くぞ。」
アゼリアは兵士の一人とイルミス、鈴を連れて城の中へ入っていく。
扉は前に居る兵士が全て開けていき、三人開けられる扉をただ歩いているだけだ。
やがて一際大きな扉の前に到着すると兵士が扉を開けた。
「お父様!」
「娘よ!」
「聞いて!私ついに襲われたんだ!」
「なんだと!?何処のどいつにだ!?」
二人は大声で話していたと思えばアゼリアが国王の方へ歩み寄り耳元でささやいた。
「教皇派。」
「…ついに手を出してくれたな…。」
「で、これからお礼参りに行ってくる。」
「…何をするつもりだ?」
「何。ただの挨拶だよ。私を狙っても無駄なことを表す為の。」
「本当に大丈夫なんだな?」
「大丈夫。最高の護衛がいるからな。」
「それは彼処に居るの男か?」
「いや、女の方だ。鈴と言うのだがこれまた面白い武器を使っていてな…」
「ふむ。我が娘がそう言うなら、そうなんだろう。」
「さっすがお父様!わかってくれるぅ!」
ルーツが騒いでいると国王がイルミスと鈴に声を掛けた。
「さて…詳しいことを聞かせてもらおうか?」
「ハッ。襲撃の件ですが、エヴィンが襲われたことはご存知かと思われます。それはルーツ姫様を襲撃し殺害、あるいは誘拐する大きな陽動だったのです。それをこの隣に居ます鈴が――」
イルミスは鈴を片膝着かせると話の続きを始めた。
「鈴が見抜き、ギルドに交渉し情報を開示させてもらいました。そして情報通りルーツ姫様達を待っていたところ盗賊が襲いかかりました。」
「ふむ…。盗賊をまとめあげるなど教皇派にできるのか?いや…しかし…。」
「そしてここまで来る道中でもう一度襲撃がありました。それはリビングアーマーの集団でした。」
「リビングアーマー?」
「横から失礼します。リビングアーマーとは魔石を核に動く鎧の事です。とても高価な物かつ、操作が難しい禁忌上級魔法に分類されます。」
「そうなのか。」
「そして鈴がリビングアーマーの核を見つけ出し皆それと同じ場所に攻撃することで突破致しました。ここからは鈴が詳しいので説明を変わらせて頂きます。」
「え!?あ、あのぅ…。」
「良い。緊張するでない。」
「は、はひ!(まずは深呼吸…!)ひーひーふー。」
「(それは違うと思うのだが…)」
「え、えっと!襲撃の際鈴に護身用にグロッグ18と言う名前の銃を手渡しておきました。私は外でリビングアーマーと交戦していたところ馬車の中から銃の発砲音が聞こえて来ました。私が一番に中に入るとローブを着た何者かが死んでいました。」
「死んでいた?それに銃と言うものは何なのだ?」
「こういう物です。」
そう言うと鈴はアゼリアに手渡した銃と同じものを取り出した。
黒いフォルムに小さい形。グロッグ18である。
「?そんな小さい玩具みたいな物で人を殺せるのか?」
「お父様。あれは玩具ではなく本物の兵器だよ。実際に使ったからわかる。」
「ふむ。銃に関しては後で聞くにして、そのローブ姿の魔法使いは護身用に手渡したグロッグ18と言うものでアゼリアが殺したというのだな?」
「はい。その通りです。」
その言葉を肯定したと同時に場が騒がしくなった。
話を聞いていた貴族や兵士達が話し始めたからだ。
「魔法使いを何も術を持たないルーツ姫様が殺した?」
「相手が無能?いや、リビングアーマーを動かせる時点でそれは無いだろう…そうすると…。」
ここで国王から声が張り上げられた。
「静まれ!そのような話は外でやれ。…失礼した。イルミス、鈴達には二度も我が娘の命を救われたようだ。礼を渡さねばなるまい。」
「お父様、イルミス達に剣を与えてくれないか?リビングアーマーを切りつけたせいで刃が欠けてしまっているのだ。」
「そうか、なら特注品を用意しよう。それで良いか?」
「ハッ!有難き幸せ!」
「あ、私は剣は要らないで――グへ!」
「バッカ!お前国王様からの礼を断る奴が――」
「良いのだ。鈴には銃とやらがあるのだろう?なら剣は不要というのは当たり前だ。代わりに欲しいものは無いか言ってみよ。」
「え?欲しいものはありません。お気持ちだけで結構でございます。」
「無欲なものだな。普通の人間であれば金を欲するであろうに。」
「人助けにお礼なんて入りません。人はお互いに助けあって生きているのです。なので要りません。」
「素晴らしき考えだ。皆そういう考えで有れば争い事など起きないのだが…。」
「それは…無理です。」
「何故だ?」
「おい鈴!」
「人間は別々の自我、個性を持つ生き物です。人間全てが同じ思想を持ってしまったらそれこそ何もない世界になってしまいます。しかし、皆心の底で少しだけでも平和を望む心が有れば大きな争い事は起きません。人間という生き物は難しい生き物なのです。(あれ?私何言ってるんだろう。)」
「鈴!すみません国王様。鈴が無礼な事を。」
「いや、もっともなことだ。こっちが勉強になった。」
「(まったく、鈴の行動には驚かされる。…しかし今ので俺の推測は正しい。鈴は記憶喪失などではない。ただの演技だ。)」
「ではお父様、私は教皇派に挨拶に行ってくる故面白い報告を待っていてくれ。」
「分かった、気をつけて行ってくるが良い…しかしその男混ざりな喋り方はどうにかならないのか?」
「私は私だ!今更喋り方を変える気はない!鈴!イルミス!それとそこの兵士!行くぞ!」
そう言うとアゼリアは三人を連れて王座の間から出て行ったのだった。
「あ!解毒剤ってどこにあるんだ?」
「ルーツ姫様こちらでございます。」
「おお!こっちか!」
アゼリアは念の為に城で使われる最高級の解毒剤を用意し、ポケットに忍ばせた。
「二人共、何か有ったら今しまった物を私に使え。これは解毒剤と回復薬を調合したものだ。」
「ハッ!了解しました!しかし使わないように我々が盾になります!」
「頼もしい男たちだ。さて行くぞ。」
アゼリア達は城から出ると街を歩きはじめた。
お忍びの格好のままなので誰もアゼリアの事を姫だということに気が付かない。
「さて、鈴よ。お前には例の場所に行ってもらうぞ。」
「了解です。…場所何処ですか…。」
「行きに寄っていく。そこから頼むぞ、協会は目立つ。協会の目の前に宿が有る、そこが私を一番狙いやすい」
「ふむ。わかりました。」
アゼリアは兵士とイルミスに守られながら目的地へ目指して歩いていた。
その時イルミスが歩きながら不意に話しかけてきたのだった。
「鈴、後で話がある。」
「…?はい。わかりました。」
鈴はイルミスに一言言われた。
何のことだかわかっていない鈴であるが、イルミスは自分の中で確立した事を言おうとしていたのだった。
やがて一行は高い塔のような場所についた。
「ここだ。若干遠いがこの街で一番高い場所だ。街を見渡すことができる。見張りの兵士よ。この者が上に上がってる時はいかなる事があろうと絶対に誰も通すでないぞ。」
「ハッ!了解であります。」
「了解です。上で待機して待ってます。」
鈴は塔を登りはじめた。
それと同時に三人は教皇派の居る協会へ向かい歩き出した。
鈴は階段を疲れること無く上がり切ると辺り一帯を見渡した。
本当にこの場所は一番高く、街全体が見える。
そして一際目立つ白い建物の後ろ姿が見えた。
その前には何か看板が置いてある。
M24A3 を手元に出現させスコープを覗いてみる。
すると、看板は宿のものだとわかった。
「彼処が宿ってことね。ちょうど通路側になんていうのかわからないけど窓っぽいやつがある。狙うときに開けるはずが無いから元から開いている所に狙いを…ん~?」
鈴は有ることに気がついた。
窓は空いてはいるがちょうど協会の正面の窓が半分だけ開けられている。
鈴はそれを確認すると三人の動向を確認した。スコープを覗きながら三人を追跡し、怪しい人物がいないか確認していく。
やがて協会が近くなり宿の方面、狙いをつけた場所へ照準を向けた。
「何?中には入れない?」
「すみませんが今日はここでお話させていただきたく…。」
「しょうが無い。教皇を呼んでこい。」
「少々お待ちを。」
そう言うと教皇派の職員が中へ入っていった。
「まったく!せっかく来てやったのに中に入れないとは…やはり何か有るな。」
そう言うとアゼリアは頭だけを後ろに向け宿を見た。
ちょうど自分を狙える位置の窓が不自然に開いていることに気がつく。
「(鈴。頼んだぞ…。)」
職員が立派な扉をノックした。
「失礼します。」
「なんだね?」
「目標が来ました。」
「よし。では手筈通りに動け。」
「わかりました。」
そう言うと教皇は外へ向かって自室から出て行く。
職員は一足先に廊下へと出ると施設二回へ上がっていく。
そして窓をそっと開けると、隙間から鏡で宿の一室に向けて光を反射させた。
教皇は廊下を通り、聖堂を通り、外へ出るとニヤついた顔をしているアゼリアと護衛らしき人物二人が教皇を出迎えた。
「これはこれはルーツ姫様。時も夕暮れ、どうしましたか?」
「いやまたこの顔がみれて嬉しかろうと思ってな。」
「いやはや何のことでしょうか。姫様の顔は何度見ても良いものですよ。国民の象徴的存在なのですからな。」
「教皇派のリーダーのあんたがそう言うか。象徴はお前のところの偶像だろう?」
「ルーツ姫様聞き捨てならないですな。偶像とは一番最低な言葉ですぞ。」
「ふん。それはそうと私暗殺されかけてな。」
「なんと!ルーツ姫様が暗殺ですと!?これはいけない!施設内で話の続きをしましょう。」
「お、おう?いきなりなんだ。」
そう言うと護衛二人をどかすように片手と体を割りこませてくる教皇。
それを不思議がるイルミスと兵士の二人。
そして次の瞬間二人は教皇の策略を理解したのだ。
"護衛を遠ざけ確実に狙いを付けさせるために自分をマーカーにしたのだ。"
これにより暗殺者は暗殺対象を絞込み易くなり、教皇が抑えているので逃げることが出来ない。
イルミスは向かい側の宿屋の窓を素早く確認するとアゼリアと窓が直線的に不自然に開いているのが目に入った。
それは最悪な結末を予感させるには十分なものだった。
鈍く光る鏃が目に入ったのだ。
「ルーツ姫様!」
イルミスと兵士は直ぐ様アゼリアの後ろに回り込もうとしたがそれより早く悲鳴が木霊したのだった。